IB | ナノ

3/3

ルネの民と流星の民、両方の血を引き継いでいる……?そんなこと有り得るのだろうか。タウンマップを見た限りだと流星の滝とルネシティはかなりの距離があるし、両一族に交流があったなんて話も載ってないし……。


「流星の民は確かに数が減少傾向にあるが、ルネの民はその限りではない。ルネシティを中心に、比較的現代の文明文化に馴染んでいる彼らなら血を絶やす可能性は低いと考えられないかい?」
「そう……なのかな……」
「想像することに制限は無いからね〜。過程はどうであれ、ユニは“偶然にも”両一族の血を引き継いで生まれた稀有な存在。そして世界にそうであれと望まれある力を持って生まれたんだ」
「それは、ポケモンと会話できる力?」
「ブー!ヒントは……彼らの内1匹と大きな関わりがある」


そう言って指さしたのは黒い本に書かれた幻のポケモンたち。そういえば、時音はユニさんのことを知ってたみたいだし、もしかしてセレビィ?と言ってみるとハズレーと笑われた。
それじゃあヒントだと紫慧はまた芝居をするように仰々しく振る舞う。


「ユニはね、あるポケモンが力を大地に注ぎ込んだ瞬間に命が芽生えた。そしてその力を自分のものとして吸収し、独自に昇華させた」


……今更だけど、どうして紫慧はそんなことを知っているんだろう。白恵の中にいるもう1つの人格が、幼い子どもの中にいる存在が、本にも載っていない絵空事のようなことを知っているのは。不思議ちゃんの中にいる人格だから?


「彼の役割は彗星からエネルギーを受けとり、それを少しずつこの大地に注ぎ込み、エネルギーを供給すること。千年もの年月をかけ、宇宙からのエネルギーをこの星に作用できるよう濾過させる。地脈・水脈を通し、やがてエネルギーは世界中へ行き渡る。同じ場所で留まって眠っている彼の寝床は活性化して、珍しいポケモンが生息する豊かな環境を及ぼす程の生命に満ちた力をね。……ねぇ、ここまで聞いてなにか聞き覚えはないかい?」
「……それって」


ジラーチ。
決定的な名前を言わなくとも私の表情で答えを察したか、紫慧はよく出来ましたと笑った。


「そう。ユニはジラーチの力を取り込んだにも関わらず“人間”として生まれた。世界に創られた彼女の存在は、アルセウスも予期することができなかった」
「世界に……創られた……」


神と呼ばれるアルセウスではなく、この世界が求めた存在が……ユニさん。


「ユニは様々な能力を会得した。ポケモンとの意思疎通力、高い直感力に感受力……そして一時的にポケモンの持つ力を活性化させる能力」
「活性化?」
「うん。ポケモンの持つ固有の力をより高めるもの……と言うものかな。そんな彼女が世界に与えられた役目は“この世界を救うこと”だった。……いや、“治す”って言った方が近いかも」


自分でその道を選んだ訳でもなく、ただ世界に望まれ生み出されて、特別な力を備えられて。ユニさんはそれについてどう思っていたのだろう。今もこの世界のどこかで与えられた役目を果たすため、奮闘しているのだろうか。
ところで紫慧の言った“世界を治す”って一体……?


「言葉の通りだよ。この世界に起きた異変を元に戻すということ」
「……どうやって?」
「さぁ?でも一番手っ取り早いのは、ジラーチの目覚めに合わせて彼と接触し、“願い”として叶えてもらうことじゃないかな。だから世界も接点を持たせるために、ジラーチの力を基にしたんだから」
「でも、ジラーチは、」
「うん、もう眠ってる。そしてこの世界は治されていない。だからキミの出番なんだよ」


そこでどうして私になるの?私が、“ユニさんの娘”だから?まだ自分の中で実感が湧いている訳でもないのに、いきなりそんなことを言われても反応に困る。本当に困る。


「理解に苦しむって顔してるね。でもそろそろ認めた方がいいよ?もしキミが本当にキミの思うただの人間だったなら、どうして僕らの言葉を理解できて、関係ない世界の時空を超えてここに来れた?キミにユニの面影を感じた存在がいる、ユニと同様ポケモンの言葉を理解できてしまっている。本当に血の繋がりはなくとも、何か関わりがあることは明白だ。キミが待ったをかけても時は止まってくれないし、待ってくれないんだから」


……確かに、私がこの世界に来たという事象をただの偶然で片付けるには無理がある。もういっそのこと、全て認めてしまった方がかえって楽なんだろう。でも、あの世界で過ごした日々を無かったことにしたくない。あの2人に育てられたからこそ今の私があるんだから。

それに紫慧は、まだ私に話していないことがある。


「……ユニさんっていう人の力は分かった。私がどうしてもユニさんと関わりがあるってことも。でもどうして、そんな人を世界が必要とする事態になったのか、まだ教えてもらってないよ」
「…………。」
「あなたなら、分かるんじゃないの?まるで全てを見てきたように話して、全て知っているかのように振舞っているんだから。……私に世界を救えと言うのなら、私には知る権利があると思う」


紫慧は何も言わずただ微笑むのみ。子どもらしくない落ち着きをたたえたそれは「そうだね」と無言の肯定をしているようだった。


「破れた世界でステラは言ってた。“神様という称号を免罪符に好き勝手やってる”って。憶測でしかないけど、もしかして、」
「ユイちゃん」


やめなさいと紫慧は私の口を幼い人差し指でちょんと押した。でもその顔は眉を垂らし、口元は仕方ないねというようにに緩んでいて、本人もどうしたものか考えあぐねているように見えた。


「キミは知らなくていい。知らないままの方がきっと良い」
「…………。」
「でもキミは知りたがっちゃうし、運命は知らしめようとしてくるだろう。知らないままというのは不安だし、嫌だものね。その気持ちは分かるから……だから、さっきみたいにヒントをあげる」


紫慧はそう言ってゆっくりと自分の胸元に手を当てた。


「ステラの存在も、碧雅のことも気になるだろうけど……一番はボク。ボクと白恵がヒントだよ」
「2人が、ヒント……?」
「ふふっ、残念ながらお喋りはここまで!白恵が拗ねちゃうからボクは戻るね」
「え、待ってよ……!」


私の待ったを聞かず、紫慧はじゃーねーと手を振って力尽きたようにカクンと項垂れ、次の瞬間には白恵に戻っていた。肝心なことははぐらかされた気がするけど、確かに前進した。


(ユニさんは、世界を救うという役目を果たすためにこの世界に生まれた。そして、ユニさんは無理だったから、私にその役目が回ってきた)


でも、紫慧の言っていたジラーチの目覚めの期間はもう終わってしまったのに、どうやって世界を治せばいいんだろう。

新たな悩みと謎を残したまま、紫慧は飄々と舞台袖に消えてしまった。
ふぁーあと欠伸を零す子どもに戻った白恵を見て、私は一人静かに改めて思う。


(白恵と紫慧はどうして、こんなに色んなことを知っているんだろう)


まるで、空からやって来た天の使いみたい。
なんてまた突拍子もないことを思いながら、小休止のため飲み物を買いに席を立った。


prev / next

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -