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「そういえばご主人、ミオシティでジム戦は行うんだろう?誰を出すのか決めたのかい?」


夕食後、璃珀と私で片付けを行っている時に不意に投げかけられた疑問。ミオシティには図書館だけじゃなくジムもある。誰を出すかはまだ、決めていなかった。


「全然考えてなかった。えーと……何タイプのジムだっけ」
「はがねタイプだね。俺たちの中だと紅眞くんが適任かな」
「はがねってことは……碧雅、緋翠、白恵が不利。合ってる?」
「うん、正解」


手持ちの内半分が相性不利。中々厳しいかもしれない。向こうが何体繰り出して来るか分からないけど、今回は紅眞、璃珀、晶中心に戦略を立てていくことになる。


「まずはコトブキシティまで戻るのが先だろう。このペースだといつになるか分かったもんじゃない」
「そうだよねぇ〜」
「晶。貴方が空を飛んでいくことはできないのですか?」
「断る。何故わざわざちんちくりんの醜た……旅路はちんちくりんの体力を鍛えるためにも良いだろう」
「明らかに“醜態”って言おうとしたよね」


なんだ!私が212番道路で泥沼に顔からこんにちはしたみたいな様子を眺めていたいってか!緋翠が「そうですか」とにっこり笑っていたけど、恐らく本音はバレている。
そして食後のアイスを食べていた碧雅が緋翠を見つめながら言葉を発した。


「……緋翠、テレポートで行けないの?」
「ソノオタウンまででしたら、可能だと思いますよ」


なんですと!?

その瞬間、私の体に雷が走った。


「私がマスターと初めてお会いしたのがソノオタウンに繋がる洞窟、“荒れた抜け道”でしたから。ソノオタウンにならテレポートできるかと」
「なんでそれを早く言ってくれなかったのぉ〜!」


そしたらあの212番道路に時間を取られなかったのに!雨に洋服はずぶ濡れ、足元は泥で汚れることもなかったのに!


「も、申し訳ございません!長距離のテレポートは確実性が低く、マスターを安全に移動させるにはヨスガシティからの方が確実なもので」
「な、なるほど」


確かにヨスガシティはシンオウ地方の中心に近い場所にあるからね、そっちの方が色々やりやすいのかもしれない。だとしても、もう少し早くその情報知りたかったよ、緋翠。
でも考え方を変えれば、これでコトブキシティに早く行く手段が立ったということ。


「それじゃあ明日は緋翠にソノオタウンまでテレポート、お願いしてもいい?」
「はい!お任せ下さい!」


名誉挽回、と言う訳では無いけれど。胸に手を当て、パァと輝かしい笑顔で緋翠は答えてくれた。




「…………ふ、ゎぁ〜……」


夜中。ふと目が覚めた。夢を見ていたわけでもないけど、意識がなんとなく浮上して、そのまま暗い室内が目に映る。
ぼやけた視界をゴシゴシ擦って、徐々に意識がはっきりしてきた。喉が渇いたからお水でも飲もう。

コップに水を入れごくごくと飲む。うん、冷たくて美味しい。
窓を開けて寝ていたので、風がカーテンを揺らし、涼しい風が部屋を吹き抜ける。ヒュウウ、と流れる音と室内の静けさが、気持ちいい。


…………♪……♪……


「……?」


風に紛れて、何か聞こえた。旋律、のような。

バルコニーに出て、もう一度耳を澄ます。


……♪……〜♪♪…………♪……


聞こえる。弦楽器の音のような、高い音。


(こんな夜中に?)


私が起きたのは偶然で、街の明かりはほとんど無い。時間は分からないけど、かなり遅い時間なのは明白だ。……ちょっと、ホラーな展開はやめてよ。でも、このミステリアスな旋律はなんなのか、正体が気になる自分もいる。
でも流石に、こんな夜中に外に出る訳にはねぇ。

するとポン、と肩を叩かれた。ぎゃあと叫ばなかった自分を褒めたい。


「こらご主人。こんな時間に何してるんだい」
「り、璃珀……」


肩を叩いたのは璃珀だった。良かった、オバケじゃなくて。なんだか、グランドレイクの出来事を思い出すな。
こんな時間に起きてる理由を詰められたので、正直に不思議な音を聞いたことを話す。璃珀もバルコニーにやって来て、耳を澄ますけど彼は聞こえないと首を傾げる。ポケモンの方が人間より五感がいいのに、そんなことある?


「なんだか穏やかじゃないね。ご主人、気にしないで早く寝た方がいいよ。それとも俺がまた寝かせてあげようか?」
「ブラックジョークやめて!?…………?ねぇ、あれは?」


ふよふよと、月明かりに照らされるヨスガシティの道に漂いながら進むモヤ。そのモヤは時々、球体のような物が奥に見える。よく見るとそのモヤは他にもあり、一箇所に向かっているようだった。


「あれは……ゴース?ロストタワーの方角からやってくる個体が多いね」
「……!あ、また聞こえる」


旋律がまた聞こえる。その音に導かれるように、ゴースたちは一つの建物に向かっている。私たちは顔を見合せ、互いにうなづいた。


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