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何はともあれ、今この破れた世界にいるのは私たちだけみたいだ。一緒にいる片割れが悪食な食欲の化身のステラなのが最悪だけど。今までとは違った意味で彼を見ていると、ステラは妙にスッキリしたような顔つきになり「……モモンの解毒か」と呟いた。そっか、あのポフィンはモモンのみを使っていたからどくけしと同じ作用が働いたんだ。……あれ、これじゃ敵に塩を送ってない?


「あんた向こうに戻りたいわけ?」
「そりゃあ勿論、そっちは?」
「んー、まぁ……?ギラティナのことは気になるけども」
「ギラティナ?」
「……お前、ユニの娘の割には無知だよな。まあこの世界と無縁な場所で生活してたなら無理もねぇけど」
「ねえ、そのユニってどんな人?私のお母さんなの?」
「おいそっからかよ」


めんどくせーと頭をかきながらボヤくステラだったけど、小さく息を吐きつつも説明してくれるようだ。……うーん、この言葉とは裏腹に行動はちゃんとしてくれるの、本当に碧雅みたいだな。


「俺も会ったことねぇからどんな奴かは知らねぇよ。かあさ……母親の記録で知ってるだけだし」
「えっ、お母さんいるの?そりゃそっか、そうだよね」
「お前の想像してる“母親”とは大分違うと思うけどな」


鼻で笑ったその顔は、どこか自虐的に感じた。空間の捻れた空と形容し難い上を見上げ、ステラは話し始めた。


「……“ユニ”はある偶然の産物で生まれた、アルセウスにとって貴重な自然的に発生したサンプルだったんだと」
「……サンプル?」


なんだ、その言い様は。仮にもアルセウスは“神様”なんじゃないのか。


「簡単に言えばな、お前みたいに“原型の言葉が分かり、心を通わせることが容易だった”んだよ。特殊な血筋と偶然が重なり、元は一部のポケモンに限定されていた能力が全てのポケモンに適応するくらい拡大した。で、俺の母親はユニの存在を知り、そいつを気に入り傍にいたあるポケモンに目を付けてそのポケモンを奪った。で、なんなかんや最強の俺が誕生した。以上」
「……???」


待って待って、最後らへん特に簡略化され過ぎてて意味が分からない。ていうか自分で“最強”って言うな。
えっとユニって人はつまり……私みたいにポケモンの言葉が理解できる能力を持っていて、でも私より特殊な人で、アルセウスも予期していなかった人物ってこと……?


「ん、概ねそういうこと」
「なんかスケールが一気に大きくなった」


ただでさえ創造神とかいうアルセウスが話に出てるだけでちんぷんかんぷんなのに。この世界は神様が多すぎるよ。時の神だの空間の神だの、三湖の神だの……。

で、そのユニって人が私のお母さんだと言われている所以は何だ。白恵も私がユニさん?の娘であることを肯定していたけど、いまいち実感が湧かない。
ステラは「あ、そうだ」と思い出したかのように私を見た。


「血飲んで分かったけどさ、あんた呪われてるよ」
「呪われてる?!どうして?」
「この辺の記憶、あんたがちびだった頃だから朧気なんだよな。ただまあ、あんたが以前いた世界に送られる直前にかけられたんじゃね?心配すんなよ、そこまで害ないし」
「……もっともな質問を聞いてなかったんだけど、何であの時私の血を飲んだの?それで何か分かるの?」
「血でも唾液でもなんでもいいけどさ、体内に吸収することでその物質が持つ記憶や情報を読み取るわけ。要はアプデな」


……アプデ?アップデート?その人の持つ物質を取り込むことでその人の情報がインプットされるってこと?


「ほんっっきでステラのこと気持ち悪いって思った」
「本人目の前にしてよくそんな事言えるよな、その減らず口削ぎ落としてやろうか」
「グロい怖いやめて!」


真顔で言うのやめて!そういえばいつの間にか普通に会話してるけど彼は敵だった!あまりにもさっきの食欲旺盛モードが印象的でつい砕けた態度になっちゃったけど、彼はティナちゃんたちや仲間に怪我を負わせた張本人なんだから。
まだ知りたいことは沢山あるけど、この世界から早く出たいしまた私の記憶を読まれたらたまったものではない。心も読めるみたいだし、今更ながら彼は本当に怪しい不思議危険の3拍子が揃ってる。


「じゃ、じゃあこの辺でさようなら!」
「はー?あんた絶対この破れた世界で生きれるはずないだろ。あ、そこの地面消えるぞ」
「消えっ!?」


一歩踏み出そうとした先が何故か突然消えて、忠告がなかったら危うく落ちてジ・エンドだった。ステラがバランスを崩して転びそうになった私のお腹周りを抑え、私は俵担ぎをされることに。


「ちょ……下ろしてよ!」
「この方が早いし楽だろ、俺が」
「私は生きた心地がしない」


見知らぬ世界で敵に担がれるってどんな展開よコレ。このままこの世界に落とされる可能性だってあるのに。


「この世界から出るんだろ。別にお前が野垂れ死にしようが構わねぇが、さっきの礼くらいはしてやる」


それってポフィンの件?どうやら私を落とすという展開は起こらなそうだ。……あれ、なんだか協力関係になってきてる?


「……私はリッシ湖でのことを許すつもりはないよ」
「お前に決められたくはねぇな。……舌噛みたくなかったら喋んなよ」


そう言い高く飛び上がったかと思いきや、空間が反転し天井のように浮かんでいた地面に着陸する。縦横上下、様々な位置にある島の重力や空間はどこもねじ曲がっていて、一歩進み間違えば空間のねじれに翻弄されて出られなくなりそうで。
初めから道が分かっているかのように進むステラは私を抱えているとは思えないほど動きが軽やかで、味方だとこんなにも頼もしいのかと複雑な心境になった。


「どこに向かってるの?これ」
「あんたと会う前、ここの土を調べてみた。どうやらこの辺はジョウト地方に近いらしい。ギラティナはこの世の裏側で反物質を司る神と言われているくらいだから、この世界も表の世界の全ての場所と繋がってるのかもな。……ってことで俺たちは今ジョウト地方の知り合いの元に向かってるわけ」
「出たアプデ。え、ステラって知り合いいたの?」
「今すぐここから落とされてぇか」
「ごめんなさい」


ジョウト地方は行ったことないけど、前に璃珀から話を聞いた時に和風の雰囲気漂う地方だと聞いたことがある。いつか機会があれば行ってみたいなと思っていたけど……。ステラの知り合いって誰だろう?それにこの状況で会えるの?会ってどうにかなるのかな。
頭で色んな疑問を浮かべていると、ステラは独り言のように作戦を話した。


「まずはギラティナをここに呼び出してこの世界の空間に亀裂を生じさせる。そしたら向こうの世界にも俺たちの声が多少届きやすくなるはずだ。それを聞いてあいつが来るかどうかは半信半疑だが……最悪ギラティナを倒して元の世界に戻させりゃいいか、よしおっけー」
「ちっともOKじゃない」


勝手に自己解決しないでくれるかな!?ギラティナってポケモンが、話を聞くにあの影の正体でこの破れた世界の主ってことだよね。それに反物質を司る神って言ってたから、ディアルガやパルキア……それらのポケモンと同格の可能性が高い。以前読んだ本に書かれていた、“隠された神”の正体が、あの影なんだろうか。
そんなポケモンを呼び出して空間に穴を開けさせて“知り合い”を呼び出す?


「なんか、“ギラティナと戦う”前提な作戦な気がするんだけど」
「お?あんたにしては察しいいじゃん」
「いや無理!」


いくらステラが鬼強くても無謀でしょう!
私の否定を一刀両断するように、ステラは平然と何言ってんだと言ってのける。


「俺は“そういう事”のために創られてんだよ」
「…………。」


俵担ぎが面倒になったのか、空間がまだ安定している小島に降り立ち私を降ろして見下ろしながら言うステラに私は何も言えなかった。
“そういう事”、“創られた”。そして彼の口から語られた“母親”の存在。そのキーワードが指し示すのものは、やっぱり。


「ステラは……ギンガ団の何かの実験で生まれたポケモンなの?」


噂ではプルートという科学者のお爺さんが連れてきたって言われてるけど、もしかして彼も緋翠同様ギンガ団の被害者なんだろうか。


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