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あれから幾分道路を進み街のゲートが見えてきた。ゲートの奥にはビルらしき建物が朧気に見えている。タウンマップと照らし合わせて……うん、ここがトバリシティで間違いなさそうだ。ゲートを抜けた先に出た街並みは、コンクリートと岩の灰色に覆われていて、凸凹とした地形が特徴的な無機質な印象の街だった。煌びやかなヨスガシティとはまた違った雰囲気の都会だと感じた。
まずは宿を確保しようとPCに向かう途中、ふと目に付いたのは真ん中に位置する大きなデパート。


(ゲート前から見えてた建物はこれだったのかな?でも、もうちょっと特徴があったような……)


──それは、更に高い高台にあった。

トバリデパートより大きいビルの周りには電波をキャッチするアンテナが設置されていて、ハクタイビルをさらに拡張させたような建物だ。ハクタイビルが部下なら、この建物はさながら親分みたいって言えばいいのかな。まあ人じゃないけどね。ポケモンたちもこの建物の放つ嫌なオーラを感じていたみたいで、特に緋翠は警戒心を顕にし気をつけるよう忠告した。
建物の雰囲気からまさかとは思ったけど、嫌な予感は当たるものだ。人もそれなりにいるので小声で緋翠に確認する。


「……ここ、もしかして本部だったりする?」
『……、はい』
「よし、早めにジム戦やって離れよう」
『おいちんちくりん。あの不愉快極まりない見た目の建物はなんだ?説明しろ』
『晶、どうどう。暴れるんじゃねぇぞ〜』
『僕はケンタロスじゃないぞトサカ』
『あっちゃん、ケンタロスだったの?』
『いやお前案外猪突猛進っぽいからいけるんじゃ……ってボールで暴れんなよ揺れるし酔うわ!』
『わぁ〜すご〜い!びゅんびゅんだぁ〜!』
『後で追って説明するから黙っててくれる馬鹿二人』
『きみたちはボールの中でも賑やかだね』


正直言えば、緋翠のような被害に遭っているかもしれないポケモンたちを助けたい。だけど以前、ハクタイビルではこちらが危険な目に遭ってしまった。仲間もあの時より増えたけど碧雅が以前言っていたように、向こうは組織でこちらは個。戦力の数で言えば圧倒的に向こうが上だ。どれだけみんなが強くても数の暴力には敵わない。それに恐らく、ケタ違いに強いであろうステラという存在もいる。


(ハンサムさんみたいな国際警察が追ってるんだ。きっと、解決してくれるはず)


もどかしい気持ちもあるが、自分たちだけではどうしようもないことも事実。それに情報提供や、必要に応じて応援に行くことも出来る。私は私でやれることをやるんだ。
その為にはやっぱり、ジム戦は必要不可欠な要素に入るんだ。




◇◆◇




「はぁ!?」


珍しく驚愕した晶の声がPCの室内に響く。


「お前たちそんな無謀なことをしでかしたのか!?……雪うさぎもいながら阿呆だな」
「晶に言われるとなんかムカつく」
「まあそういう事だ。俺たち以前ギンガ団とやり合ったことがあって、その時危うく全員命の危機に瀕したってワケだ。……悔しいけど、関わらない方がいい」
「俺もその意見に賛成かな。改めて当時を振り返ると、よく無事だったよね俺たち」
「笑顔で言うセリフでは無いと思うのですが、璃珀」
「白恵も今の話は分かった?」
「…………うん、わかった」
「事情は理解した。だが気になることがひとつある」


そう言い晶は腕を組み碧雅を見つめた。多分気になっているのは、人型の顔が同じ彼のことだ。


「その雪うさぎに似ている奴というのは何者だ。お前、何か思い当たる節は無いのか」
「……いや、」


碧雅は首を横に振った。晶の疑問はごもっともだ。今までその話題に触れてこなかったとはいえ、ステラと碧雅の関係は気になるところだった。あそこまで瓜二つの顔立ちなのは2人に何か繋がりがあるとしか思えない。
ステラの話題に触れた後、碧雅は考えるように黙り込んでいたが、意を決したように顔を上げた。


「丁度良い。みんなに話しておきたいことがある」
「なんでしょう?」


話を切り出した碧雅に全員の視線が注目する。碧雅は一瞬だけ視線を逸らした後、小さく息を吐き「僕のことについて話す」と言った。


「碧雅のこと?」
「……僕には幼少期、イーブイだった頃の記憶が一切無い」


緋翠の淹れた紅茶がカップの中で波紋を作る。イーブイだった頃の記憶……?


「僕は物心ついた頃からグレイシアで、どこで生まれたのか、親の顔も知らない」
「…………。」


似てる、と直感的に思ってしまった。


「自分の出生が分からないということだね」
「初耳な話だな」
「まぁ、初めて話す事だし」


そういえば、仲間になる前に一度どうしてシンジ湖にいたのか聞いたことがあったのを思い出した。あの時の様子から深追いしなかったんだけど、今思うとその判断は正しかったかもしれない。記憶が無いという話を私たちに打ち明けてくれたのは、それ程彼が私たちに心を開いてくれている証のように思えた。
本当に覚えていることは無いの?と聞いてみると、やや間を空けて「……一つだけ」と言葉を零した。


「“シンジ湖で待っている”。声の主の顔も知らないけど、これだけは覚えていたんだ」
「それで碧雅はシンジ湖にいたんだね」
「んでユイと旅に出ることにした、かあ」


そう思うと碧雅と出会えたのは本当にラッキーだったというか、偶然だったんだなあ。


「……ここシンオウ地方でグレイシアに進化するのに当てはまる場所は、キッサキシティ近くの219番道路です。偶然迷い込める場所とは考えにくいと思われます」
「同感だ。誰かに意図的に連れられたと考えるのが自然だろうね。生まれた時の記憶は誰も覚えていないのは分かるけど、進化した記憶もないのは気になる」
「──……成程、それでステラか」
「?」
「そのステラという白髪頭はお前にそっくりなのだろう?偶然かもしれないが、お前の記憶が無いこととなにか関係があるかもしれない」
「その可能性も考えた。けどあいつを追いかけるのはあまりにも無謀だよ」


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