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『姉さんって……あの女の子か?』
「でも、どう見ても璃珀の方がお兄さんだよね?!」
『いや、案外擬人化の外見年齢って関係ないよ。精神年齢に左右されるけど、基本僕たちは戦うことを本分にしてるから。そのポケモンが“潜在的に今の自分に丁度いい”と思われる年齢の身体になる』


例えば老齢のポケモンでも本人が現役だと思うなら、その間を取って中年の姿になったり。ある程度人間で言う大人の年齢になっても本人が未熟で子どもだと思うなら、少年や青年くらいの姿をとる。


『まあ基本は、そのポケモンの実際の年齢に合わせた身体になると思うけど』
「へぇー……」


そういえば擬人化した時の外見差の話って初めて聞いたな。納得していると緋翠が私に確認するように話しかけた。


『お待ちくださいマスター。失礼ですが、先程彼女の名前を呼びましたよね。2人はお知り合いなんですか?』
「うん。トバリデパートで引ったくりを吹っ飛ばした女の子の話したでしょ?あの子だよ。あと友達になってくれて、グランドレイクのチケットをくれたのも」
『なんと……』
《さぁ、新たに挑戦するお客様はいらっしゃいませんか?!あと5分の後に挑戦者がいらっしゃらないようならば、今回はティナの10戦10勝にて本イベントは幕引きとさせていただきます!》


司会の従業員さんのアナウンスでタイムリミットがあと5分だと知る。ていうかティナちゃん、強すぎない?善は急げ、とにかく行動に移さないと。未だティナちゃんを見て固まってる璃珀に声をかけた。


「とりあえず璃珀はボールに戻って!いきなり会うのはキツイでしょ」
「あ、うん」
『はい!俺、腕相撲出る!』
『僕も出る。あの女がギャラドスならば試しに腕相撲でひと勝負といきたい』
「よし来た!」


2人に同意する中、晶の言葉でティナちゃんがギャラドスなのだという事実が頭に残る。立候補した2人に人型になってもらって、レストランのドアを勢いよく開けた。


「すみません!飛び入り参加って可能でしょうか!?」
「……!あなた、」
《おおっとこれは飛び入り参加のお客様の登場です!答えは勿論……OKです!》
「やったー!」
「最初は俺から行くぜ!」


紅眞がティナちゃんと向かい合う形で座る。私たちは別の食席へ案内され、勝負の行く末を見守る。


《では参ります。レディー……ファイッ!》
「!?……うぉっ……!」
「嘘……」


本当にちっとも動かない、ティナちゃんの腕。紅眞はかなり、いや全力で腕に力を入れてるのが見て取れるのに。涼し気な顔でティナちゃんは紅眞を見据え、静かに瞑目した後腕に力を入れると、紅眞の手は徐々に押され手の甲がテーブルに当たった。


「残念でしたね」
《しゅーりょー!かなりもたせましたが残念でしたお客様!こちら参加賞のタルトです》
「マジ?タルト貰えるのありがてぇ!あんた、一緒に腕相撲やってくれてサンキューな!」
「……早くお席にお戻りください」


ティナちゃんは紅眞を一度も見る事無く、ある意味つっけんどんな態度だった。あれ、ティナちゃんってあんなにクールだっけ。戻ってきた紅眞に労いの言葉をかけ、続いて晶がティナちゃんの元に向かう。


《おっと今度の挑戦者は女性です!女性同士のバトル、見物ですね!》
「……僕は男だ節穴め」
「あら、あたしも女だと思いました。随分可愛い顔をしていますね、お客様」
(あわわ、晶怒らないで〜!)


額に怒りマークが付いた晶とティナちゃんが勝負を始める。開始の号令と共に晶も懇親の力を入れるが、ティナちゃんはそれも難なく受けている。


「このっ、!貴様、随分馬鹿力だな……っ!」
「ご愁傷さまです、お客様」


2人も男の子だし、ポケモンだし。かなりの力はあるはずなんだけど。
結果はティナちゃんの勝利。今回の腕相撲大会は誰も勝てることなく閉幕し、イベントを観覧してくれたお礼としてメインディッシュが振る舞われたのであった。




◇◆◇




「やっべー。まだ手がジンジンする」
「同じくだ。あの女、あの見た目のどこにあんな力が……」


右手を抑えて歩く2人の後ろ姿を眺め、ななつぼしを後にした。まさか、ティナちゃんが璃珀の元家族同然の仲間だったなんて。ポケモンだったのはあの時の身のこなしからある程度想像ついてたけど、前者は全く予想外だった。璃珀は流石に出るに出られず、璃珀の分のお昼は別に包んでもらい持ち帰ることにした。


「──ユイ!」
「……ティナちゃん?」
「突然ごめんなさい。あの、少しお話できないかしら」
「……うん。紅眞、みんなのボール預けとくから先に戻ってて」
「え、でも」
「大丈夫だよ、ティナちゃんは友達だから」
「……本当に、お話したいだけなの。少し、この子を借りるわね」


袋に入れてもらった璃珀のお昼も渡し、ティナちゃんの後ろを着いていく形で歩みを進める。ある一室……というより一家の壁にティナちゃんは背中を預け、私に笑顔で話しかけてきた。


「早速チケット使ってくれたのね、ありがとう!まさか仕事中に会うとは思わなかったけど」
「びっくりしたよ!グランドレイクで働いてるの?」
「ええ、そうよ。普段は夜の警備の仕事をしているんだけど、たまにこの催しに参加しているの」


さっきまでとは180°違って、私と話すのが楽しいのかとても良い笑顔。


「今日のイベント、あなたが突然お店に入ってきたから驚いちゃったわ。最後に参加した2人はあなたの仲間だったのね。初めて会うのがまさかこんな場になるとは思わなかったけど、擬人化した姿を人前に晒せるのはあなたを信頼している証拠ね」


そうじゃん。もしあの時、ティナちゃんにみんなを紹介していたら必然的に璃珀と再会させることになる。あの時の私はまだ璃珀の事情なんて知らなかったから、混乱すること請け合いだった。過去の私、よく気づかなかった!グッジョブ!


「ねえ、いつまでここに泊まる予定なの?今日はあのイベントに参加するだけだから、もう仕事はおしまいなの。もし良かったら、この辺を案内しましょうか?」


見上げる形で私に体を向けるティナちゃんの首元から、太陽に照らされ光り輝くネックレスが見えた。その青い光には、見覚えがある。


「それって……」
「ああ、これ?あなたもトレーナーなら見たことあるんじゃないかしら」
「……。」


その雫型の宝石は、璃珀がつけているものと全く同じ。


「……しんぴの、しずく」


ハクタイシティで璃珀が教えてくれた。あれは、大事な人から貰った物だと。やっぱりティナちゃんは、璃珀と関係がある子なんだと確信した。


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