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ノモセ大湿原のゲートの向こう側から、黒い煙が上がっているのが見える。中の人たちやポケモンは無事なのかな……。案の定、爆発地の大湿原には人が野次馬のように集まっていて、ゲート前にはオレンジの髪をした軟派そうな男の人が相手をしている。


「だーかーら、言ってるじゃないッスか。まだ中の怪我人を運んでる最中だから爆発物だの犯人だのの追跡は後だって……って、アンタは!おーい!」
「あれ、私に手振ってない?」
「自意識過剰。行くよ」
「無視しないで欲しいッスミラクルバシャーモのトレーナーちゃん!」
「もしかして、マキシさんのフローゼル!?」


ひっ、野次馬たちの目が一斉に私を見た。フローゼルが「やっべごめん☆」っててへぺろポーズしてるけど可愛くない。


「オラ来てやったぞゴラァ!」
「テメェらたむろってても邪魔なんだよ。大人しくウチ帰ってジムリーダーからの情報を待てやァ!」
「ひゃー、すっげー迫力」
「元々強面だから凄むと効果倍増だな」
「みんなおうちにかえってったねー」
「ギャラドスさんたち!?あと紅眞たちも?」


ゾロゾロとやって来たのは人型になったギャラドスさんたちと、ゲート前で偶然会ったらしい紅眞たち。ギャラドスたちが凄んだお陰か、野次馬は軒並み退散していて残ったのは私たちだけとなった。


「いやー助かったッス。やっぱその怖い顔は効果抜群っスね」
「チッ!……中の奴らはどうなんだ?」
「まだ救助の段階ッスね。マキちゃんが一足先に入ってて、俺っちは中に人が入らないように足止め係。でもそれもアンタらの誰か一人に任せれば良さそうッス」
「え、あれ……知り合い?」
「マキシがあたしたちを庇ってくれたことは知ってるでしょ?その恩義に報いて協定を結んでるの。非常時の際はお互い協力して助け合うことになってるのよ」
「お、お嬢!」
「姐(あね)さん!」
「「お疲れ様です/ッス!」」


……す、凄いティナちゃん。キッチリ90°でギャラドス全員に一礼されてるよ。しかもフローゼルにも。


「改めて師匠すげぇ」
「ご苦労お前たち。それでフローゼル、調査はこれからって言ってたけど目星は付いてないの?」
「……実は大湿原の従業員の一人が、怪しい人物を目撃したとの情報が入ってるッス」
「特徴は?」
「水色のおかっぱ頭に宇宙人のような格好をしていたらしいッス。大湿原のフロアを時間いっぱいまで歩き回ることなくすぐに出て行ったことから印象深かったそうッス」
「その特徴って……」


間違いない、ギンガ団だ!すると今まで黙っていた璃珀がギャラドスの数を数え、顔を青ざめた。


「待って欲しい。今これだけギャラドスがいるってことは……」
「……リッシ湖には誰が残ってる?」


状況を察した碧雅がギャラドスに確認を取る。怪訝な顔をしたギャラドスが数えながら誰が残ってるかを導き出した。


「まずは親方だろ?で、まだ戦えないチビども、あとは見張りに2、3匹…………、!」
「もし仮に、ギンガ団がリッシ湖を襲ったら……!」


いや寧ろ、この爆発はそのために起こされたのだとしたら……!私は緋翠に、ティナちゃんはギャラドスたちにそれぞれ指示を飛ばした。


「お前たちはノモセシティに残ってマキシの指示通りに救助に専念しなさい、終わり次第直ちに戻ること!」
「緋翠!テレポートで今すぐリッシ湖まで移動出来る!?」
『皆様をボールに戻してください、あそこまでの距離でしたら可能です』


言われた通りに全員をボールに戻し、緋翠の周りに立つ。緋翠がサイコパワーを増幅させ周りの空間がぐにゃりと歪んだかと思うと、次の瞬間にはリッシ湖の入口まで来ていた。


「ぎょぎょ!?なんだお前は!?」
「ぎゃー!!」


声がした方に顔を向けるとそこにいたのは正に探していたギンガ団員の一人だった。堪らず叫んでしまったけど相手もビックリして一瞬ひるんだ隙にティナちゃんが相手を拘束したから結果オーライだ。


「質問に答えなさい。ノモセ大湿原に爆弾をしかけたのはお前?」
「……ふ、ふん。お前の相手などしてやらんのだ……」
「そう。腕を折られたいのね」
「あ……アレはボスの発明した発電所のエネルギーを利用したギンガ爆弾だ!ノモセに仕掛けた爆弾の成果を報告するため、オレは今走ってトバリシティに向かっていたところだ!」
「“ギンガ爆弾”って……」
「相変わらずのセンス」


センスはさておき、爆発の威力は凄まじいものだった。大湿原を爆発に巻き込んでおきながら、あれが実験だなんて……。ただこの話が本当なら、リッシ湖を襲うと推測していたのは杞憂なのか。


「……ステラについて何か知ってる?」


私がそう問いかけると、ギンガ団員は首を激しくブンブンと振った。


「し、知らない!あの人はいつも個人主義で行動されてる方だ!今日だってオレがこの実験をすると聞いてからふらっと外に出て行かれて、ついでにあの人を探すよう言い渡されているくらいだぞ!」
「……どう思う?」
「嘘はついてなさそうね」


寧ろオレにあの人の居場所を教えてくれと懇願する団員はさておき、今日ステラは外に出ているということは分かった。……まぁ、シンオウ地方は広いからどこにいるか分からないけど。
とりあえずこの団員さんには申し訳ないけど警察に引き渡すためロープでぐるぐる巻きにして木に括り付けておいた。


「ユイちゃん」


みんなをボールから出していざリッシ湖に行こうとした途端、白恵が私の手を引っ張った。首を傾げて白恵の言葉を待つと、感情の読めない目で淡々と「ユイちゃんは、ここにのこったほうがいいよ」と言ってきた。


「あとはね、みゃーちゃんも」
「……僕も?」
「どうしてか、教えてくれる?」
「……おきちゃうの」
「起きちゃう?」
「うん」


“かのん”が、おきちゃうから。


ぞくりと、言いようのない寒気を感じた。抑揚のない喋り方と合わさって、無の感情で静かに訴えかける二色の瞳は、自分の興味を引くものがなくつまらなそうにしている子どものような、でもやっぱりどこか子どもらしくないような。


「かのん……」


白恵は時々、私たち以外の名前を呼ぶ。かのんに、みーちゃん。この名前の人物は一体、誰なんだ。
でも、今読んだ名前の響きには、聞き覚えがあった。昔、まだ私に物心がつく前に、誰かが呼んでいた……。

名前、響き、響鳴、共鳴、創奏、音色──音。

似た単語が次々と頭に浮かび、連想していくのと比例して徐々に周りの音が小さくなっていく。


ポーン


ピアノの鳴る音がした気がした。
一つの音が鳴り、また更に音が鳴り、順々に奏でられるそれは曲という世界を創りあげる。

世界という名の曲を、奏でる、誰か。


《この子をお願いね、叶音》


自分の意識の世界に取り込まれた私の頭の中に聞こえてきたこの声は、つい最近聞いたこともあるあの女の人のものだった。


「おい、こんな状況で変なことを言うなマメ助」
「わぁ〜」
「ちんちくりんもボーッと呆けて何をやってるんだ。今はリッシ湖に行きあの海賊眼帯どもの無事を確認するのが先だろう」
「……っ、あ、ごめん」
「マスター、顔色が良くないです。白恵の言う通りマスターはやめておいた方が……」
「ううん、大丈夫。私も親方さんの無事を確認したいし、あと紅眞との約束も伝えないとね」
「途中でぶっ倒れないでよね。運ぶの僕らなんだから」
「人間はボールに入れねぇから大変だよなー」
「姉さん、あの団員あのままでいいのかい?俺がホテルのフロントに言って警察を呼んでもいいけど」
「安心しなさい、簡単に意識を取り戻さないように手刀を落としておいたから」
「……しゅ、手刀……」
「すげー師匠!俺にも教えてくれよ“しゅとー”!」
「お前は意味を理解してから物事を喋るようになりなよ無駄に背高くなったんなら」
「最後のは完全に個人的な恨みだよね」


そして私たちは、数日ぶりにリッシ湖に入っていった。


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