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帰るって言ってたけど、そもそもどうしてグレイシア君はここに来たんだろう?


「グレイシア君さ、どうしてシンジ湖にいたの?」


ふと気になったことを聞くと、ぴく、と明らかに彼の雰囲気が変わった。触れてはいけないものに触れちゃったような。グレイシア君は感情の読めない表情で目線を合わせないまま、私の質問に答えた。


「……ちょっと探しものがあってね」
「?そうなんだ、とっても大事なもの、なんだね」
「多分、ね」


その曖昧な言い方に少しもやっとした気持ちを感じながらも、グレイシア君の雰囲気からこれ以上聞かない方が良さそうだと判断した。それに、そろそろ研究所に帰らなきゃ。
空気を変えるのも兼ねて私はモンスターボールを砂浜に置いた。


「それじゃ、このボールなんとかしないとね!いつまで経っても私のポケモンになってちゃグレイシア君困っちゃうし」


で、これどうやって登録とか解除できるんだろう。私が思い浮かぶボールの使い方はポケモンに投げる、手持ちを出す時に投げる、とりあえず投げる方法しか浮かばない。
最悪壊すしかないのかな……ある意味でグレイシア君と繋がりを持てたきっかけでもあるから、壊すのは名残惜しいけど。


「どうせなら、グレイシア君と一緒に旅ができたらいいなー!……なーんて」


冗談交じりにそう言ってみた。もしそうなったらいいなと思ってるのは事実。でもグレイシア君は帰りたがってるし、ここは本人の意思を尊重しないと。


「ん、いいけど」
「軽っ!」


さっきまで帰りたがってたじゃん!何その気の変り様は!?予想外の返答に思わず突っ込んでしまった。


「どうせ帰っても何も無いし退屈だし、君と旅して回った方が僕の探しものも見つかるかもしれないし」
「良かった、ちゃんとした理由があった」
「あと君で遊ぶのが面白そう」
「後者の方が本音に近そうなんだけど気のせいですか!」


ギンガ団に会った時とはまた違う身の危険を感じる。
こっちを見ながら言うグレイシア君にぶるりと背筋が震えた。でも、心の奥では嬉しい気持ちが溢れている。まだグレイシア君と一緒にいられるんだ。
人型から原型に戻ったグレイシア君はこちらを見て尻尾を一振りした。私はしゃがみこんで、視線を合わせる。


「旅って、危険がそれなりにあると思うよ?それでも私と行っていいの?」
『どちらかというと君はその危険に自ら首を突っ込むタイプに見えるけどね、びびってるくせに』
「うっ、よくご存知で……」
『ポケモン無しでトレーナーに挑む馬鹿はそういないっての。あんまりうじうじしてると付いてくのやめるよ』


え、それはやだ!私は砂浜に置いたボールを拾い、それをグレイシア君にそっと向けた。
今日から私と君は、パートナーだよ。


「……よろしくね。グレイシア君!」
『うん。よろしく、ユイ』
「あれ、名前教えたっけ」
『博士たちの自己紹介に僕もいたの忘れてない?』


そうでした。あの時はゴチャゴチャしてたからなあ。今までの出来事を思い出しながら、ふと閃いた。

そうだ!
折角ならグレイシア君に、


「名前付けてもいい?」
『は?』


絶対零度の如き冷たい声と怪訝そうな顔で睨まれた。何言ってんのこいつみたいな目で言うのやめて。


「グレイシアって、種族名でしょ?私が今日会ったグレイシア君は、この世界でただ1匹だけだから、どうせなら証として名前をつけてあげたいな……って思って」


我ながら臭いセリフ吐くな。恥ずかしくてちょっと笑いながら言うと、グレイシア君はちょっと呆気に取られた顔をしてる。
何故。


『……ただ1匹、ね……』
「ん?」
『別に、付けるのは構わないけど変な名前にしないでよね』
「ちょっとプレッシャーかけないでよ」


尻尾見て言うってことは、変な名前だったらそれで殴るってことですよね!?ちょっとヒラヒラ揺らしてるし、やる気満々じゃん。
あれグレイシア君こんな子だっけ、と思ったけど既にしっぽビンタ喰らってたね。

それよりも名前名前……。男の子ってどんな名前がいいのかわかんないなあ……。うーん、青い身体がすごく綺麗だから……


「碧雅……」
『みやび?』
「うん、碧雅!どう?」


頭の中で浮かんだ名前だけど、悪くないんじゃない?


『……まあ、いいんじゃないの』
「よし!じゃあグレイシア君は今日から碧雅ね!」


いつの間にか夕陽は沈んでいて、月が出始めていた。早く帰らないと!碧雅をボールに入れて研究所に向かう私だけど、すぐにその足は止まった。
……研究所まで、どう向かえばいいんだろ……。

数分後にコウキ君が私達を探しにマサゴの浜に来るまで、私は碧雅からの冷たい視線を浴びていた。


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