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【ジラーチ。ねがいごとポケモン。千年彗星の現れる夜目を覚まし、7日間活動するといわれている。その分類に違わず出会ったもののどんな願いをも叶える力を持つ。他の幻のポケモンに比べて伝承・目撃例が極端に少ないが、ホウエン地方中央部窪地、ファウンスに眠り繭の状態で眠っているとされている】


(千年彗星?ファンウス?眠り繭?)


ジラーチの項目になると急に聞いたことの無いワードが増えた。けれどご丁寧にそれらについても簡単に解説されていたので参照しながらノートに書き留める。

千年彗星とはその名の通り、千年ごとに現れ7日間だ観測できる彗星のこと。ジラーチの目覚めの時期と観測時期がちょうど重なっており、ジラーチの腹部に付いている“第三の目”から彗星のエネルギーを受け取るという。

ファウンスとはホウエン地方カナズミシティ近くにある連峰。自然豊かなホウエン地方の中でも特に壮大な自然が広がっていて、珍しいポケモンが数多く生息しているという。何故このような広大な自然が育ったか、それは眠り続けるジラーチから彗星のエネルギーが徐々に大地に浸透していったからではないかと言われている。

眠り繭とはジラーチが眠りに入る際に現れる紫の美しい水晶体の姿。地脈・水脈と一体化した状態で眠るため、その際に上記のファウンスのように自然を活性化させる効果が現れたのではないかという。


(この本の著者さん、間違いなくジラーチに会いたかった……というか、興味があったんだろうな)


だってジラーチに関する記述が圧倒的に多いもの。確かに千年に一度しか目覚めない、願い事を叶えてくれる、とかロマンに溢れてるし。“どんな願い”も叶える……それは即ち、例えば私の元の世界に帰るという願いも叶えられるということだ。
とはいえ流石に話はそう上手く運ぶことはなく、千年彗星は近年観測された結果が出ていたので、ジラーチは現在千年の眠りについている。まあそうだよねと分かりきっていたけど、少し残念だった。

ファウンスがどの位置にあるのか、ホウエン地方のタウンマップを見ていると、ふと目に付いたのは“流星の滝”という地名だった。


(流星の滝……)


隕石がぶつかった拍子にできた滝らしく、その昔ある民族が暮らしていたとされている。ホウエン地方って、よく隕石がぶつかるなぁ。確かルネシティも隕石がぶつかったクレーターでできた街じゃなかったっけ。
そしてその民の名は“流星の民”といい、伝説のポケモン・レックウザを起源とするメガシンカの伝承を語り継ぐ一族なんだそう。


(流星の民の中でも、レックウザを呼び寄せる方法と力を備えた者を“伝承者”といい……、!)


伝承者。ある民族。それらに続いて連想されたのは、ある言葉だった。


“特殊な血筋と偶然が重なり、元は一部のポケモンに限定されていた能力が全てのポケモンに適応するくらい拡大した”


ステラが破れた世界で話していた内容がふと頭によぎった。有り得ない話かもしれないけど、ユニさんはもしかして、その伝承者だった……?


「惜しいねー、でも狙い所は悪くないよ」
「っうっひゃ!」
「あはは、ユイちゃんのリアクションは面白いねぇ〜」


どろろーんと逃げてった白恵が驚いた私を見てケラケラと笑っている。このガラリと変わった様子、まさか……。


「紫慧……?」


紫慧はそのわざとらしい笑みをさらに深くした。


「ピンポーン♪」
「な、なななななんで出てきてるの!?」
「シー。図書館では静かにしないと怒られてしまうよ?」


紫慧に注意されてハッと口を塞ぐ。すみませんと周りの方に頭を下げ、内緒話をするように紫慧に顔を寄せる。紫慧も私の隣の席に座り、私の読んでいた本を軽くひと読みした。


「……血は争えないね」
「血……?」
「これはボクの独り言〜」


おどけた様子の紫慧は次の瞬間には真剣味を帯びた表情を纏い、諭すようにユイちゃんと名前を呼んだ。


「流星の民はドラゴンポケモンを操るのに長けた一族。そして伝承者は“あくまでレックウザに限定された力”を持っているんだ。確かに彼らも特別な力を持つものの、ユニのそれとは違う。ユニはまず、“この世界”が求めたからこそ生まれた存在なんだ」


捲し立てるように話す内容と雰囲気は、凡そ子どものものとは思えない。けれど私は自然と紫慧のことを受け入れていた。


「世界が……求めた……?」
「そう。端的に言うと……天命かな」


“天命”

世界がそうなるように求めた存在が、ユニさん。

紫慧は講義をするように人差し指をピンと立てた。


「実はホウエン地方には流星の民以外にも、ある一族がいてね。その民の名は……“ルネの民”という」
「ルネの、民……?」
「そう。流星の民と同様、古の知恵を伝え繋いでいく民族だ。レックウザが降臨すると言われる空の柱の扉を開ける役目を持つものの、中へ入ることは許されない。空の柱へ登る者の力を試す役割も担っている。確かルネシティのジムリーダーもルネの民だったはずだなぁ」
「ルネシティ……」


以前カフェやまごやでお手伝いをした時に強盗さんから聞いた名前。あの時はそんな街もあるんだと大して気に止めていなかったけど、まさかここに繋がってくるなんて……。流星の民とルネの民という民族がいるのは分かった。けれど、その2つの民族がどう繋がるのだろう。


「そういえばあの人、私に似てる人がいるって……同じ黒髪を持った、女の人」
「へぇー。それは興味深い内容だね」
「……仮に、その人がユニさんだとしたら……じゃあ、ユニさんはルネシティの人で、ルネの民?でも流星の民もいい線いってるって……」


あれ、訳が分からなくなってきた。あの強盗さんの話を鵜呑みにしていいなら、ユニさんはホウエン地方のルネシティにいたってことになるけど、でも流星の民の伝承者に似て異なる力を持ってて……うーん?

紫慧はやれやれと首を振った。


「どうしてどちらか片方で考えるのさ。一緒くたにしてしまえばいい」
「一緒……?」
「ユニはその“どちらの血も引き継いでいる人間”だということさ」


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