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ふと、夜中に目が覚めた。夢を見ていたわけでもなく、ちょうど意識が浮上して目が覚めてしまったのだ。ついさっきまでぐっすり寝ていたのに眠気は逃げてしまって、目を閉じても一向に寝る気配はやって来ない。意味もなく瞬きを繰り返す。


(こういう時は羊を数えるといいんだっけ。羊が1匹、羊が2匹、……)


10匹数えたあたりで飽きてしまった。しかも寝れないのは変わらず。喉が渇いたので水を取りに起き上がると、バルコニーに人の影があることに気づいた。もしかして仲間の誰かも寝れなくて起きてるのかも、淡い期待を寄せ人影に話しかけた。


「寝れないの?」
「……あれ、ご主人?」


影の主は璃珀だったようだ。近づいて分かったけど、どうやらバルコニーにあるテーブルセットにワインを添えて呑んでいたようだ。うわ、なんか大人って感じ……。


「綺麗だね、夜景」
「今日は良い月が出てるからね」


上を見上げれば夜空に満月が出ていた。ワイングラスを片手に月を見上げて静かに過ごすが茶化すように「呑むかい?」と聞いてくる。まだ未成年だよと苦笑いで返答するけど、にこやかに佇む彼は何を考えてるのかよく分からない。
そういえば、どうして璃珀はリッシ湖に行くことを快く思っていないんだろう。ふと感じた疑問は自然と口に出ていた。


「どうして、あの時リッシ湖に行くことを反対したの?」


一瞬だけ、璃珀の動きが止まった。およそ数秒のことだったと思うけど、返答を待つ時間がやけに長く感じた。


「知りたい?」
「……う、うん」


やっぱりと言いたげに、ほくそ笑むように口元が笑った。あそこを見てご覧とある場所を指さした。


「ここからだと少し見えにくいけど、月光に反射してる水面が見えるかな。あそこがリッシ湖」
「うーんと……、あれ?」
「そう。あそこにはアグノムと呼ばれる、意志の神が棲むと言われている。そして、アグノムを守るためにあるポケモンがあそこにはいるんだよ」
「あるポケモン?」


そんな話聞いたことないし、本にも書いてない。シンジ湖にもそんなポケモンはいなかったと思うけど。
見えにくい位置にリッシ湖があったので、バルコニーから身を乗り出した状態で話を続ける。璃珀が私の背後に立った気配を感じた。落ちないようにか、肩をそっと触られる。妙にその感触にドキリと緊張した。


(あれ、そういえば璃珀って私の事好きじゃなかったっけ?)


時は深夜。相手は酒が入ってる。しかも2人きり。これもしかして危険な状況なのでは?自意識過剰かもしれないけど慌てて後ろを振り向けば、そこに立っていた璃珀は今まで一緒に旅をして過ごしてきた中で、初めての表情を浮かべていた。


(え?)


今の会話で、そんな空気になるはずないのに。どうして。


(泣きそうに、なってる?)


悲しむように眉を垂らし、悔やむように口元を歪ませて、その眼差しには私を見ているようで私では無い気がした。彼の目には、私を通して何が映っているんだろう。口から紡がれた言葉は、震えていた。


「ああ、参ったなぁ。やっぱり、似てるね」
「どうし、……」


その先の言葉は口から出なかった。泣きそうになった顔を見せたのも束の間、璃珀の水のような目がいつか見た事のあるあの光を纏ったから。


「あ、」
「ごめんね。さようなら」


さいみんじゅつだ。気付いた時にはもう遅く、私は術中に嵌り意識が低下して、体がバランスを取れず倒れそうになる。


そのまま──……




「……何、してる」


頭上から聞こえた一段低い声。同時に抱き止められた感覚。息を飲んだ璃珀の声と誰かの声が聞こえてくる中、私は少しづつ意識を手放して行った。


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