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「そうか、あんたにとってあのギャラドスは地雷だったのか」
『……何が面白いんだい、きみ』


至近距離のハイドロポンプを喰らってもステラはまだ平然としている。いや、そもそもダメージを大して受けていないように感じられた。効果がない……?いや、そんなはず……。


「ククッ。いや、愛だのなんだの、くだらねぇと思ってな」
『そうだろうね、きみは少なくともそういうものに興味は無さそうだ』
「……そうだな。どちらにせよこの世界は、壊れることが決まってる。誰かを愛して何になる」
『……へぇ、それは凄いな。まるで神様のような口振りだね』


煽るような璃珀の言葉に、ステラの目が冷たく細まった。巻き付かれる身体をほどこうと璃珀の身体に打撃を打ち込もうとしたが、それは緋翠のリフレクターで防がれた。チッ、とステラの舌打ちが響いた。


『……本当に碧雅くんそっくりだね、何か心当たりは無いのかい』
「みやび?へぇ、そいつに名前なんて付けたのか」
「あなた、碧雅の事を知ってるの?」
「……知ってたとして、あんたに教えると思うか?」


……思わない。ただ、ステラは碧雅の事を知っているかもしれない可能性が浮上したのはひとつ収穫と言っていい。
ステラを拘束したとはいえ、ここからどうしたらいいものか。ずっとこのままという訳にも行かないし、と悩んでいると璃珀が大丈夫だと私に言った。


『もう手は打ってあるよ』
「…………え、?」
『俺が考えも無しに彼を拘束したりすると思うかい?ご主人にはまだ内緒にしてたね、俺が本当に得意な技』
「璃珀の本当に得意な技……?」


璃珀の得意分野と言えば、様々な状態付与じゃなかった?ほとんどの状態を付与することができたはずだけど、まだ見せてないものって……。
すると、ステラが何かに気づいたように目を見開いた。そのまま苦しそうに顔を歪め、吐き出すように咳をする。


「ゴフ、ッ…………あんた、まさか……!」
『ご明察通り、俺が得意なのは“毒”だよ』
『毒!?ですが、通常のミロカロスは使えないはずでは……?』
『幼い頃からメノクラゲたちと遊んでいたからね。彼らと過ごす内に俺も自然と毒を扱えるようになったみたいなんだ。だから前の住処では見た目といつ毒を撒かれるか分からない不安さで仲間から煙たがられていてね』


彼らに揶揄されていた“毒”という名前は……本当に毒そのものを指していたんだ。璃珀自身が“本当に得意な技”と言うくらいだもの。
でも巻かれた身体から喰らわせたその毒は確実に……ステラに効いている。


「ゲボっ、……っごホッ!」
『死にはしないよ。ただ、相当苦しんでもらうけどね。……数年ぶりに使った特製のどくどくだ、存分に堪能していくといいよ』
「…………ァ……ハァ、……良いなぁ……そう来なくっちゃなぁ!」


毒の影響で口から血を吐き出したステラは狂気を纏った目を思い切り見開き、口から緑色のエネルギーが詰まった球体を璃珀に向かって放った。さっきの至近距離のハイドロポンプの逆パターンだ。
緋翠が咄嗟にひかりのかべを出したけどそれは間に合わず、緋翠が『失礼します!』と私と倒れている碧雅を押しのけ、次の瞬間には爆発が起きていた。


「……あ、」


眠ったまま動かない碧雅の身体を抱き留める手に、力が篭もる。最後に見えた場面は、璃珀が私たちの為にステラを離さなかったところと、緋翠が既のところでひかりのかべを放ったところ。
煙が目にしみるけど、目を離すことなんてできない。ハイドロポンプの雨が服と髪を濡らし、髪の毛が顔に張り付いてなんとも言えぬ気持ち悪さを感じる。
未だ煙が漂う中フラフラと現れたのは、毒にやられていたはずのステラだった。


「……ぐっ……っ……流石にちっとマズイな……」


ただステラもこれまでの戦いと先程の毒ダメージの蓄積が重なったか、息も荒く身体がふらついていた。時々咳き込む姿はハクタイビルの時の碧雅を彷彿とさせ、心が痛むけど相手はそれ以上に親方さんやみんなを傷つけている。
そしてその金の目が私を、とうとう捕らえた。


「っ……お前……」
「いっ……!」


ギラついた目に怯んだ私の腕を掴み、勢いのまま押し倒される。べちゃり、と背中が冷たい水に侵食される。ステラと名のごとく星のように眩くその目から逸らそうとしても許されず、顎を掴まれ目を強制的に合わせられる。


「……へぇ。……あんた、エムリットに会ったのか」


なんで、それを知ってるの?


どくん


『…………この、……主から……はな、れろ……!』
『いい加減に……しやがれ……!』


孤島に倒れていた晶と紅眞が起き上がり、2人がかりでステラに襲いかかる。けれど後ろに目が付いているのかと不思議に思うくらい彼は振り返ること無く、私を押し倒している手と反対の手を後ろに向けた。


「邪魔」


一言、ただそう言って放たれる白の光線。はかいこうせんが2人を瞬く間に貫き、その威力は奥の森の木々を薙ぎ倒すまで止まらなかった。
2人がどうなったのか、ここから確認することが出来なかった。


「そうか、あんたは会ったのか……なんで?」
「!い゛っ!?」


腕を掴む力が強くなった。拘束を振りほどこうも私の力では彼に適わないのは明白で、最悪なことにステラは私の仰向けになった身体の上に乗りあがった。


「なあ、なんであんたは会えたんだ?」
「……しら、ないよ……!」
「あんた、他の世界から来たんだってな?……誰に送られた?」
「……な、なんで知って……」
「あんたの心を読ませてもらった……って言ったら?」


怖い、怖い、こわい。みんなをものともせず倒した彼が、血に塗れた口で笑った彼が、何もせず私の心を読んできた彼が、怖い。私の恐怖心が強くなるのと比例して、彼の腕の力も強まる。痛くて痛くて、骨の軋む音がして、生理的な涙が浮かぶ。


「…………なぁ、」


どくん


「あんたの骨を折って、あんたが叫び声をあげれば……あいつらは出てくると思うか?」


耳元で囁かれた恐ろしい言葉を耳にし、私は咄嗟に心の中で祈った。目をつぶって、この現実から目を逸らしたかった。


(誰か……誰か……)


どくん


「たす、けて……」


涙が零れ、自然と助けを口にした自分。嫌な音を立て続けた心臓は今も尚激しく高鳴っている。


そして視界は、白い吹雪一色に染まった。


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