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『ここがギャラドスの巣窟兼ロン毛の故郷か……』
『すっげー!マジでギャラドスいっぱいじゃん!』
『きれーだねー』
『怒りが絡まなければこのように幻想的な光景が見られるのですね……』
「ねー!夜の湖ってなんかロマンチック」
『……どう?久々の故郷は』
『…………そうだね』


それぞれがリッシ湖の感想を述べる中、碧雅が璃珀に話を振るとたどたどしく言葉を発した。


『……やっぱり、変わらないね』


その声色には怒りや悲しみの感情など微塵も無かった。ただ慈しむように、懐かしむような柔らかな声だった。


「全員揃っているわね」


ティナちゃんの凛とした声が響くと同時にギャラドスたちは水浴びを止め、全員の目がこちらを向いた。たくさんのギャラドスが一様に同じ方向を向く光景はなかなか異様だ。
破壊の化身という異名が似合う厳つい顔をしてるけど、不思議と怖くはなかった。
お供をしてくれたメンズさんたちも群れの中に戻り、ティナちゃんの言葉の続きを待った。


「今日ここにお前たちを呼んだのは他でもないわ、あたしの後ろに立つこの子を紹介するためよ」


その言葉と共にティナちゃんに前に出るよう促され、キョドりながら恐る恐る前に出る。『なんだぁ?』『女の子じゃねぇか』『こんな時間に何の用だ?』など沢山の話し声が聞こえてくる。


「今お前たちの前に立つこの子の名はユイ、あたしの友達になった人間よ」
『人間、だと……?』
『友達ができたのか、あのお嬢に!?』
『おいおいお嬢、それってこの前言ってたユイちゃんの話か?正体がバレちまったのかよ、はえーなオイ』
「ええ、予想外の事が2つ起きてね。お前たちにも関係があるから伝えておくわ。1つはこの子、どうやら原型の言葉が分かるみたいだからお前たちがどんな話をしているか現在進行形で筒抜けよ」


ぐわっ


大きな目が一斉に有り得ないものを見るように私を見た。こ、こわい。


『え、じゃあさっきの事も聞かれちまったのか?』
『お嬢に気に入られてご愁傷さまだなってところもか?』
『お嬢と違って控えめなかわい子ちゃんが来たなって湖で話してたのも聞かれちまってたのか?』
「あら、そんな事話してたのねお前たち」


とても惚れ惚れする微笑みなのに、どことなくうすら寒い気配がするのは気の所為かな。
ティナちゃんは再び息を小さく吐き、仕切り直した。


「まぁこれもだけど、あたしたちにとって重要なのはもう1つの方よ。……ねぇユイ、あの子を出してあげて」
「えぇ!?」


ティナちゃんが“あの子”って言うのは今までのやり取りから璃珀なのは何となく分かる……それってつまり、璃珀を今この場に出せってことだよね?いや無理でしょ。慌てて璃珀の入ったボールを両手で守るように胸元に抱き締めた。


「いくらなんでもそこまでするのは……」
「大丈夫よ、あなたの思っているようなことにはならないから」


そう言った後ティナちゃんは私の隙だらけの脇をくすぐり、堪らず力が抜けた隙を狙って璃珀のボールを手に取った。


「お前も男ならいつまでも心に決めた人の陰に隠れてるんじゃないわよ。いい加減姿を現しなさい」
「あ、ボタンが、」
『……………………。』
(出てきちゃった)


ボール越しに璃珀に一喝入れた後開閉スイッチを押して璃珀をボールから出してしまった。流石の璃珀も突然の事で、珍しく綺麗な目を少し見開いて固まっている。
璃珀の姿を見た瞬間、ギャラドスたちは私の時と比にならないくらいざわめいた。


『…………お、おい。アレって』
『色違いのミロカロス……だよな……!?』
『まさか、そんな事ないよな……?』
「…………。」


顔を見合せて話すギャラドスたちの中、道案内をしてくれたギャラドスの1人が近付いてきた。その表情は何の感情を表しているのか伺いしれない。怒っているような、悲しんでいるような、複雑な表情をしていた。
そして璃珀の目の前で足を止め、下を向いているその滑らかな首元に手を添えた。


「お前…………珀坊か?」
「はくぼう?」


聞き慣れない呼び方に思わず私が反応してしまった。璃珀はその言葉を聞き僅かに身じろぎつつも、『……はい、』と静かに返答した。
ギャラドスさんは身体を震わせ、もう片方の手で顔を覆っていた。


「そうか……そう、だったのか……」


その声も、身体と同様に震えていた。


「……無事だったんだな、珀坊〜!!」
『…………は、』
「え、?」


さっきまでの様子が嘘のように明るい調子になって璃珀に思い切り抱き着いたギャラドスさん。あれ、泣いてるんですけど。
それに続くように一人、また一人と擬人化できる者たちが人型になり璃珀に抱き着いて行く。


「うぉー!お前戻ってきてたのかよー!」
「相変わらず美人だなおい!!」
『え……、は……えっ……?』


璃珀も困惑しているようだけどギャラドスたちはそんなの露知らず、矢継ぎ早に璃珀になだれ込んでくる。うわ、アレもはやポケモンの技のとっしん並みじゃ……。


『おにーたん!おかえりー!』
『覚えてる?ねぇ、覚えてる!?』


リッシ湖に行く前に話していた擬人化できない子たちというのはこのコイキングたちなんだろう。畔でバチャバチャと跳ねて存在感を示しながら必死に璃珀に声を投げかけている。あ、あれ……?


「本当に追い出されてたの、これ?」
『寧ろ逆に大歓迎してない?』
『うわすげぇ、見ろよ。原型のミロカロス持ち上げてるぜ』
『胴上げなんでしょうか……。ミロカロスは結構体重があったと記憶していますが、軽々と持ち上げているのは流石ですね』
『喧しいなコイツら』
『わっしょーい』


あれ、みんなもいつの間にボールから出てきたの。


「お!お前らが珀坊の仲間だな!」
「アンタらも来い!」
『はっ!?』


……何故かみんなも捕まった。


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