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トバリシティを出発して早数時間。ゴツゴツとした岩肌に草が生い茂る214番道路を越え、私たちはリッシ湖に辿り着いた。せっかくだからホテルにチェックインする前にリッシ湖を見ておこうと思ったんだけど、入口前に人がいる。白衣を着た人に話を聞くと、どうやら湖の伝説を調べるために他の人は入れないようにしているんだとか。
門前払いを喰らったような気分だったけど、正当な理由があるならどうしようもない。今日は諦めてまた後日リッシ湖を訪れることにした。



ゲートのフロントでチェックインを終え、渡されたルームキーで指定された部屋……もとい家の前へ。グランドレイクはビルのように1つの大きな建物ではなく複数の家が部屋代わりなんだって。白と青を基調とした家に入ると、そこに広がるのはホテルの煌びやかかつシンプルに整えられた室内だった。ボールから飛び出した紅眞と共に部屋に一番乗り。


「『おぉ〜……!!』」


そして紅眞はベッドに、私はソファに大の字でダイブした。


『ベッドでけぇ!』
「ソファふかふか!」


しばらく柔らかさを堪能し、次に私が向かったのはリビングにセットされた冷蔵庫。同時に脱衣所を見てきた紅眞が興奮した様子で顔を出した。


『風呂とトイレもちゃんと別!しかも広い!』
「冷蔵庫に飲み物も入ってる!」


ちなみに他のみんなは既にボールから出していて、入口付近で立ち止まったまま。というか私と紅眞の勢いに若干引き気味の様子、主に碧雅が。そんなのお構い無しに私と紅眞は室内をチェックする。


『部屋の照明、これシャンデリアか!?』
「カーテンがなんかお高そう!」
『それを言うならここにあるもの全部高そうだぜ!』


それはそうだ、本来なら私みたいな一般人が来れるはずのない高級ホテルなんだから。ティナちゃんに感謝しないと!


「擬人化した時のみんなも数に含めた甲斐があった!」
『ちゃんとそれぞれベッドが分かれてて部屋も広くなるしな!』

「『グランドレイクサイコー!!!!』」


『…………。』
『碧雅のお2人を見つめる目がなんとも言えない冷たさを物語ってますね』
「子どもみたいにはしゃいで楽しそうだね、2人とも」
『やってることは完全に貧乏人のそれだが』
『ふわぁ〜……』


一頻り室内を堪能しても興奮冷めやらずな私たちを尻目にぞろぞろとみんなも入って来て、すぐに人の姿をとる。擬人化したみんなが揃ってもスペースにはまだまだ余裕がある。ポケモンも寛げるように広めに部屋を作ってあるんだろうな。
今夜は晶の行きたがっていたレストランななつぼしでディナーを楽しんで、明日はリッシ湖を観光だ!


「ねぇねぇ!喉乾いたから冷蔵庫の飲み物みんなで飲もうよ!」
「ご主人、そういう類のものは後で追加料金がかかるんだよ」
「マジで?俺もう開けちった」
「嘘ぉ!?」
「開き直って飲んじまおうぜ。ほら璃珀、酒もある!」
「俺、たしなむ程度にしか呑まないんだけど見事に全部開けたね紅眞くん」
「ぼく、ミックスオレのみたい」
「じゃあ僕はサイコソーダ。どうせユイのお金なんだし飲んじゃお」
「これ後で優待券利くのかなぁ……」


「……はぁ、騒がしいな」
「でも、内心では楽しいでしょう?」
「…………それはお前に言わないといけないことか?」
「いいえ。その顔が見られれば充分です」


あれ、緋翠と晶が向こうで喋ってる。2人にも飲み物はどうかと声を掛けに行くと晶は何故か驚いた様子。


「……聞いてないよな?」
「何を?」
「……なんでもない」


足早に去っていく晶。その後姿を小さく笑いながら見送る緋翠。


「気になさらないでください、マスター」
「う、うん……?」


まあ楽しんでくれてそうなら、良いかな。紅眞と飲み物の取り合いをしている晶は、少し生き生きして見えた。




◇◆◇




そして夜。晶ご要望通りレストランななつぼしにやって来た。事前情報の通りポケモンバトルの勝率に応じて料理のコースが変わるみたいだった。出たがっていた晶でバトルに挑み、結果はなんとか全勝。連続バトルになるとは思わなくて、流石に最後は負けると思ったけど晶の粘り強さが良い意味で効いたね。

美味しい料理を堪能し部屋に戻る際の夜道、食後の運動がてら寄り道をすることにした。ライトアップされ舗装された道や家の白が夜の色とライトの色で合わさり、静謐な雰囲気を出している。冷たい夜風に晒されながら、周りを見渡した。


「それにしても、リッシ湖ってシンジ湖と同様に神様が住んでるって言われてる湖なんだよね?随分観光地化が進んでるみたい」


シンジ湖の周辺は寧ろ自然そのままって感じだったから、ある意味対極だね。


「シンジ湖の周りは田舎街が多いからね。ここはアクセスもいいから来やすいんじゃない」
「ナギサ、ノモセ、トバリ。少なくともこの3つの街に行けるからね」
「なるほどー」


本で調べたけど、リッシ湖にはアグノムと呼ばれてるポケモンが眠っているって言われてるんだよね。会えるとは思わないけど、一度この目で拝んでみたいなぁ。誰に向けてでもなく独り言のように呟いた。
すると、突然一人分の足音が止まった。


「本当にリッシ湖に行くのかい、ご主人」
「え……?」
「俺は、おすすめしないかな」


今まで璃珀が反対意見を零すことなんてほとんど無かった。眉を下げて微笑むその顔は、どこか悲しそうに見えて。先に進んでいた紅眞たちが進みが遅い私たちの様子を見に来たのか、後ろからガヤガヤと話声がする。


「待たせてたね、帰ろうか」


背中をそっと押し先を促す璃珀の顔を窺い知ることは、できなかった。


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