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さて、紅眞のお祝いパーティーも無事終わり片付けも先程終わった。親方さんとの約束の期日は今日だし、早いとこリッシ湖に向かわないといけない。

けれどその前に、私はどうしても気になることがある。私の視線は璃珀と話をしているティナちゃんに向いていた。
璃珀がティナちゃんのことを好きなのはもう全員が知っていることなんだけど、肝心のティナちゃんの方はどう思っているのか。
勿論大事な家族だと思っているのは間違いないんだけど、少し、違和感を感じて。


(あの時、ティナちゃん顔赤かったよね……?)


思い返すのは初めてリッシ湖に来て、璃珀の誤解が解けて彼女たちの事情を知った時。あの時は私と璃珀が付き合ってる?と思ってたんだっけ……いやナイナイ。
顔が赤かったのは勘違いしたことに対する恥ずかしさかと思ってたけど……


(今はちっとも赤くない、やっぱり気の所為?)


うーんと首をひねる。悩みに悩んだけど、本人に直接確認した方が早い。出発前にティナちゃんを呼び、みんなと離れた場所に移動した。


「……そろそろ出発しなくていいの?」
「ひとつ、訊いておきたいことがあって。その……えっと……」
「?」


き、訊きにくい。そりゃそうだ。好奇心が勝ってつい行動に出てしまったけど、こういう事にしゃしゃり出るのはよろしくない。でも、もしティナちゃんが璃珀と同じ思いを抱いていて、今まで離れていたのなら……お節介なのは分かってるけど、仲間の為にも協力ぐらいしてあげたい。
だけど訊くのも勇気がいるもので、言葉に詰まって言いたいことが中々言えない。


「えっと……お、親方さん!紅眞が約束通りちゃんと勝ったってこと伝えたらどういう反応するかな〜?」


咄嗟に口から出てきたのは親方さんの話。いや、何言ってるの私。こんな話ならわざわざ呼びつけなくてもいいじゃないって言われちゃうよ。ティナちゃんは私を少し不思議そうに見つめながら「そうね」と口を開く。


「まさかただ挑戦するだけじゃなくて勝ってくるとはお父様も思わなかったでしょうね」
「あれ、勝ち抜いてくることが条件じゃなかった?」
「お父様は“戦い抜け”って言ったのよ。相性が不利な相手でもどこまで戦えるか、あの子の言葉に嘘偽りはないかを見るためにあの条件にしたんだから」


勝敗は関係ないわよ、なんて言うものだから私は思わず口を開け放心状態になった。そ、そうだったんだ……私はてっきり勝たなきゃいけないんだとばかり……。
そんな私を他所にティナちゃんは私に何かが書かれた紙を渡してきた。


「あの子たちのトレーニングメニュー。旅先でもできる内容に調整しておいたわ。良ければ使ってちょうだい」
「わ、ありがとう。紅眞もそうだけど、他のみんなも鍛えてもらって……」
「構わないわ。それより璃珀ったら、今までトレーニングサボってたわね。前より体が固かったもの」
「そうなんだ……?」


ミロカロスって蛇のような身体の作りをしてるから、寧ろかなりしなやかだと思うんだけど。そういえば紅眞がティナちゃんの修行を受けようとした時、いつもの余裕のある表情じゃなくなってたなぁ。リッシ湖に住んでいた頃は、ティナちゃんにバトルの指導とかしてもらってたのかな。ほんと、ティナちゃんには頭が上がらないって感じだね。


「……あたしからも、いいかしら?」


ティナちゃんに逆らえない璃珀を頭に思い浮かべ一人静かに笑っていると、突然彼女の方からこう言ってきた。もちろんと応えると、先程の私のように恐る恐る探りを入れるように問いかける。


「その、……あの子、どうして番を作らなかったのかしら」
「……つがい?」


その“あの子”は彼のことだと、ニュアンスで察した。


「人間の元に行けば絶対にあの子に合う子がいると思ったのに。……他のギャラドスから聞いたのよ、あの子、あなた以外にもトレーナーがいたんでしょ?」
(ば、バレてるー!?)


ヤバい、どう言ったものか頭でぐるぐる思考が巡る。何普通にバラしちゃってるの、ギャラドスさんたち!?でも、その前に。


「璃珀に“合う”……?」
「そうよ?」
「それって、誰が決めるの……?」
「……誰が決めるって言うより、世間的に見てあの子に見劣りしない子と言うべきかしら」


ん?なんだか話の方向が良くない方に進んでる気が。


「それは関係ないんじゃない?誰がどう思おうが、本人の気持ちが一番大事だと思うけど」
「それはそうだけど、でも……」


なんでそこまで世間体?を気にしてるだろう。璃珀が誰を好きになるかは自由なのに。ティナちゃんがそんなことを気にする必要は無いと思うけど。


「……好きなの?璃珀のこと」


あ、言っちゃった。不意に口をついて出たその問いはティナちゃんの目を大きく見開かせるには充分だった。
ただ、普段サバサバして自分の行動に迷いのない彼女にしては妙に回りくどいというか、らしくないというか。なんだか、“相応しい子がいる”んだと自分に言い聞かせてるみたいな。そんな無意識の思惑があるように感じられたのだ。


「…………ぇ、……」
(赤く、なった)


気の所為なんかじゃない。誤魔化しようがないくらい、今回は顔が赤く染まっていた。


「あたしが……あの子を、……す、き、?」


そう呟き石のように固まっていたと思った次の瞬間、ティナちゃんは赤い顔を隠すように口元を抑え、 激しく狼狽した。


「あ、有り得ない……!そんな事ないわよ。ええ、絶対にダメ、ダメに決まってる!無理!」
「えっ!?ちょっと落ち着いてティナちゃん!」


初めは脈アリかと思ったけど、この狼狽えっぷりは尋常じゃない。機械がエラーを起こしたように「有り得ない」と言い続けている。想いを成就させるのは前途多難そうだぞ璃珀……。


「あたしとあの子は……違う。……種族も、生き方も。……何もかも」

「あの子はどんな世界でも、受け入れられる。……人間の元でも、愛されていける。あたしは違う、暴れ者の嫌われ者で、可愛くもない。最初は誇りだったあの“名前”も、今は、……」

「あたしはもっと、街に行きたい。本当は、あの子みたいに旅をしたい。あたしは戦うことより、魅せることをしたかった」

「どうして、」


しばらく壊れたロボットみたいに淡々と言い続けていたけど、不意に零れ落ちた言葉。いつもギャラドスたちの前で堂々と勇ましい彼女の姿から想像できないくらい、泣きそうな表情だった。


「どうしてあたしは、ギャラドス、なの」


それは、彼女が心の奥底でしまったいた密かな思いで、これが彼女の“らしくなさ”の答えなんだと分かった。
璃珀本人はそんなこと気にもとめてないのは分かってる。でもそれは私が言うべきじゃない。気休めだと思うけど、「そんなことない」「私は種族関係なしにティナちゃんが素敵な女の子って知ってる」って、在り来りな言葉を言おうとしていた。

けれど、それは言えなかった。


「──……!?」


突然聞こえてきた爆発音と共に地面が揺れる。立つことがままならないので咄嗟に床に伏せる。同じくPCにいた人たちも私と同様、「キャー!」と叫び声を上げながらジョーイさんのアナウンスで安全な場所へ各自移動していた。
揺れはすぐに収まったけど、あまりにも突然の出来事でPC内にいた人たちは未だに呆然と動くことが出来なかった。
かくいう私も、狼狽えても体が反射的に動き私をテーブルの下に押し込んできたティナちゃんにされるがまま状態のまま、動けなかった。

あの爆発音は、何?


「……!いた!」
「……碧雅」
「2人とも無事だね」
「そっちは大丈夫なの?」


いち早く私たちを見つけてくれた碧雅と合流し、ティナちゃんが残りの仲間の確認を取る。先程までのティナちゃんはどこへやら、非常時ということもあってかすっかりいつも通りに戻ってしまった。
碧雅の話によると、どうやら白恵が外に出たいとせがんだので一足先に外に出て待っていたところ、大湿原が光ったかと思えば、先程の爆発と地響きが起こったらしい。


「ノモセ大湿原……!ポケモンと中の人間は無事!?」
「さっきノモセジムのジムリーダーが中に入っていったのを見たよ。これから救助活動が行われるんだと思う」
「ひとまず私たちもみんなと合流しよう」
「今大湿原とPCは人が沢山溢れかえるだろうから、ゲート前に向かうよう伝えてある」


PCに避難してきた人波に逆らい、私たちはノモセシティのゲート前に向かった。


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