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やはりイケメンというのは色んな意味で得をする。一人の女性のお客さんが入ってきて仲間たちが案内をし帰った後、次から次へとお客さんが来店してきたのだ。それも主に女性客ばかり。噂が噂を呼んだのか、ホストがカフェを営業してるとかいう変な噂になってるけど。
まあ確かに緋翠や璃珀は紳士的で、紅眞は気さくなお兄ちゃんタイプ。碧雅はクールなぶっきらぼうだし、お客さんへの接し方もそれぞれ違ってるからホストクラブに見えないこともない。そんな男目当てのお客さんが沢山いる中接客しなきゃいけない私は周りの女性陣の冷たい目が怖いよ。

意外だったのはみんな案外接客がちゃんとできている事だった。いや緋翠や璃珀、紅眞は大丈夫だろうと思っていたけどね。問題だった晶は呼び込みに回り、次に心配だった碧雅も淡々と業務をこなすのみで、愛想悪いとか言われるんじゃと内心ヒヤヒヤしていたが、そんなところがまたイイとかなんとか話し声が聞こえてくる。

あまりの来客具合にミルクさん一人では調理が追いつかなくなり、クルミさんが厨房のヘルプに回ることになった。なのでフロアは実質私たちの担当。うっそでしょ素人に任せて大丈夫なのこれ。
それに呼び込み係の白恵と晶も結局どうなったの。


「何この子、かわいー!」
「ちっちゃーい!」


……外の入口付近が騒がしいね?見回りついでに様子を伺いに行くと、そこに居たのはミルタンクの着ぐるみを着ている白恵と晶だった。


(は?)


もう一度言おう、白恵と晶だったのである。


「な、ななな何してるの2人とも!?」
「ぼく、ミルタンクになったの。がおー」
「うん可愛いね。……晶は、なんで原型?」
『……人前だぞ。喋ったら不味いんじゃないのか』


あ、確かに。お客さんの女の人たちがカメラを構えて不思議な顔をして私を見つめている。すると白恵がミルタンクの着ぐるみを着たままお姉さんの元にとてとてと近寄る。


「あまくておいしいもーもーがあるよ、おねえちゃんたち。よかったらなかにはいって、ゆっくりしていってほしいなぁ」


にぱーと緩く微笑み、お姉さんの手を取り小首を傾げるその様は、正に天使と形容するに相応しい。
お店の窓から見える仲間たちの顔を見て頬を赤らめたお姉さんたちは従業員の私に詰め寄ってきた。


「あ、ああああの!後で記念撮影とかしても大丈夫ですか?」
「へ?……えっと、多分本人が良ければ」
「やったー!それじゃせっかくだし何か食べていこうよ!」
「またね、天使ちゃん!」
「いってらっしゃ〜い」


ふわふわと手を振り、お姉さんたちが紅眞に席に案内されるのを見届けると退屈そうに欠伸を零した。……この白恵、恐るべし。すると厨房の窓からミルクさんが白恵たちもフロアに回して欲しいとジェスチャーを飛ばしていた。あわわ、向こうも戦場だ。


「晶は……難しいよね」


ていうかチルタリスの姿でミルタンクの着ぐるみ着てるの面白可愛い。クルミさん良く着せられたな、大物だと思うよあの人。晶は深いため息を吐き光りだしたかと思うといつもの人型に変わった。


「今回は仕方ないだろう……ただ必要最低限しかやらないからな」
「え、良いの!?」
「なんだ、必要無いなら僕は裏に下がるが」
「とんでもない!じゃあ晶はできた料理を運んでくれる?」
「……了解した」


ただそれよりも気になるのは、着ぐるみを着たまま人型になったから、いつもの姿にミルタンクの着ぐるみを着ていることになるわけで……。
仏頂面で鋭い目の晶の顔にミルタンクの着ぐるみが絶妙にツボをついてきて、笑いが堪えきれない。


「……ぶっ、……ぶふふっ……」
「おいちんちくりん、その不愉快な音を今すぐ止めろ。顔に似合わぬ醜態を晒すんじゃない」
「ご、ごめんって……!」


何、“顔に似合わぬ醜態”って。褒めてるのか貶されてるのか分からない。晶は自分の言ったことを特に気にしていないのか、早く行けとばかりに冷たく私を見つめている。


(今日はみんな、どこか変だなぁ)


そして沢山のお客さんが待つフロアへと再び足を向かわすのだった。




◇◆◇




「──……っいやったぁぁあ!大幅黒字ゲーット!」
「今日は儲かったねぇ」
「はぁ、疲れた……」
「俺表情筋使いまくってもう笑えねぇ」
「ふぅ。久々に楽しかったです」
「……またあんな目に遭うのは二度と御免なんだが」
「ご主人も最後は可愛いって褒めてもらえて良かったね」
「“衣装は”って言われたんですけど!?」


途中からただの写真撮影大会になってた気がするけど?怖いよ女の子。私何回睨まれたのよ。「なんなのよこの女」的な視線いっぱい感じたよ。また明日もアレやらなきゃいけないの……。流石に疲れてため息をついた私の顔を見たミルクさんとクルミさんが真剣な顔を浮かべ私の手を取った。


「ユイちゃん、本当に今日はありがとう。私たちのワガママに付き合ってくれて、本当に助かったよ」
「今日でかなり売上達成しましたし、後は私たちで頑張ってみますぅ。元々味で勝負していましたしぃ」
「“美味しい”って料理やデザートを純粋に楽しんでくれる新しいお客さんにも出会えたしね!いつまでもユイちゃんたちの厚意に甘えてちゃいけないいけない」
「そーそー。それにああいう輩は勝手に言わせとけばいいんですよぉ。性格悪いのモロバレだしぃ」


……この人たちは、女性ながら逞しいな。やっぱり普段から場数慣れしてるというべきなのか、全然疲れが顔に現れてない。もしかしたら本当に疲れてないのかもしれないけど。今日のこともあってか、私に気を遣ってあんな事を言ってくれたんだ、きっと。


(ダメだな。一度引き受けた手前、ちゃんとしなきゃ)


自分に喝を入れるように両頬を思い切り叩き、乾いた音が室内に響く。


「……大丈夫です、明日もやらせてください」
「やだユイちゃん自分をいじめないでえぇぇぇ!!」
「なんでお姉ちゃんが泣いてるのぉ」

「……意外に頑固だからな、アイツは」
「途中で投げ出すのはご主人のプライドが許さないんじゃないかい?ほら、ご主人負けず嫌いだし」
「僕としてはアイスが食べられるからなんでもいい」
「お前ってアイスが絡むと途端にIQ下がるよな」
「白恵、モーモーミルクのお味はどうですか?」
「……あまくて、まろやか。もーもーおかわり!」


そんなこんなで、今晩はカフェやまごやでお泊まりさせていただくことになったのであった。


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