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「消え……た……?」
「!後ろだ、ユイ!」


後ろ?何か察知したらしいステラが私の方を向いて忠告する。後ろをゆっくりと振り返ると、そこには何もいない。


「何もいないじゃ……!?」
『ほう。別空間に身を潜めた我を見定めるか』


ギラティナが私の背後から突如姿を現した。いや、現したと言うより、空間からヒビを入れて出てきたと言うべきか。ギラティナの出てきた空間からガラスが割れたような穴が残る。赤い目と黒い翼、まるで百足を連想させる背筋が凍るおどろおどろしい外見に凄まじいパワーを秘める目の前の破れた世界の主に私は目が離せなかった。


『汝を死なすは我らの本意に在らず。帰郷を望むのであれば暫し待て、奴を始末し帰してやろう』
「……どうしてあなたはステラを襲うの?」
『……全ての始まりは、奴らの……いや、どちらかといえば、“我ら”でもあろう。だが我らはこの世界を守るためにここに在る』
「でも、あなたも神様でしょ?誰かの命を奪って守る世界ってどうなの?」
『……神を、』


ギラティナの目は敵意を見せてはいなかった。私を見下し、吐き捨てるような冷えた眼差しを向けていた。


『御心を生きとし生けるものに対して都合の良いモノと認識し過ぎているのではないか、小娘よ』


彼らは、神と呼ばれるポケモンなんでしょ?どうして、そんな事を言うの?


『我らは人間を、ポケモンを守るためにいるのではない。我らは世界を、理を守るために存在しているのだ』
「……なん、で」
『汝は、』


“汝に関わったものではあれば全て平等に、人間とポケモンを守れとでも言うのか?”


『それが例え、理を翻す“化け物”であったとしても。この世に存在してはならないイレギュラーなものであったとしても。生き続けることで世界を滅ぼすことになろうとしても、守れと言うのか』
「…………。」
『それこそ傲慢と言うもの。汝は御心の望むがままに、その役目を果たせ』
「うるせぇなギラティナ。その気持ち悪ぃ口閉じてろよ!」


ギラティナの言葉に返す言葉が見つからない中、ステラが禍々しい黒いオーラを伴ったあくのはとうを放つ。すかさず躱し距離を取ったギラティナと私の間に立ち、ギラティナに立ち塞がる。


「お前らこそ傲慢だろう、ギラティナ。勘のいいやつは気付いてるぜ、この世界がどこか“おかしい”ことに。それにお前らの都合でこいつを振り回すことこそ、それを傲慢と言わずに何と言う?」
『……貴様にかける言葉など存在せぬ。そしてこの娘に課すのは、』
「お前が“御心”と呼ぶアルセウスの使命?いや指令、良く言ってやれば運命ってか?……ハッ、お前らこそ神という称号を免罪符に好き勝手やってるな、“カミサマ”とやら」
『それ以上御心を侮辱してみろ、例え御心が許そうとも我が許さぬ』
「……できればお前とは、反逆していた頃に出会ってみたかったな」


ステラは息を思い切り吸い込み、声を張り上げた。


「時音!!来い!!」
「とき、ね……?」
「あんたも声を上げろ!あんたの方が届きやすいはずだ!」
「え」
『それを、我が許すと思うのか?』


ギラティナが翼を広げ、空間のヒビが徐々に直されていく。あのヒビはもしかして、元の世界の空間に繋がっているってこと……?
ステラが足を蹴り上げ、銀色に輝く足でギラティナを蹴り飛ばした。


「すっこめクソ野郎!」
『っぐ!』
「叫べ、ユイ!」
「…………お、」


戻れるのなら、戻りたい。またみんなに……会いたい。もっと一緒にいたい!


「お願い、助けて!時音さん!」


──目の前の空間のヒビが割れ、優しい光が溢れた。




◇◆◇




「……ん、……んぅ……?」


木漏れ日が顔に当たり、その光で目が覚めた。鳥ポケモンのさえずりが耳に心地よく流れ、森の静けさが微睡みから徐々に意識を浮上させていく。
目に入ったのは、金色の彼の瞳。


「お、起きた」
「……何この体勢」
「だって固い地面に寝たくねぇじゃん?」


いやだからって寝てる私を木にもたれかかせてその膝を使って寝ないでよ。ていうか人の寝顔見ないでよ。


「丁度いいぷにぷに加減で悪くなかったぜ」
「……どーせ足が太いですよーだ」
「おいおい俺褒めてんだけど」


教えてもらったけど、ここはジョウト地方のウバメの森という所らしい。そう言われてもどこか分からないけどね。


『……も、もしもし』


…………ん?今何か聞こえた?


「女の子に足が太いは禁句ですー」
「“太い”って言ったのあんたじゃん。フライドチキンを彷彿させる足って褒めてんだよ」
「どこが褒めてんの!?」
『もしもーし……』


静かな森の中で私とステラの声だけが木霊してる。……けどやっぱり何が聞こえるような……お化け?


「おい、フライドチキンを馬鹿にすんなよ。アレはヤベぇ。生まれて初めて存在してくれたことに感謝した。俺はフライドチキンは骨まで食う派だ」
「いや聞いてないし……さっきから何か声がしない?」
「ん?……あぁ、アイツか」


ステラは何も無い空間に向けて「時音」と小さく呟く。すると緑色の光が放たれ、緑の球根のような頭部と妖精のような羽を持つポケモンが姿を現した。


『す、すみません。来るのが遅くなってすみません、わざわざ気づいてもらってすみません』
「いや、そんなに謝らなくても……」


縮こまってペコペコ謝る時音という名前に反応したポケモン。……この子が、ステラの知り合い?するとステラは時音さんの特徴的な頭部の頭頂部を鷲掴みにし詰め寄った。


「よう時音。今回の件もそうだがお前ハクタイの森で俺を呼び付けておきながら出てこないってどういう事だよ」
『ご、ごめんなさぁーい!本当ならハクタイの森の段階で向こうを仕留める予定だったんですぅー!』
「……俺にそれ暴露していいのかよ」
『なのでぼくがちょっとあなたの時間をずらして呼んだんですー。……あれ、ユニ?』


時音さんが私を見る。驚いたように、大きな目を更に大きくさせて。


『ユ……ユニぃぃぃ!?』


さっきまでのオドオドして小さい声をしていたとは思えない、鳥ポケモンたちが驚いて羽ばたきたつくらいの大絶叫だった。


『ひ、ひぃぃあぁぁぁわわわわごめんなさいごめんなさいお願いだから睨まないでぇぇ!』
「え?……え、?私ユニって人じゃないよ?」
『そりゃこんなタマネギみたいな頭したセレビィでましてやビビりなぼくが森の守り神って敬われてたりとか未音たちと同格なんて信じられないですよねぼくもそう思うよ明らかに格が違うものぉー!……え、違う?』


早口で捲し立てる時音さんが顔を上げた。セレビィっていうポケモンなんだね。


「私、ユイって言うんだよ。……その、あの世界から助けてくれたのは、あなただよね?」
『……あ、うん。声が聞こえたのと、ギラティナが開けた空間を経てなら時間軸の移動だけで済むから』
「よく分からないけど、凄い力を持ってるんだね。時音……さん?助けてくれてありがとう!」


涙目になりながら目を何回も瞬きさせている時音さんの小さな両手を掴み、お礼を伝える。するとドバーという効果音が似合うくらい大号泣を始めた。


『……ぼ、ぼく……こんなに感謝されたの初めてだよぉー!ぼくはセレビィの時音、是非呼び捨てで呼んでよー』
「か、……可愛いぃぃぃ!」
「……おい、何時まで話し込んでんだよ」


セレビィの可愛さに堪らず抱き締めていると呆れたようにこちらを見ているステラに気づき現実に帰る。


「ここは俺たちのいた時間とどれくらいズレてる?あの世界に落とされた直後に戻せるか?」
「……え、なんで直後?」
「同じ存在が2人もいれるわけないだろ。あんたは元いた場所にそのまま待機、俺は戻った瞬間にでんこうせっかで立ち去ればそこまで大きな支障は来さないはずだ」
「な、なるほど」
『うーんと……大丈夫だねぇー。もう戻る?』
「そうだな……あ、待て!」


ステラが時音を制止する。なんだろうと首を傾げていると「ん!」と手を差し出した。え、握手?


「違ぇよ。約束のもん!」
「あ、名前か。……あんなドタバタやってる中で考えられる訳ないでしょ!」
「は?マジかよ。なら今考えろ、ほら!」
「いやそんなすぐに浮かばないし……」
「おい時音、辞書持ってこい。祠にお供えとかであるだろ」
『そんなの無いよぉー。……あ、でも借りるだけなら図書館から持ってくるよー』
「よし行け、30秒な」


私が止める間もなく時音は辞書を持ってくるし、ステラはステラで早くしろと急かしてくる。……借りるって言ってたけど、これ正規の手段で借りてないでしょ。でも時音も善意でやってる訳だしなぁ……。


「……はぁ」


仕方ないか、とため息を吐きながら私は辞書のページを捲るのだった。


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