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あの後は大した事はしていないからとその場を離れた美少女に続き、私たちも彼女に着いていく形で小物店を後にした。そして偶然目に着いたカフェで「お茶にしましょうか」と当然の如く相席になった。白恵は何を考えているか分からない顔で店員さんに「もーもーください」とマイペースだ。私はぎこちなくアイスティーを頼んだ。
優雅にミルクティーを一口飲んだ美少女がほぅとひと息ついた。この見た目であの引ったくりに空中回し蹴りを喰らわしたとか未だに信じられない。


「そういえば名前を聞いていなかったわね。あなたお名前は?」
「ユイ、です」
「そう、ユイ.....。可愛いお名前ね」
(なんか照れるんだけど)


面と向かって可愛いと言われた経験があまり無いから、同性に言われるのもどこかむず痒い。そういえばこの子の名前は一体なんだろう?それとなく聞いてみると「そういえばあたしも名乗ってなかったわね」とティーカップを置いた。


「あたしの名前は、ティナ。お礼を言うのが遅れてしまったけれど、さっきは有事にも関わらず協力してくれて助かったわ」
「いやいやあれ私いなくてもなんとかなってたよね!?」
「いいえ?お陰で力を加減できて余計なものを壊さずに済んだから」
(う、ううん?)


それはさておき、とティナちゃんは一呼吸おき私の顔を見た。


「あなた、あたしが怖くないの?」
「えっ?」
「...…さっきの、とか。せっかくあたしのことを褒めてくれたのに、幻滅したでしょう」
「そうかなぁ。驚きはしたけど、幻滅はしないよ」


寧ろその服でどうやってその空中回し蹴りを行ったのかーとか、グレッグルをいつの間にぶっ飛ばしたのかーとか、そっちの方が気になる。
あと単純に悪い人をああやって懲らしめるのって、


「正義の味方って感じで、とってもカッコよかったよ!」


思ったことをそのまま伝えると、ティナちゃんは目を大きく見開いていたが、次の瞬間には自虐的な笑みを浮かべ目を伏せた。


「それも、きっとこの姿だからでしょうね」
「...…え?」
「なんでもないわ。あ、そうだわ!もし良かったら、これ受け取ってもらえないかしら」
「えっと……“ホテル・グランドレイク 宿泊優待券”?」
「知り合いに頂いたんだけど、生憎あたしは用事があっていけないの。良かったらあなたが使ってくれると嬉しいわ」
「そうなんだ...…?」


でもこれ、期限書いてないけど?用事が終わったら行けばいいんじゃない?そう伝えても、ティナちゃんは首を振るばかり。「その代わりと言ってはなんだけど、お願いがあるの」と言った。お礼なんてなくてもお願いなんて聞くのに。相槌を打ち続きを待った。


「……あたしの、友達になってくれる?」
「...…友達?」


あれ、もう友達じゃないの?友達になるために等価交換でホテルの優待券をくれるってこと?なんか違くない?


「…...やっぱり、なんでもないわ。忘れてちょうだい」
「いやいやいや!ちょっと待ったァ!」


返事をしない私にティナちゃんはノーと判断したのか、憂いを帯びた顔で話を無かったことにしようとしていたので慌てて待ったをかける。


「私、もうとっくに友達だと思ってるよ?」
「えっ…...?」
「なーんて、私がそう言うのは烏滸がましいかな。でも、私はティナちゃんと友達になって、もっと沢山お喋りしたり、一緒に買い物したり、遊んだりしたいなぁ」
「……良いの、かしら」
「良いと思うよ?ティナちゃんがそうしたいなら、そうしようよ!」


ね!と手を差し出す。ティナちゃんはさっきまでの勇敢な姿は何処へやら、慣れない様子で恐る恐る私の手を取った。私の手を見つめ、噛み締めるように握りしめた。


「よろしくね、ティナちゃん!」
「……っええ、ええ!よろしく、ユイ」


こうして、ティナちゃんというちょっと不思議な可愛い友達ができたのである。


「…...うーん。もーもー、きょうもかくべつ」


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