IB | ナノ

2/4

「あの、すぐ出ていくので!ちょっと用事を済ませたら帰るので、通してくださーい!」
「お引き取り下さい」


撃・沈。
まだ研究者の人たちはリッシ湖の前で佇んでいて、何度もお願いしても結果は変わらず。ていうか、この人たち昨日からずっと同じ場所にいるけど、本当に研究をやってるのかな?


『複数人で来て役割分担してるんじゃない?』
『もうそろそろ終わるって言ってるし、それを待つしかないんじゃないか?』
「そのセリフを聞いてかれこれ2時間が経過しようとしてるけどね!?」


ちょっとこの人たちが怪しく見えてきたぞ。向こうも何度も通せと突っかかる私が鬱陶しくなってきたのか、舌打ちし始めてるし。ガラ悪いよ。


『ご主人は女の子だからね。軽くあしらわれても仕方ないさ』
「うーん……」
『ユイちゃん。ぼく、おなかすいたぁ』
『そういやぁそろそろ昼飯時だな』
『一旦退却するか』


白恵の言葉を皮切りに、一先ず腹ごしらえをしようという話になりレストランななつぼしに向かう。紅眞が『ななつぼしの料理を食う機会を逃すなんて許さん!』って燃えてるし。
璃珀には申し訳ないんだけど、と思っているところで璃珀がボールから出てきて人型になった。どうやら一緒にお店まで歩いてくれるみたい。


「ごめんね。すぐにリッシ湖に行けなくて」
「いいや、寧ろそのままトントン拍子にリッシ湖に行かれると逆に……俺も心の準備があるし」
「璃珀でも緊張ってするんだね」


普段から何でもそつ無くこなしてそうなイメージだから少し意外。するとこら、と困ったようにたしなめる。


「そういうこと言うのはこの口かな」


むに、とほっぺを摘まれる。まあ緊張するよね、拒絶された家族とも言える仲間との再会なんて。
……ただ、最近気になるのは私への接し方。璃珀は私の仲間に加入するきっかけとして、私のことが好きになったからだと言った。でも今朝の話とこれまでの接し方から考えると、彼はもしかして。「ねぇ璃珀」と前置きし、私の考えを伝えた。


「璃珀って、私のこと好きじゃないでしょ」
「……あれ、バレちゃった?」


やっぱり。時々感じた違和感のピースが一つに繋がった気がした。


「だって私のこと、小動物とか妹みたいな扱い方だもん。後は……勘?」
「ははっ、女の勘は怖いなぁ。ご名答、これまでのトレーナーも軒並み女性で、遠くを旅していそうな人に条件を絞って、ご主人の時みたいに誘惑して旅をしてたんだ。あ、でもご主人のことは人としてはちゃんと好きだよ。言葉の綾ってやつさ」
「物は言いよう……」


思いの外中々酷いことしてるね?今まで何人泣かせてきたんだろう。


「でも離脱する時はちゃんと別れてるけど?」
「そういう問題じゃない!もー分かった、璃珀は女の敵!女泣かせ!」
「酷いなぁご主人。……まぁ俺も、自棄になってたのかもしれないけど」


小声で何か言った気がしたけど、聞き返しても何もとはぐらかされてしまった。そんなことをしてるうちにななつぼしの建物が見えてきて、頃合もよく私もお腹が空いてきた。

ふと、店内の様子はどうだろうと大きな窓を歩きながら覗いてみると、何やら客席の真ん中で従業員さんがMCのような事をしてる。何をしてるのか不思議に思っていると、璃珀が突然目を見開き足を止めた。


「…………っ、!?」
「どうしたの?」
「…………嘘、だろ……?」


声をかけても窓に釘付けで、私に気づく様子は無い。何があるのかと店内を注視すると同時に照明が消え、真ん中の従業員さんにライトが降り注ぐ。それを合図に従業員さんがマイクでハキハキと喋り始めた。


《皆様、本日は“ななつぼし”にお越しくださり、誠にありがとうございます。皆様の日頃のご愛顧により、我々はシンオウの中でも有数の名レストランとして繁栄することが出来ました、心より感謝申し上げます。……さて、本日はささやかではございますが、皆様にこのひと時をお楽しみいただくために、とある催しを開催させていただきます》
(催し?)
《ななつぼしで不定期に開催される、我らがグランドレイク従業員との腕相撲大会でございます!我々の誇る精鋭の従業員相手に見事勝てたお客様には特別に、ななつぼしならではの、7種の虹のフルコースを召し上がっていただけます!》
『なんだそれ!食いてぇ!』


紅眞がすかさずボールを揺らし反応する。腕相撲大会とか、力自慢が活躍しそうだね。なんだか楽しそうだ。
そしてライトが従業員さんの横に用意されたテーブルに佇む人影にライトアップされた。その照らされた人は、つい最近知り合った、見覚えのあるあの子。


「えっ」


堪らず困惑した声が出た。だってあの、水色の髪は、


《本日皆様に挑戦していただくのは、こちらの“ティナ”になります!か弱そうに見えますが、彼女はなかなか手強いですよ〜!》
「ティナちゃん!?」


なんでティナちゃんがななつぼしに!?ていうか今の紹介だとティナちゃんってグランドレイクの従業員なの!?ど、どういうことなの!?
一人思考がぐるぐるしてる横で、璃珀が震えた声で一言。


「ねえ、さん」
「は、」


ネエサン?

ネエサン、ねえさん、……姉さん。


「……お姉さん!?」


窓にへばりつくように張り付いて、ティナちゃんを目を見開いて見つめた。
待って、展開についていけない。


prev / next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -