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「でも、どうして今はリッシ湖を避けてるの?」


今の話ぶりだと、リッシ湖は寧ろ大切な場所だと思うんだけど。思ったことを伝えると璃珀は困ったように眉を下げて、「分からないんだ」と一言告げた。


「あそこでの暮らしはとても楽しかったし、進化して強くもなれた。でもある日、仲間に突然出て行って、近づかないように言われてしまったんだ」


原因は思い当たらないの?と訊くと「……考えたのは、一つだけ」とポツリと呟く。


「その“進化”をしてしまったことが原因だったのかもしれないと、今は思ってる」
「……。」
「ご主人も見たはずだ。リッシ湖は観光地化が進んでいて、人がとても多く行き交う。そこにミロカロス、ましてや色違いの個体が棲息してると分かれば……欲にまみれた人間が押し寄せるのは、想像にかたくないよね」


ギンガハクタイビルで本当の姿を現した璃珀を見て、ギンガ団たちがざわめいていたのを思い出した。
だから、璃珀は普段から人の姿を取っているんだ。


「俺の家族たちはリッシ湖でアグノムを守るためにあそこに住んでいる。けれど人間を呼び寄せてしまう俺がいると、いつかアグノムにまで危害が及ぶと考えたんじゃないかな。それが邪魔になって俺をリッシ湖から追い出した。元々他人なんだからいなくなったところで影響は無いしね、辻褄は合う」

「あとはさっきも話した通り、擬人化した俺に近付く人間を相手しつつ、何人かのトレーナーの元に身を置き、それが世界を旅して回ることに繋がった。時にはまぁ……ここでは言葉を濁しておくけど、色々あったね」
「…………そう、だったんだ」


喉が乾いた。私はほとんど喋っていないのに、話を聞くだけで重い気持ちになってしまった。璃珀はいつもと変わらない様子で私を気遣ってくれた。


「やっぱりこれは、人に聞かせるものじゃなかったね」
「ううん、教えてくれてありがとう。初めて話すって言ってたもんね……すごく、勇気がいることだと思う」


自分の故郷に、言ってしまえば2度も裏切られてしまった。それは本人は受け入れているつもりでも、誰かに話すのは覚悟がいる。私にこうして話してくれたのは曲がりなりにも、私を信じてくれてのことだと信じたい。

璃珀がリッシ湖を避ける理由は分かった。でも、一つ気になることがある。


「璃珀は、リッシ湖の家族に理由を聞いたの?自分が出ていかなければならない理由」
「……えっ」
「だって話してくれた原因って、自分で考えて出した結論でしょ。本当にその家族がその理由で追い出したのか分からないもの」


きっと璃珀が理由を問い詰めなかったのは、怖かったから。本人が気にしてないつもりでも、テンガン山の住処で受け続けた迫害がトラウマになってるんだ。もし理由を問い詰めればきっと、また同じ目に遭うんじゃないかと、心のどこかで怯えていたんじゃないかな。
だから、言われた通りに出て行った。言われた通りに近付かないでいる。


「璃珀には権利があるよ。どうして璃珀を追い出したのか、知る権利がある」
「……いや、でも」
「どうして自分の故郷に戻っちゃいけないの?璃珀はそこが大切なんだよね。そんな扱いをされてもまだ。自分の育った場所に戻りたい時に戻れないなんて、おかしいと思う」
『同感です』


今まで黙っていた緋翠が声を発した。


『事情は分かりました。マスターに危害を加えようとした訳では無いことも理解しました。ならば次に私たちが行うべきは、今回の自体の元凶となった根源を絶つことだと思います』
「リッシ湖は目の前にあるんだし、璃珀も本当の理由を知りたいと思わない?」
「……考えたことも、無かったな……」


でも、璃珀は今回なんだかんだとグランドレイクまで来てくれた。きっと心の奥底では戻りたい、知りたいと願っているはずだ。迷いが生じてる目を真っ直ぐ見つめる。視線から目を逸らし、「そもそも俺」と自虐気味に笑った。


「まだ仲間……で、いいのか、な」
「〜〜っ璃珀!」
「!」


たまらず璃珀の手を取った。両手で逃がさないようにぎゅーっと。悲しげに微笑んだ顔は今は驚き一色で、私はその美しい顔に思い切り詰め寄った。


「仲間だよ!あなたはひとりじゃない!!」


大声を出したことで、碧雅たちも大きな音を立ててドアを開け室内に入って来た。璃珀はみんなを見渡し、突然声を上げて笑いだした。


「……ふ、あははっ……!」
「えっ突然笑いだした!?」
「狂った??」
「こら碧雅」
「はははっ……はぁ〜っ……参った。でも分かった、俺も腹を括る」


笑いすぎて涙目になった璃珀が目元を掬い、どこか清々しく、吹っ切れたように見えた。


「迷惑をかけるけど、よろしく頼むよ。ご主人にみんな」
「……うん!私だって散々迷惑かけてるんだし今更!」
『ええ。ならまずはお腹が空いてるでしょうから、食事にしましょう』

「何これ、どういう状況?」
「ずっと廊下にいたから分かんねぇ」
「ちゃんと僕たちにも説明しろ貴様らァ!話を勝手に進めるな!」
「…………おてんき、だいじょうぶかなぁ」


君は、ひとりぼっちじゃない。


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