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『……お前が白髪頭の情報を話す気がないのは、お前が勝てなかったからだろう?』


晶が不意に口を開く。


『ここの長たるお前が負けるくらいだ、僕たちは勿論、そこのトサカもお前と同じくらい……下手したらそれ以上の酷い状態にされるかもしれない。それを危惧して敢えて言わないのだろうが、このトサカはたとえお前が情報を話さなかったとしても白髪頭に挑むぞ』
『おう、無茶はしないけどな』
『そういうことじゃないっての』
「…………。」


それに、と晶は言葉を続ける。


『僕は対峙したことがないから分からんが、こちらも知っていることを伝えるつもりでいる。情報を共有することで新たな可能性が開けるかもしれない。お前にとっても悪い話では無いと思うがな』


親方さんの目がみんなを一瞥した後私を射抜く。無理だと、無謀だと思っているんだろう。でも、私たちは彼に近づく必要がある。相棒である碧雅の記憶の手がかりがステラにあるかもしれない。
私もお願いしようと前に踏み出そうとしたら、原型の碧雅が前に出て、横目で制した。大丈夫だと言わんばかりに。グレイシアの姿のまま親方さんの前にゆっくりと近づく。

そして、親方さんの目の前で擬人化の姿を現したのだ。


「ちょ、あなた!?」
「碧雅」


堪らずティナちゃんが驚愕の声を上げ、親方さんの片目が見開いた。みんなも親方さんを注視したけど、彼は驚く様子を見せただけで襲うことは無かった。
この場で注目の的となった碧雅は臆することなく、親方さんを見据えたままゆっくりとその口を開いた。


「これが理由です」
「……お前ェがその“友達”ってやつか。随分良い面してるな、坊っちゃん」
「……それはどうも」


平静とした表情で親方さんの言葉を躱し、私たちの方を向いた。不安な気持ちが顔に現れていたのか、フッと一瞬だけ口角を上げ再び親方さんの方を見つめ、今度はその距離を詰め込んだ。


「ご覧の通り、僕はどうやらそのステラと容姿が似ています。……他人の空似じゃないでしょう?」
「……俺がお前ェを奴と勘違いして襲うとは思わなかったのか」
「それなら最初から襲ってたでしょ。僕とユイをずっと警戒していた癖に」
(あの視線は、)


私だけじゃなくて、碧雅のことも見てたんだ。自分のことに精一杯で気づけなかった。


「どちらにしろ、この件は身内だけで収まる問題じゃないよ。ギンガ団はここだけじゃなくて、他の場所でも活動してるし」
「……俺も落ちたもんだな」


フッと自虐のような笑みを浮かべた親方さん。そして大きく息を吐き、次にその赤い目が開かれた時には最初のような貫禄のある雰囲気に戻っていた。


「おい、そこのワカシャモ。さっき言ったことに嘘は無ぇな」
『さっき?』
「“俺に出来ることならなんでもやる”つったろ。俺からひとつ条件を出す。それをクリアしたら情報をくれてやるよ」
『!ホントか!』
「ああ。娘から聞いたがお前ェらジムを巡ってるんだろ、なら丁度いい。耳の穴かっぽじって聞けよ」


親方さんは紅眞を指さし、言い放った。


“条件は、次のノモセジムをこのワカシャモ一匹で戦い抜くことだ”


「……え、」
「以上だ。ちなみに1週間でやれよ。じゃーな」


言われたことを頭で理解している内に話は終わり、親方さんは再び寝の体制に入っていた。すると晶が凄まじいスピードで親方さんに詰め寄った。


『おい!それはあまりにも理不尽だぞ海賊眼帯!』
「……。」
「晶、相手は怪我人だから」
『そんなことを言っている場合か!?こんなの……』
「とりあえず今日は帰るよ、親方さんも休むみたいだから」
「……お父様、」


難しい顔をして親方さんと何やら話を始めたティナちゃんを一先ず残し、私たちはツリーハウスの外へ出た。晶と璃珀がずっと考え込んでるんだけど、大丈夫?


『俺だけで次のジムを勝ち抜けばいいんだろ?』
「う、うん。紅眞にかなり負担がかかっちゃうけど」
『構わねーよ。絶対勝って白髪頭の情報をゲットしてやる!』
『こーちゃんがんばれ。ふれー、ふれー』
『己が無知を恥じろ貴様ら!』
「親方、これはかなり厳しいものを出したね」


なんでか私たちに怒鳴る晶と、苦い顔をする璃珀。緋翠が思い出したように『そういえば』と言葉を発した。


『確か、ノモセジムのエキスパートタイプは……』
『“みずタイプ”だ!複数で挑むならまだしも、トサカ頭単身でなど勝率はほぼ無いと言っていいぞ』
「みずタイプ!?」
『そうなのか!?』
『ほのおはみずにけされちゃうね』


そうだ、それは子どもでも当たり前に知っている法則だ。ポケモンバトルにおいて相性は特に重要なのに。しかも期間まで決められてなかったっけ。


『相性は最悪ですね、絶対に勝てるわけないと踏んでこの条件を出したのでしょうか』
「“この条件を越えられないようならステラに勝つとか100年早いわ!”……とか?」
「ニュアンスとしては正解かもね」


相性の差をどうにか克服しないと、お話にならないってことか。これは紅眞だけじゃなくて、私も試されてる気がする。実際に戦うのは紅眞だけど、指示を出すのは私だから。
どうするべきか全員で悩んでいるところにツリーハウスからティナちゃんが出てきた。


「あら、今更事の重大さに気付いたのね。そんなあなたたちに良い知らせと悪い知らせがあるんだけど、どちらから聞きたい?」
「……じゃあ、悪い方から」


聞くなら悪い方から聞いた方が後味はそこまで悪くならないと思う。ティナちゃんは分かったわと小さく頷き、紅眞の前に出た。


「お父様は条件の緩和をする気は無いそうよ。1週間の期間でジムに挑んで結果を出して来い、ですって」
『……俺、だけで』


流石にプレッシャーとこれから待ち受ける困難に紅眞もいつもの元気な声色ではなくなっていた。璃珀が「姉さん、良い方は?」と聞くと、ティナちゃんは不敵に微笑み、紅眞の肩を掴む。


「あたしがジム戦を見届ける監督役になったの。それを利用してこの1週間でできるだけお前を鍛える。それが良い知らせよ」
「姉さんの、修行……」
『何故引き気味なんだロン毛』
「流石に相性不利の相手とは本格的なトレーニングをしないとお話にならないわ。それにあたし自身もみずタイプ。実際にみずタイプの技を使い戦いながら戦術を指南できるわ。あたし以上の適任者もいないと思うけど?」


確かに、ティナちゃんもとっても強いし何よりバトルの知識が未熟な私より全然頼りになる。今まではバトルの展開によって仲間を入れ替えられたけど、今回はそれもできない。紅眞自身の能力をアップさせるしかないんだ。


『……分かった。俺を、鍛えてほしい』
「鍛えて“下さい”でしょ、坊や」
『!?……き、きたえてください!!』
「……どうなるんだか、これ」


碧雅がぼそりと呟いた内容に密かに相槌を打ちつつ、ティナちゃんに早速言葉の矯正を受けてる紅眞を見やる。どう転ぶか分からないけど、その顔はどこかワクワクしてるようにも見えた。
準備をしてくると言ったティナちゃんが草むらに消えた後に璃珀が真剣な表情で紅眞に忠告した。


「姉さんの修行は確かに効果あるけど、その分スパルタだからね。その日のノルマをクリアできなかったら、罰として姉さんのはかいこうせんが放たれるよ」
「……はい?」
「あと多分、俺たちにも修行は飛び火すると思うよ。姉さん、鍛えるの大好きだから」
「えっ」
『えっ』
『本当か!』


……晶、君は根っからのバトル好きなのが分かったよ。


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