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それから数日が経ち、碧雅も無事退院の許可が降り、私たちは久しぶりにノモセシティの外に出ていた。212番道路に続く道の前で、群れの代表としてティナちゃんが見送りに来てくれている。


「これ、グランドレイクの電話番号。何かあったらあたしに言伝があると伝えてかけてきて。オーナーと従業員は事情を知ってるから」
「ありがとうティナちゃん」
「……本当はポケギアを持ってればいいんだけど、流石に水中には持っていけないから」


ティナちゃんとは貴重なポケモンの、しかもヒカリちゃんに次ぐ女友達だから、お別れするのは正直寂しい。ティナちゃんは碧雅の入ったボールを見つめていた。


「まだ出てこないのね。本調子じゃないのかしら」
「さっき調子を聞いた時は問題ないって言ってたけど……本人の気分もあるんじゃないかな」
「まあ、212番道路はぬかるんだ道が多いからボールから出たくないのかもしれないわ」


ティナちゃんが小さく息を吐き、改めて私を見つめる。徐々目元に涙が浮かび、別れを惜しんでくれているようだった。どちらからともなく、力いっぱい抱きしめる。


「気を付けて、何かあったらすぐ知らせて。あたし、いつでも駆けつけるから」
「大丈夫だよ、大袈裟だなぁ」
「……あなたね、自分が思ってる以上に無鉄砲で危ういのよ。周りは気が気じゃないのよ」


あれ、ティナちゃんが信じてないと訴えるような目で私を見つめている。


『璃珀、師匠と別れるんだから何か言わなくていいのかよ?』
『えっ。い、いや、今回はご主人に譲ろうかなと……』
『へなちょこだなロン毛』
『へな……!?』
『どう考えても今のティナの思いの比重、ユイに偏ってるしね。普段の余裕ぶっこいた態度はどこ行ったわけ世界一美しい海蛇』
『今日はやけに辛辣ですね、碧雅』
『りーちゃん、ふぁい、おー』


ティナちゃんと別れの抱擁を済ませ、体を離そうとした瞬間、ティナちゃんが耳元に顔を寄せた。


「知ってるかもしれないけど、あたし、本当は“ティナ”って名前じゃないの。お父様に頂いたお名前があるんだけど、その……ちょっと人前で使うのが恥ずかしくて」
「そう、なの?」
「あなたはあたしの大切なお友達。だからあなたには本当の名前を教えるわ。どちらで呼んでも……か、構わない、から」


内緒で教えてもらった、彼女の名前。やはり恥ずかしいのか顔を離したティナちゃんの顔は少し赤く、目線は私を向いていない。
私はもう一度、(恐らく本当の名前を知ってるであろう璃珀には悪いけど)ティナちゃんを思いっきり抱き締めて、聞かれたくないだろう碧雅たちに聞こえないように、最初で最後の本当の名を呼んだ。


「またね、逞那ちゃん」


ていな。

逞しく、美しいあなたにぴったりな、素敵なお友達の名前だ。


「……えぇ、良い旅を」


ティナちゃんの姿が見えなくなるまで、私は歩き続けながらずっと手を振り続けた。ようやく視界から彼女の影が消えて、寂しさを感じつつ空を見上げると、ギャラドスを彷彿させる綺麗な青空が広がっていた。


(……よし、行くぞ)


気合を入れて踏み出した第一歩は、みごと泥濘にハマってしまい、ドボンと泥の中へ。そしてボールから響くみんなの笑い声。


『ぶっ!!』
『ハッ!無様なものだなちんちくりん!』
『……ぷっ、……くす……』
『笑ってる場合ですか皆さん!マスター、転んだ拍子にどこか痛めてはいませんか?』
『ユイちゃん、どろんこだらけー。ぼくもやるー!』
「白恵これは遊んでるわけじゃないから!」


この光景は、僅かでも日常が返ってきた証。






『……けほっ』


そして着実に、物語は動いている。


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