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審判に指定された場所に立ち、マキシさんとフィールド越しに向かい合う。碧雅の言う通り5回目のジム戦だけど、この空気には未だ慣れない。特に今回は紅眞だけで挑むから更に緊張してしまう。
そんな私をリラックスさせるかのようにマキシさんが覆面の隙間から親しみを込めた笑みを向けた。


「緊張しているようだなぁ、チャレンジャー」
「そりゃあまぁ……。今回はこちらの事情なんですが、今ボールに入ってるこの子だけでジム戦を戦わなきゃ行けなくて……」
「ハッハッハ!あのティナが付き添うくらいだから余程の事情があると思っていたが、それは大変だなぁ!」


だがなチャレンジャーとマキシさんの目が私を捉える。


「お前がいつまでもそんなに不安そうな表情をしていると、それはポケモンにも伝染してしまうぞ。お前たちは俺様を倒す為に沢山トレーニングを重ねたんだろう?ならここではその成果を披露するだけだ。お前とお前のポケモンを信じて、俺様を打ち破ってみせろぉ!」


その言葉は私の心に衝撃を与えた。
そうだ、怖いのは私だけじゃない、紅眞だって不安でいっぱいなんだ。今考えたってしょうがない、やれることはやったんだから。負けちゃった時はまたその時、どうするか考えよう。その為に予備の日を設けてるんだから。


(私に出来ることは、紅眞を信じてバトルに挑むことだ)


覚悟を決め、私は目を開きマキシさんを真っ直ぐに見つめた。


「……いい表情になったな。さぁいくぞ!」
「……はい。いくよ、紅眞!」
『おっしゃ!』


審判の掛け声でジム戦がスタートした。プールの足場に着地した紅眞を見て、マキシさんが驚きと共に面白いと言わんばかりの好戦的な笑みを浮かべる。そしてボールをプールのフィールドに投げ込んだ。


「俺様は3体のポケモンを使う!まずはこいつからだぁ!いくぞギャラドス!」
(っ初戦からギャラドス……!)


ここ最近毎日見ているからか、ギャラドスは最早見慣れたものだ。みずタイプで来るのは分かってはいたけど、初っ端からギャラドスを相手にしなきゃいけないなんて。ギャラドスのいかくで攻撃力も下がってしまったし、逆風が吹いている。


『ユイ、まずは作戦通りで良いよな?』
「うん」
「ギャラドス、たきのぼりだ!」


やはりと言うべきか。効果抜群の技を使いこちらを一気に叩くつもりだ。それは私も予想していた。ティナちゃんにも相談して考えた作戦だ、絶対に成功させてみせる!


(まずは━━)


“まず最初のターンが重要よ。必ず攻撃を受けないこと。そもそも今回のバトルにおいては、特に攻撃を受けることは避けなければならないわ。放たれる技がほぼ弱点だし、一匹だけで挑まなければならないんだから。長期戦なんてもってのほか。短期集中で相手を突破しなければならない”


「みきり!たきのぼりを避けた後にきあいだめをして!」


“最初の攻撃を避けて特性を発動させる。その後の素早さは並大抵のポケモンは追いつけないわ”


みきりでたきのぼりを避け切り、安全な地帯まで移動したあと気を集中させる。この時間で特性のかそくも発動した。ギャラドスは長い尾を巻き上げ、ジム内に風が吹き起こる。たつまきで動きを制限するつもりなんだ。


“お前の戦い方には弱点が2つあるわ。1つ、スピードを上げた上での攻撃が主な手段だから実質的な攻撃力が低い。自慢のスピードが奪われるとスピードの重力をプラスできなくなり、突破力が低くなってしまう”

“俺、今まで無意識でやってたかも、それ”

“だからまずは攻撃力を高めること。あと今までの戦いで蓄積された経験を一旦リセットして、再度効率のいいやり方で経験を積み直す。という訳で今日からお前の食事は全部これね”

“何だこの木の実!?”

“これまでのポケモンと戦った経験をリセットする効果があると言われている木の実。2日くらい食べ続ければ0になるでしょう。そこから今度はタウリンとインドメタシンとマックスアップを飲み続けてもらうわよ”

“ぎぇー!?”


(たつまきで動きを制限されても、紅眞は止まらないよ)
「ほぉ!ギャラドスを足場にして動き回るとは大した奴だなぁ」


プールに現れたギャラドスの巨体を活かし、その身体を足場にして接近して行く。ギャラドスも自分の身体で動き回られちゃえば思うような動きはできないはずと踏んでいたが、予想は的中していた。ギャラドスの背後に回って、紅眞が鋭い爪を出した。


「きりさく!」


爪の斬撃がギャラドスを襲い、苦しそうな叫び声をあげてプールの中でのたうち回る。


『師匠やリッシ湖のギャラドスに比べたら、お前なんて全然怖くねぇってーの!』


確かにここ数日、ずっとギャラドスと一緒にいるからあの強面にも大分慣れたよね。それに紅眞の言う通り、マキシさんのギャラドスも迫力があるけど、野生で生きている分群れのギャラドスたちの方がずっとずっと手強かった。彼らは生きるために、己の強さを鍛えているんだから。

二度目のきりさくが命中し、ギャラドスは力なくプールに倒れ込み、水飛沫がフィールドを襲った。


「ご苦労だったギャラドス。……考えたものだなぁチャレンジャー!きあいだめときりさくのコンボで急所を確実に狙う作戦で来たのか」
「ほのお技は半減されちゃいますから、ノーマル技で確実に攻めていく事にしたんです」


ほのおのうずでダメージを蓄積させていく案もあったけど、それだと紅眞の体力的にも厳しいし、長期戦になるのは目に見えていたから。ノーマルタイプは弱点を突くことは出来ないけど、ゴーストといわタイプ以外には確実にダメージを与えることが出来る。だから今回の攻撃技として打って付けだと考えた。


「初戦は無事切り抜けられましたね」
「フン。この程度でやられてもらっては困るからな」
「……ていうか紅眞、あのハチマキ付けたまま戦ってるわけ」
「気合十分ってことで良いんじゃないかい?白恵くんの幸運が詰まったラッキーアイテムかもしれないよ」
「こーちゃん、おくやみもうしあげまーす」
『俺は死んでねぇぇぇ!!』


……観客席まで結構な距離があるのに紅眞、よく聞こえたな。
マキシさんもみんなの会話が聞こえていたようで「仲が良さそうでなによりだぁ!」と豪快に笑った。紅眞の声は聞こえないはずだけど、話の流れと雰囲気でなんて言ったのか察したのかな。


「まだ試合は続いているぞ。次はこいつだぁ!」
「…………?」


次にマキシさんが繰り出したポケモンは、二足歩行のマスコットキャラにいそうなポケモンだった。全く微動だにしないんだけど、この子生きてるんだよね?
と思ったら欠伸した、生きてた。呑気な雰囲気を醸し出すそのポケモンに、こっちもその空気に飲まれそうになる。

図鑑の説明によると、この子はヌオー。みず・じめんタイプで弱点はくさタイプのみ。……な、何そのゆる可愛いお顔。可愛いんだが、可愛いんだが!?


『おーいユイ。今はバトル中だからな』
「ハッ」
「ヌオーはこのなんとも言えない雰囲気から絶妙に人気があるんだぁ。もしバトルが終わって時間があれば触れ合ってもいいぞぉ!」
「ほ、ホントですか!」


やる気が出てきたぞ!いや、元からやる気はあったんだけど、更に?
とにかく、ギャラドスを倒して調子が出てきたこの流れを途切れさせないようにしないと。


「先手必勝!きりさく!」
『動かねぇなら狙いやすいぜ!』


ヌオーが動く素振りがないのをいい事に紅眞が正面から攻撃を仕掛けに行く。先程よりも素早さが上がっているのにも関わらず、マキシさんは慌てることなく余裕の笑みを浮かべた。


「相手は正面から来るぞ。マッドショットだ!」
『っ!?飛んだ!?』
「紅眞、上から来る!」


ノーモーションで上に高くジャンプしたヌオーに驚き動きが停止してしまった紅眞の頭上からマッドショットが降り注ぐ。可愛い顔とのほほんオーラに気が緩んだけどとんでもない、ヌオーがどんな動きで来るか予想がつかない。
マッドショットの泥で足場が滑りやすくなり、更に技の追加効果で自慢の素早さも低下してしまった。


「汚れた身体を綺麗にしてやるとするかぁ。ヌオー、みずのはどう!」
「み、みきり!」


咄嗟にみきりを指示したことで技をモロに受けることは防げたけど……中々厳しい戦いになりそうだ。


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