IB | ナノ

5/5

勝負が終わり観客席にいたみんなもワラワラとフィールドに戻って来る。紅眞と私はというと、まだ実感が湧かなくて元いた場所から一歩も動けずにいた。緋翠が最初に私のほっぺを心配してたけど、まず最初に向かうべきは紅眞の元だ。


「おめでとう紅眞くん。本当によく頑張ったね」
「……見事だった、紅眞」


あ、晶が名前で呼んでる。本当に感動した時はちゃんと名前で呼ぶんだね。


「こーちゃん、しんかおめでとー」
「……本当に勝つと思わなかったわ、胸を張りなさい。立派だったわ」


白恵はいつの間に用意したのか紙吹雪を上に向けて投げてるけど、背が小さいからまったく届いてない。ティナちゃんも素直に健闘をたたえていた。


「……。」
『……にい、ちゃん』


紅眞が初めて口を開いた。碧雅はいつもの様子に戻っていたけど、やっぱり少し気まずいのか視線を逸らしていた。


「………………お、めでとう」
『〜〜!兄ちゃーん!』


ドーンと音を立てて思い切り碧雅に抱き着いた。碧雅がぐえって潰れた声を出してたけどまあ大丈夫でしょ、うん。
チャレンジャーとマキシさんに呼ばれ、近付いてきた彼の手にはトレーがあった。いつの間に目を覚ましたのかフローゼルも一緒に。


「彼のガッツには驚かされたぞぉ!恐らく最後の技のぶつかり合いの際も、彼は一度戦闘不能になりかけた」
「え、でもきあいのハチマキはつけてなかったのに……」


そう言うと、マキシさんはだからこそだと笑みを深くした。


「だからこそ彼は、気力で耐え抜いた。これは早々できることじゃ無いぞぉ」
「気力……」
「俺様の手持ちに欲しいくらいだぁ!お前と戦えて物凄ぉく楽しかった!これはお前と、お前のポケモンの強さを称えるためにあげよう!」


トレーの中に入っていたバッジは、水面を模した様な丸い形のバッジだった。フェンバッジを、恐る恐る手を伸ばして受け取った。


「……ありがとう、ございます……!」
「……よく頑張ったなぁ」


まるでお父さんのように大きくて温かい手が私の頭を撫でる。じわり、と何かが込み上げてくるのを感じる。
これは危ないと挨拶もそこそこにマキシさんにお礼を伝えてみんなの元へ戻った時、プツンと緊張の糸が切れた。


「あ、やばい」
「どうかされましたか?」
「……泣きそう」
「…………え、ええぇ!?」


わぁ、緋翠の驚いた声ってレアだなぁと思いつつ目からは涙が徐々に込み上げてきて、重力に逆らえず涙の筋が幾重にも出来た。


「…………ぐすっ…………」


一度決壊してしまえばあとは泣き止むまで止まらないのは分かっていた。
なので、酷くなる前にこれだけ伝えとこう。


「……こ、こうまぁ……!」
『ん?』
「おめでどぉ……!ほんっどうに、おめでどう……!!ありがどう……!!」
『……ブハッ、もうひでぇ顔になってんじゃん』


涙をすくおうとこっちに近寄ろうとしてくれたみたいだけど、もう身体が限界で動けないようだった。うおっとバランスを崩したのを抱きつかれたままだった碧雅が受け止める。


「あぶなっ。……重いし暑いから離れて」
『えぇー!折角頑張ったんだから今日くらい良いだろー?』
「擦り寄るな気持ち悪い」
『酷っ!』


と言いつつも顔は笑っている。紅眞が『あっ』思い出したように私の方にくるりと顔を向けた。バシャーモに進化してカッコよくなってもその笑顔は変わらない。


『俺の方こそありがとうな、姉ちゃん!』


姉ちゃん。
太陽のようなニカッとした笑顔から、アチャモの頃から今に至るまでが想起されて、涙の量が更に増えた。


「……ここで“姉ちゃん”は反則でしょバカー!!」
「マスター!冷やしたハンカチです。これで目を擦らずに拭いてください。お顔が腫れてしまいます」
「……うんうん、種族が違えど心が通じあっているなぁ!」
『えーあれどう見ても言葉通じてる奴じゃないッスかぁ?ま、いいけど』


あの後私は子どもみたいに泣きじゃくって、紅眞は疲れたのか碧雅が担いだまま眠ってしまって。
モンスターボールに戻してPCに連れて行こうとしたんだけど、碧雅がこのままでいいと紅眞を担いだままPCに一足先に向かっていった。


「なんだ雪うさぎの奴。さっきまで鬱陶しがっていたのに」
「ふふっ、まるで二人三脚みたいじゃないか」
「……みゃーちゃん、おにいちゃんだもんね」
「そうですね。……さて、今日は私たちが腕によりをかけて紅眞の為にご馳走を用意しましょう!」


緋翠の言葉を皮切りにジムを後にして、スーパーで食材の調達をする。
目が覚めたら、紅眞が降参しちゃうくらいの沢山のおめでとうを言ってやるんだ。


prev / next

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -