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『……怒りで進化したのか』


晶がボールの中で複雑な気持ちを込めた呟きを零す。ハーデリアはその目を鋭くさせ、緋翠は勿論この場にいる全員を睨みつける。ヨーテリーはハーデリアが進化した姿を見て、唖然としていた。


『……匂う。敵の匂いだ』


その目は少しでも動けば今すぐにでも噛み付いてきそうな、有無を言わせぬ迫力があった。ハーデリアはギンガ団を睨み付けるが、ギンガ団は済ました表情で小さく鼻を鳴らす。


「ワレワレに攻撃を仕掛けようというのですか。……あのトレーナーのポケモンも奪われ、島のポケモンも回復してきている今、ここに長く留まる理由は無い。そもそも本来の目的は“これら”の戦闘データを取ること。目的は十分に果たしている」
『がァァぁぁ!!』


ハーデリアが鋭い牙を向けギンガ団に襲いかかる。ギンガ団はそれを軽く一瞥するとユンゲラーを繰り出し、その動きをサイコキネシスで止めた。


『がァァ……ァが……!!』
「お前たちの代わりなどいくらでもいる。進化したのは想定外だが……残り僅かなその命、精々彼らの足止めくらいは果たしなさい」
『や、やめて……!』


ヨーテリーがサイコキネシスで捕まっているハーデリアを助けるため、懸命に駆け出しユンゲラーにしがみつく。


『あんちゃんをはなして……!』


怖いのだろう、震えながらかみつくその攻撃は、ユンゲラーにほとんど効いていない。


「払え」


冷酷な団員の声がユンゲラーに指示を与え、スプーンを持っていた方の手でヨーテリーを薙ぎ払った。『ギャン!』と悲鳴に近い鳴き声を上げたヨーテリーは私の近くにまで飛ばされていた。

それを見たハーデリアの目は、理性を伴っていなかった。


『テメェらァ……!!』


ミシミシと嫌な音を立てながら、ハーデリアの体は徐々に動き出してきた。ユンゲラーのサイコキネシスで体が動けないはずなのに、ハーデリアはヨーテリーへの思いだけで動いていた。見開かれた目は血走っていて、怒りがヒシヒシと伝わってくる。ただその光景を見ることしか出来ない私でさえ、震えが起きてしまうほどに。


「……戻るぞ、ユンゲラー。もう彼らは捨ておきなさい」
『許さねぇ……ユルさねぇ……!オレたちが一体何をした?なんでオレたちが……弟が、こんな目に遭わなきゃならない?ただ自分たちの住処に住んでいただけで、何故だ!?』


テメェら全員、噛みちぎって……地獄に落としてやる!!


咆哮のようにそう叫んだハーデリアの体が眩く光り出す。また、進化をするの……!?


『こんな短時間で進化……?おかしい、体が間違いなく悲鳴をあげるはずなのに』
「これが、ステラの力を入れられた……影響……?」
「ご主人気を付けて。ムーランドが来る」


サイコキネシスの拘束を解き、ハーデリアの体は光の中で変化を遂げる。更にどっしりと大きくなった体に、地面に触れるほど伸びた髭。“ムーランド”と呼ばれた新たな姿に進化したハーデリアは、先ず咆哮した。


『うわっ!?』
『ぐっ!』


紅眞と緋翠が咆哮を受けると、2人はボールに自動的に戻ってしまった。入れ替わりで出されたのは、碧雅と晶。“ほえる”で自分に不利なポケモンを戻させたんだ……!
続けて晶に向かってこおりのキバを差し向けるが、晶はそれをかえんほうしゃで威嚇する。けれど怒りに満ちたムーランドには効果がなく、炎の中を突っ切って突撃してきた。


『っくそ!』
「碧雅、シャドーボールを目の前へ放って!」
『……そんな悠長なこと言ってたら、こっちがやられるよ』


そう言いつつもちゃんと指示通りシャドーボールを放ったおかげで、ムーランドは目の前に現れた物体に堪らず足を止め、こおりのキバでシャドーボールを噛み砕く。私はその間洞窟内を軽く見渡した。


(ギンガ団は……いない!?)


先程戻ると言っていたが、ムーランドに目がいっていたせいで、見逃してしまったんだ。恐らくユンゲラーのテレポートで逃げ出したんだろう。カイちゃんを追いかけていた団員はどうなったのか知らないけれど、恐らく彼も脱出手段は持っているんだろう。
おまけに彼らを捕らえていたモンスターボールも壊されていて、完全に私たちをここで始末するつもりなんだ。……そして、彼らをも見捨てたんだ。


『あんちゃん……!』
「ヨーテリー、危ないよ!」
『でも、あんちゃんが……』


ヨーテリーが怒りに身を任せたムーランドの元へ駆け寄ろうとするので、堪らずそれを止めてしまった。いくら身内とはいえ、今のムーランドに近付けさせるのは危なすぎると感じたから。それにこの子はまだ、怯えているけどちゃんと理性が残っていた。


『何してやがる?』
「……!」


いつの間に、こんなに近くにいたんだ。でんこうせっかで白恵を突き飛ばしたのだと理解したのは、遠くに白い影が岩にぶつかっているのが見えたから。紅眞と緋翠のボールを繰り出すには時間が足りない。彼と対峙できるポケモンは……いなかった。


『人間の汚い手が……コイツに……触るんじゃねぇ!』


ムーランドの鋭くとがった牙が私に襲いかかる。真っ赤な口の中、白い刃がぎらりと唾を纏って輝いた。


『ユイ!』


──初めて、彼の焦った声を聞いた。


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