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「ユイ?どうしたの?何か変かしら、これ」


しんぴのしずくを見て固まる私にティナちゃんは心配そうに声をかけてくれる。
ど、どうしよう。どうやって、話を切り出そう……。とりあえず、少しずつ璃珀の情報を小出しにしてみる?


「あ、えっとね、私の仲間でも、同じしんぴのしずくを持ってる子がいたからビックリしちゃって」
「あらそうなの?でもこのアイテムは割とメジャーだから、持ってるのは珍しくないと思うわよ。あたしはただのアクセサリーで使ってるけど」
「そ、そうなんだ〜!」


…………話、終わった。うぉい頑張れ私!私が頑張らないでどうする!ええい次は……あえてギャラドスについて攻めてみる?


「そういえば私、最近ポケモンについて勉強してるんだけど、この前初めてギャラドスのこと知ったんだよね!」
「えぇ?ギャラドスを知らなかったの?あなたって随分世間知らずなのね」
「え、そうなの?」
「そうよ。ギャラドスはただでさえ危険なポケモンと言われているんだから。……あんなに凶悪で、残酷なポケモン、いなければいいのに」
「そんなことないよ、私カッコイイって思ったもん」
「……多分、そんなこと言うのあなたくらいよ」


ティナちゃんは何故か悲しそうに笑った。でもギャラドスって、ティナちゃんの本当の姿、だよね。自分の種族をそこまで悪く言うなんて、何かあったのかな。


(い、いやいや!相手は璃珀を追い出した仲間たち!まずは話を聞けるだけ聞いて……)
「おーい、ユイ〜!」
「部屋の鍵を渡してないぞちんちくりん」
「気づかず申し訳ありませんマスター!」
「おねえちゃん、おひさしぶり」
「あれ、鍵渡してなかったっけ!?ごめん!」
「あら、それは一大事……ね……っ!」


ティナちゃんの口数が徐々に減り、息を飲む声がした。彼女の方を振り向くと、彼女は目を見開き信じられないものを見る顔である一点を見つめている。その視線は、一番後ろを歩いてこちらに来る碧雅に向けられていた。


「……ステラ」
「えっ」


今、なんて言った?

そう思う間もなく、空気を切る音がした。髪が私の頬を撫でたと同時に鈍く、激しい音がした。ティナちゃんは──……碧雅に向かい、蹴りを放っていた。


「どういうこと?どうしてお前がここにいるの?」
「……っ!」
「今度はあたしの大事なお友達を使うつもり?」
「ティ、ティナちゃ、」
「ねぇユイ。あなたこの坊やに脅されてるの?それともあなた……ギンガ団なの?」


目が、雰囲気が、変わった。さっきまでのニコニコ笑う、女の子らしい雰囲気はなりを潜めて、ギラギラと鋭い、動向が開いたガーネットの瞳……とても、恐ろしいオーラを纏っていた。
心臓を掴まれたような感覚。背中から冷や汗が流れる。彼女の目を、逸らすことが出来ない。
私は勿論、他の仲間たちも、攻撃を喰らい咄嗟に防御した碧雅でさえも、何が起こったか分からず、動けず、声を発せずにいた。


「ち、……ちが、う」


振り絞って出せた声は、喉が圧迫されたように掠れた声で、とても小さく震えたものだった。それでも彼女には充分だったようで、そうと小さく呟いた。


「ならやっぱり、お前なのね。一度ならず二度までも、あたしの大切なものに手を出そうものなら容赦しないわ」
「……ま、待ってティナちゃん……!」


碧雅に敵意を定め、距離を取った後再び攻撃を仕掛けようとするティナちゃん。止めようにも、彼女はその気は無いようで私を一瞥し黙るように視線で訴える。生憎ポケモンのように戦闘に出たことの無い私は彼女の視線の強さに勝てるはずもなく、その場で止まってしまう。

ティナちゃんが素早い動きで碧雅に詰め寄り、攻撃が当たる──


その時だった。


「──っ姉さん!」


ボールの開閉音がして、ポケモンの飛び出す光が放たれ、碧雅の前に庇うように両手を上げて立っていたのは、璃珀だった。


「…………っ、え……?」
「姉さん、やめて、くれ」


動揺したティナちゃんの声と、既のところで当たらずに済んだティナちゃんの足は、璃珀の顔スレスレの位置で止まっていた。


「お前……どう、して……」
「えっと、俺もなんて言ったらいいか分からないけど…………、久しぶり、姉さん」


頬をかいて気恥しそうに、申し訳なさそうにはにかんだその顔は、彼女への複雑な気持ちを表していた。


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