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「な、なんだよこのガキ、気持ち悪ぃな」
「……あのさぁ」


今まで、というか昨日からほとんどずっと静かだった碧雅がようやく声を発した。冷たい視線は相変わらずで、僅かに俯いてるから顔は影で若干隠れている。
その足元は、冷気が漏れてる影響で小さな雪の華が見える程に霜が生じていた。


「いい度胸してるね、お前」


顔を上げた碧雅は薄く笑っていたけど目は全く笑っていなかった。あれ、もしかしなくても怒ってる?その様子を見てヒッと小物のような小さな声を上げた強盗さんがヘルガーに指示を出した。


「ヘルガー、かえんほうしゃ浴びせちまえ!」
「させるかよ!」


ヘルガーの炎が辺りを包み込む前にすかさず紅眞が床を滑るように動きにどげりをかます。見事クリーンヒットしたけどやっぱり人型なのが祟ったか、戦闘不能にはならずヘルガーからかみなりのキバを受けてしまった。女性客の叫び声が聞こえる中、私は強盗さんに担がれカフェやまごやが遠ざかる光景を見ることしか出来なかった。


「ちょ、離して!」
「黙れ!ちっ、あいつらのせいで金取れなかったじゃねぇかよクソ!」


私に至っては誘拐されてますけど!?いつの間に用意していたのか小型の車に乗せられ、ヘルガーがスモッグを撒いたのを確認し出発した。え、私本当にどうなっちゃうの。
ダンゴムシのように座席に転がる私を見て強盗さんは鼻で笑いながら覆面を取った。刺々しい色の金髪が特徴的な、ガラの悪い男の人だ。


「……まぁ物好きに渡せばそれなりの額で買ってくれるだろ」
「私もしかしてかなりやばい?」
「おうマジでやばいぜお嬢ちゃん」
「…………た、たすけてー!!」
「おいおい何やってんだよお前死にてぇのか!」


腕が縛られてて身動きが取りにくい中、車の窓から思い切り叫び声をあげる。運転していた強盗さんに服の襟を掴まれ元の位置に戻されてしまった。


「……ったく、さっきの威勢の良さはどこへ行ったんだ」
「ああ全くだ。呆れて物が言えないな」
「だよなぁ。……ってうぉぉ!?」


いつの間に現れたのか、車前に晶が現れ私と強盗さんの前に立ち塞がる。


「スモッグで追っ手が来ないようにするのは良い策だが、位置が特定しやすいのが難点だな。おかげで無駄な労力を使わずに済んだ、感謝するぞ」


そう嘲笑する晶の身体の周りは目に見えない不思議なオーラに覆われている。そうか、ヘルガーはスモッグを出し続けていたから必然的にそれを辿っていけば……。どく状態にならないようしんぴのまもりで身体を覆っていたんだ。


「ウチの主が世話になったな。これは礼だ、受け取るがいい」


原型に戻った晶がドラゴンクローを車体に喰らわせる。衝撃で大きくバウンドし変な声が出た。おでこがぶつかりそうになる前に緋翠がキルリアの姿でテレポートで現れ、そのまま私をそっと支え安全な地帯へ瞬間移動していた。縄を解き腕が解放されたーと伸びているとすかさず緋翠が詰め寄った。


『申し訳ありませんすぐに救助に向かえずにマスターを危険な目に遭わせてしまうだなんて!この醜態、一体どのように償えばよろしいのでしょう……!』
「え、いや、私は大丈夫なんだけど……ミルクさんたちは?」
『お二人は店で警察を呼んでいるはずです。直に到着するかと』
「うおっ……ってて……」
『悪運の強い奴だな』


車は爆発こそしなかったけど、木に激突した衝撃で灰色の煙が出ていてとても動く状態じゃなかった。ヘルガーと共にボロボロの状態で車から出てきた強盗さんは晶と緋翠を見て苛立った顔になった。


「コイツら、よくも……!」
「それはこっちのセリフだぜおっさん!」
「ご主人を狙ってしまったのが運の尽きだったね」


次にやって来た紅眞と璃珀に囲まれ、頼みの綱のヘルガーも璃珀のさいみんじゅつで戦闘不能になってしまった。紅眞はにんまりと笑いながら「かみなりのキバの分一発殴らせろ」って言ってるんだけどいや怖い。
しんぴのまもりは味方全体に及ぶ技。人型になっていても効果はあるみたいでみんな仄かな光に覆われていた。それを見た強盗さんは顔が青ざめる。


「っ、こ、こいつらもしかして全員ポケ……」
「やっとわかったんだ?」


碧雅の手から放たれたれいとうビームが既に眠っているヘルガーを襲う。ねむりからこおり状態へ変わってしまったヘルガーを見て身の危険を感じた強盗さんが冷や汗を流した。たまらず次のボールを繰り出そうとしたがそれを碧雅は逃さない。こおりのつぶてがボールを弾き、続いて強盗さんの頬を掠める。


「次は当てるけど」


多勢に無勢。強盗さんは大人しく頭を垂れるしかなかった。


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