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突然話しかけられ心臓が大きく高鳴る。少ししか読まないつもりがいつの間にか夢中になっていたらしい。白恵が私を呼ぶまで私はずっとこの本を読んでいたようだ。白恵は一冊の本を持ちながら2色の目を私にぶつける。


「たちよみはよくないってみゃーちゃんいってたよ」
「そ、そうだね……」


驚いた拍子に本は閉じてしまった。内容も気になるところだし、お金にも余裕があるから買っていこう。碧雅も読みそうだしね。白恵はどんな本を選んだのか聞くと、これだよと本を渡してくれた。“ミュウとさいごのしま”というタイトルの絵本。あ、さっき読んでた本にもミュウってポケモンが出てたな。デフォルメされているだろうけど、絵本のイラストを見る限りピンク色の身体に細くしなやかなしっぽと脚に大きな青い瞳が可愛いポケモンだった。


「この本でだけでいいの?他にも欲しい本があったら買うよ?」
「うん、これでいいの」


大事に抱え込む様子を見て、相当気に入ってるんだなあと感じた。本人がこれでいいと言っているならそれで良いか。次の街のガイドブックも合わせ3冊購入し本屋を後にした。




(あ、可愛いお店)


用事も終わったので屋上に向かっている途中、気になる小物店を見つけた。特にこれといって買うものもないけど、内装が可愛いので見てみたい。白恵にも見ていいか聞いたところ「いいよ〜」と言われたので少し寄り道だ。


(お、おおぉ……!可愛い!)


ほんわかとした雰囲気の小物入れもあればアンティークのようなシックな商品も置いてある。ナチュラルなお皿が沢山置かれている商品棚。普段の生活にプラスワンポイントを添えてくれる、こういうお店は見ているだけでも楽しい。
白恵も興味深そうにキョロキョロしているので、つまらない訳じゃなさそうだ。


(あ、このブレスレット良いかも)


青い石が散りばめられたシンプルなデザインのブレスレットが目に止まった。何の気なしに手を伸ばしそれを取ろうとした時、誰かの手と当たった。咄嗟に手を引き後ずさる。


「ご、ごめんなさい!」


視界の端から見えたのは、波のように揺らめく水色の髪だった。


「謝ることはないでしょう。あなた、悪いことをした訳じゃないんだから」
「いやぁ〜つい謝り癖がついちゃ……っ……て……ーー」


徐々に言葉数が少なくなりしまいには息を飲む。なぜなら目の前の女の子が、文字通り息を飲んだ程のとんでもない美少女だったからだ。


(何このとてつもない美少女は!!!)


ウェーブのかかった水色のショートカット。編み込みの上にカチューシャを付け、ガーネットのように赤い瞳が映える。レースが施されたメイド服風のワンピースを違和感無く着こなす彼女は正しく美少女と形容するに相応しい容姿の持ち主だった。


「あなた、口をポカンと開けてどうしたの?」


眉を下げて心配そうにこちらを見つめる彼女と目が合い、ハッと我に返った。


「だ、大丈夫です!」


反射的に大丈夫と応えてしまうのは悲しいかな日本人の性か。私の挙動が慌てているからか、彼女は眉を下げたまま「…...、本当に?」と首を傾げる。あ、怪しまれてるかな……?ここは素直に言った方がいいのかな…...!?


「そ、その……すごく、恥ずかしいんですけど……あなたが、めっちゃ可愛くて」
「えっ?」
「めっっっっっちゃ可愛いです!!」
「…...えっ、」


大事なことなので勢いつけて2回言いました。案の定固まった。やっぱり不味かったか、そりゃそうだ。彼女は呆けた表情で自分に向けるように「あたしが、かわいい……」と小さく呟く。うん、その表情もまた可愛い。


「…………。」
「...………えっと、」
「…...…...。」


美少女は無言で俯いて黙ってしまった。き、気まずい!!この空気を作ったのは間違いなく私なんだけど、どうやって空気を変えたらいいんだろう。こんな時紅眞や璃珀ならうまいこと話題を違う方へ誘導できるのになー…...。

どうしようか途方に暮れていた時、誰かの叫び声が聞こえた。その声を聞いた途端彼女の目付きが変わり、声のした方へ顔を向ける。


「何かしら」
「どけどけどけぇい!」
「誰かあぁ!」


何やらお店の外が騒がしい。ちょっと気まずい空気が薄れ、美少女と顔を見合せ外を伺うと、男の人が暴れるように走り回っていた。その後ろから女の人が手を必死に伸ばして男の人を追いかけていて…...これってもしかして。


「引ったくりってやつ?」
「ハァ……相変わらずこの街は治安が悪いわね」
「ユイちゃーん」
「あ、白恵!危ないからこっちにおいで」


はーいと私の腰周りにギュッと抱きつく白恵。不覚にも和んだ。


「時間が惜しいわね。ねえあなた、悪いけど向こうで待っててくれるかしら。そこの坊やも一緒にね」
「え、何するの……っていない!?」


いやいた!?あの一瞬でいつの間に移動したのか美少女は引ったくりの通るルートの先で涼しい顔で毛先をくるくると弄んでいた。だが視線はしっかりと引ったくりに向けられている。
え、ええととりあえず言われた通りの場所で白恵と待機した方がいいよね。長いフロアの廊下の先を私と美少女の2人で引ったくりを挟み撃ちにしているような図だ。
突然目の前に現れた美少女に驚いた引ったくりはモンスターボールを投げ、手持ちのグレッグルをけしかける。


「グレッグル、このガキを遠ざけろ!」
「あら、“ガキ”だなんて、随分口の利き方がなってないわね」
「…...!舐めやがって。グレッグル容赦するな!どくづきだ!」
「あ、危ない!」


人間相手にどく技を放つなんて、この人何を考えてるの!?毒々しい色を帯びた片手を構え襲いかかるグレッグルにも臆することなく優雅に微笑んでる美少女。そして何故か構えた状態でグレッグルが石になったかのようにピタリと止まった。


「?おいどうしたグレッグル。やれ!」
『あ、あ…...兄キィ…...』
「あらどうしたのかしら?震えているわね、グレッグル」
「…...“きけんよち”」
「?」


ボソリと呟く白恵の言葉が上手く聞き取れなかったけど、どうやらグレッグルは震えて攻撃を仕掛けられないらしい。何をやったか知らないけどあの子凄い!


「あたしたちの領域(テリトリー)で暴れた分、報いは受けてもらうわよ」


ドゴォ!


「.........へ、?」


私のすぐ側で鈍い音がしたような。ゆっくりと音のした方へ振り向くと、そこにいたのは目を回しダウンしているグレッグル。え、さっきまで向こうにいたはずじゃ...…ーー


「ーーーー」


言葉を失った。何故ならあの美少女が長いスカートを靡かせ高く飛び、空中でくるりと回りながら足を伸ばし、引ったくりを蹴り上げていたから。


「ぐがぁぁ!!」


重い音を上げた引ったくりが蹴り上げられた拍子に数メートル吹っ飛び、引ったくったバッグが空中を舞い、私の方へ飛び込んできた。今起こった光景に私は動くこともできず、まるで計算されていたかのように空中で弧を描き手元に落ちてきたバッグを呆然と受け止め、目をぱちくりさせていた。


「ナイスキャッチね」


しんと静まる空気の中、この場で彼女だけが嬉しそうに微笑んでいた。


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