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研究所に戻るまで道中ではコウキ君に、着いた後は博士にもこ叱られた。でもその後、無事でよかったと温かい言葉をかけられた。コウキ君お手製の晩ご飯もご馳走になってひと段落ついた後、博士に呼び出された。
碧雅と一緒に博士の部屋にお邪魔すると、私には理解し難い内容のポケモンの資料が沢山置いてあった。博士は椅子に腰掛けコーヒーを飲んでいる。


「君が研究所を飛び出す前の話の続きをしようと思ってな。ユイ君、君はこれからどうするつもりだ?」
「グレイシア君……ううん、碧雅と一緒に旅をするつもりでいます」
「……グレイシアを仲間にしたのか」


そう言って碧雅を見つめる博士の目は優しげだ。そういえば私が目覚める前にシンジ湖の経緯を話したらしいけど、一体私のことなんて説明してたんだろう碧雅。博士は原型の碧雅をひと撫でしてから机の上に置いてあるバッグを指差した。


「君がそう言うと思ってな、旅の準備をさせてもらったよ。必要な物はあらかた入れてある」
「……え」
「衣類等はバトルの賞金でなんとかしてもらわねばならないがね、今晩の分はヒカリ君が買ってきてくれたから我慢しておくれ」


苦笑いをする博士に対してこっちは驚きで放心状態だ。いやいや、ここまでしていただけるだけで十分ですよ!?ヒカリという女の子にもお礼を言わなきゃ。


「何から何まで本当にお世話になってすみません……」
「わしが好きでやっているだけだ、ユイ君は気にしなくて良い。そしてこれが先程発行された君のトレーナーカードだ」


手渡されたのは私の名前が印刷されてある1枚のカード。これがあるとポケモンセンターという施設が無料で利用できるらしい。保険証みたいなものかな。誕生日、年齢、私が自己紹介で博士に教えたプロフィールがそのまま載っている……あれ?


「あの、出身地がマサゴタウンになってますけど」
「わしの住所を登録させてもらったよ、君の許可も取らずに勝手な真似をしてすまないね」
「……っ、いえ、全然、寧ろ、ありがとうございます」


ほんと、見ず知らずの人間にここまで優しくしてくれる人に出会ったことがない。感情の神エムリットが住むシンジ湖に近いから、心がとても清らかなのかな。どうやって恩を返したらいいんだろう。


「私、なんてお礼を言えば良いか……」
「ふむ、そうだな。では、たまにでいいから、わしに元気な顔を見せに来ておくれ」


それで十分だ。そういう博士の笑顔は優しいおじいちゃんそのものだ。
ああ、完敗だ。頭を撫でられた瞬間私の涙腺が崩壊してしまった。泣き虫と言われても構うもんか。博士に頭を撫でられたまま、部屋に漂うコーヒーの香りがとても優しかった。




翌朝、ムックルが鳴き声をあげて羽ばたくのを見届けてから改めてナナカマド博士とコウキ君と向き合う。泣き疲れたせいもあったのか、昨晩は非常に良く眠れた。

ちなみにバッグの中を確認すると、寝袋に簡単キッチンセットに傷薬、木の実、モンスターボールにタウンマップ、ポケモン図鑑、ポケギア……バッグの容量に見合わないくらい大量の道具が入っていた。あと財布も用意されていて、中には3000円入っていた。旅をしている途中で稼いで、返せるかな。


「ユイ君、気をつけてな」
「いってらっしゃい!何かわかったらポケギアで教えてね」
「うん!ありがとう!」


コウキ君と博士の番号もポケギアに登録されてるし、準備は万端だ。天気は昨日と変わらず快晴で、絶好の旅日和。


「いってきまーす!」


思い切り手を振って、一歩を歩み出した。これから何が待っているかわからないけど、でも、とても楽しみだ!そよ風が私の背中を撫でた。それはまるで、私たちの門出を祝っているかのように感じられた。
腰についている一つのボールを柔らかく見つめ、タウンマップを開きコトブキシティへと進み始めた。




◇◆◇




暗い、暗い、何も見えない闇の中。


自分はどうなってるのか、どれだけここに閉じ込められてるのか、なにもわからない。


ただ唯一分かるものは、あの少女の楽しそうな声だ。


見えなくてもわかる、あの笑顔が。


ああ、幸せそうで、よかった……──



ぼこりと鈍い泡の音が響く。
あの声を子守唄に、今日はどんな夢を見ようか。


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