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とは言ったものの紅眞の体力はギリギリ。しかもまだフローゼルは無傷のまま。確実に攻撃を当てて勝負を決めないと。
再びアクアジェットで攻めてきたけど、今度はみきりでしっかりとかわすことができた。きしかいせいは力をためる必要があるから、ここは……


「きりさく!」
『おう!』


フローゼルは動きを把握出来ていない。よし、これなら当たる!


「浮き袋を膨らませろぉ!」
『これダサいから嫌なんスけどぉ、マキちゃん』


身体に付いていた黄色い浮き輪のような袋。その袋が空気を含んでどんどん膨らんでいき、きりさくの威力を相殺してしまった。技を使うことなく、受け止めるなんて……。
やっぱりジムリーダーは一枚も二枚も上手だ。


「やはりお前のワカシャモは速い、流石隠れ特性だな。だが速いだけでは俺様たちに勝てないぞぉ!その攻撃力ではフローゼルに傷を付けることは叶わん!」
(あそこまで上げたのに、まだ威力が足りない……)


ティナちゃんの修行のおかげで能力を上げたはずなのに、まだ足りない。つまるところそれは、紅眞の今の限界。ここまで来たのに……!


「奇跡は二度は起きないぞぉ、かみくだく!」
「浮き袋で動きが……!」


浮き袋で紅眞を捕まえた絶好のタイミング。浮き袋を一瞬縮めフローゼルの牙が紅眞に噛み付く。かくとうタイプが入ってるから効果はいまひとつでも、体力がもう無い今は致命傷だ。


『…………うわ、まだ倒れないんスか』


フローゼルが引き気味な様子で紅眞から離れる。紅眞は膝を付きこそしたけど、倒れなかった。


「……きあいのハチマキがまた機能したようだね」
「流石白恵がプレゼントしただけありますね」
「っおいトサカ!」


まだいける、と思った束の間。晶の焦った声が聞こえたかと思うと紅眞はフィールドに倒れ込んだ。


「紅眞!」


呼びかけるが反応が無い。審判もまだ様子を見ているけど、あの顔はもう無理だろうと物語っていた。マキシさんも首を横に振って、私を見ている。

ここまで…………なのかな。


「…………立て、紅眞!」


この場で一番大声が似合わなかった。

この場で一番冷めた様子で、興味無さげにバトルを見ているようだと思っていた。


「……碧雅」


クールな彼にしては珍しく、観客席の手すりを乗り越えそうだと錯覚するくらい、声を荒らげていた。


「僕は別に、ステラの情報が欲しいわけじゃない。だからあのギャラドスとの約束も、ぶっちゃけ反故にしていいと思ってる」
「えっ」


そうだったの!?
でも、と碧雅は言葉を続ける。


「お前がここで負けることは許さない。お前、僕に言ったよな?自分が仲間を守ってみせるって。でも今のバトルで機能してるそのハチマキだって白恵から貰ってるものなら……それは仲間に守られてることと変わらないんじゃない?」
『……!』
「誰かを守る前に自分が守られてるんじゃ話にならないよ。……お前が今日のために頑張ってきたことはここにいる全員が分かってる。努力は裏切らないんだ、奇跡くらい自分で起こしてみせろ!」


碧雅の大声がフィールドに響く。怒るんじゃなくて、喝を、激励を入れてる。


『……る、……せ……』
「……あ……」


床に手を付き、一度地に伏せた身体が起きた。時間をかけて、ゆっくりと起き上がった。碧雅を睨み付けるように見つめながら。


『俺は、……いつか…………アンタを超えてやるんだ。…………兄ちゃん』


フラフラと立ち上がった紅眞は、碧雅に吐き捨てるようにそう言った。
そういえば、2人は一緒にいる期間が一番長いんだ。コトブキシティからクロガネシティ。そしてソノオタウンまで。
アチャモでまだ発展途上だった紅眞と、最初からグレイシアで完成された強さを持っていた碧雅。
もしかしたら紅眞はずっとずっと、碧雅を超えたくて、だから、ムキになって……


『っ……こんなの、なくたって……勝ってやらァ!』


ハチマキを投げ捨てて、自らを鼓舞するかのように雄叫びをあげた紅眞に呼応するように青白い光が紅眞を包み込んだ。
ワカシャモのシルエットは鳴りを潜め、背の伸びたより人型に近い体格にシルエットが変わっていく。


「し、進化……!?」


光が弾け飛び、立っていた紅眞の姿はワカシャモではなく。
スラリと伸びた手脚に、まるで髪のようなクリーム色の羽毛。闘志を感じさせる赤色の袴のように羽毛が身体を覆っていた。


「……やればできんじゃん」


これは紅眞が自分で呼び起こした、奇跡だ。


「ガッハッハ!まるでヒーローのようだなバシャーモ!」
『やべぇ〜マジパネーション!』


いやフローゼルそれ古くない?なんてツッコミは心の中で呟いて、逞しくなった紅眞の背中を見つめた。


「……いけそう?」
『おう。……でも前のダメージが残ってるから、あと一発ってとこだな』


進化して声が更に低くなり、大人の落ち着きが出てきた。ていうかバシャーモ、背高っ。脚長っ。


「いくら進化をしようとも、風前の灯火であることに変わりはない。次で終わりにするぞぉ!」
『うぃーッス。行くッスよマキちゃん!』
「……紅眞、こっちも行くよ!」
『ああ!』


「アクアジェット!」
「きしかいせい!」


フローゼルのアクアジェットとぶつかり合う形で、渾身のきしかいせいが激突した。両者とも互角の力で一歩も引く様子が見られない。


『……っらぁああぁああ!!!』


大きな音を立てて爆発が起こった。土煙が酷くて咳が止まらない。
煙が徐々に晴れた先で立っていたのは…………フローゼルだった。


「……よくやった、フローゼル」
『……マキちゃん、ごめん』


マキシさんが労いの言葉をかけたと同時に、フローゼルも倒れた。
そして先に倒れていた紅眞の拳が力を取り戻し、徐々に身体を起こして行った。

あれ……これって……?


「フローゼル戦闘不能、バシャーモの勝ち!よって勝者、チャレンジャーのユイ!」


審判のコールが伝えられ、バトルが終了した。
…………か、った?


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