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つまり……碧雅は幼い頃の記憶がなくて、気付いた時からグレイシアとして生きていた。唯一記憶として残っていた“シンジ湖で待つ”という声を頼りにシンジ湖までやって来て、私と出会った。当時の言葉をそのまま解釈すれば、元の住処に戻っても特に変わらないのと“探しもの”……つまり自分の記憶を見つけるため、私と旅に出ることにした。
そしてハクタイシティで出会ったステラという人物が自分と同じ顔をしていて、自分と関係があるのではないかと踏んでいる。ただステラがあまりにも危険なため、近付くのはリスクが高いと判断している……こんなところ?


「碧雅、なーに悩んでんだよ!」


紅眞が陽気な声で碧雅の背中を思い切り叩いた。流石かくとうタイプというべきか、思ったより威力のあったそれは碧雅が珍しく噎せ込むくらい勢いがあったらしい。


「っゲホッ」
「アレだろ、お前は俺たちが以前アイツにボロ負けしたことを気にしてる。ステラに接触したいけど俺たちを巻き込みたくないんだろ?」
「…………。」
「なら簡単な話じゃねぇか。俺たちが力を合わせてアイツより強くなれば良い!俺や緋翠、白恵も進化の可能性を残してる。ユイだって着実にバトルの指示もレベルが上がってるし、全員トレーニングをしてるんだから確実に以前の自分より強くなってる。そういう努力は必ず報われる」


紅眞が碧雅を説き伏せる場面を見ることになるとは思わなかった。紅眞は理で攻めるのは苦手だけど、その分持ち前の明るい性格で仲間を奮い立たせるには最適と言っていい人材だ。


「一人で勝てないなら二人で、二人で勝てないなら三人で!今回は関わらないとしても、ギンガ団とはシンオウ地方にいる限り鉢合わせることになるのは避けられないだろ?俺たちは一人じゃないんだ、みんなで協力してあの白髪頭に一泡吹かせてやろうぜ!」


太陽のようにニカッと笑い、親指を立てる。ていうかステラの呼び方、晶も紅眞も“白髪頭”で定着しちゃってるよ。続けて晶が顎に手を添えながら言葉を続ける。


「トサカ頭と同じ考えなのは納得いかないが、そのステラという奴に興味はある。どれ程の強者なのか、この目で確かめてみたいな」
「私としてはギンガ団に近付くことは避けたいですが、碧雅の記憶に関わることがあるのでしたら強く否定は致しません。わざわざステラに近付かなくとも下っ端や幹部が知っている情報があるかもしれませんし」
「ただご主人の安全はもちろんハクタイシティでの一件もある。こちらから近付くことは控えて、向こうが行動している所に徐々に接触を図るのが良いんじゃないかな」
「……みゃーちゃん、あんしんして。だいじょうぶ、よしよし」


白恵が碧雅の頭を撫でる。そして碧雅以外の目が私に向かれた。完全に蚊帳の外だった私だけど、思うことはみんなと一緒だ。美味しいとこ取りな気分だけど碧雅の前に出て、手を差し出した。


「みんなで一緒に、あなたの記憶を見つけに行こう」


私だってこの世界に来た理由と帰る方法を調べるために旅を始めた。それは一人では決してなし得ないことで、この世界で右も左も分からなかった私に手を差し伸べてくれたのは碧雅だ。碧雅だけじゃない、他の仲間たちもこんな私に付き合って一緒に居てくれている。少しでも彼らに恩を返したいと思うのは我儘なのかな。

しばらくの間碧雅は固まっていたけど、白恵が頭を撫でるのをやめ離れたところでゆっくりと手を伸ばし、私の手を握る。こおりタイプだからか、彼の手はひんやりと冷たかった。


「……本当に、どうしようもない奴らだね、君たち」
「へへっ。まずは明日のジム戦、頑張ろ!」


私の言葉に続き紅眞たちも手を合わせる。これが彼なりの“ありがとう”なのだと理解しているから。


(手が冷たい人は心が温かいって言うよね)


彼の場合は種族が関係しているからちょっと違うかもしれないけど、根本は変わらない。


「…………よかったね、みゃーちゃん」


一人そう呟く白恵の声がPCの部屋に静かに融けていった。


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