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「……かわいい」


ボソリと、思ったことがそのまま口に出たように呟いたのは紅眞だった。え、今なんて言った。……可愛い、だと?


「あ、悪い。でも……うん、かわ……似合ってるぜユイ!」
「……え。……そ、そう、かな」
「はい!とても!!」


普段よりもハキハキとした様子でこうそくいどうしたかのように突如目の前に現れ私の手を取ったのは緋翠だった。なんか目が凄いキラキラしてるんですけどぉ!?


「ああ、この奥ゆかしき装い……清楚なマスターの雰囲気によくお似合いです。装飾も細かく、丁寧に仕立てあげられていますね。惜しむらくはこの愛らしいお姿を永久に残せないことですが……」
「お?分かる緋翠くん?いやー苦労したんだよこれ。ちなみにここにカメラがあるんだけど、1枚どぉ?」
「……後でご相談があります」
「ご主人、ちょっとおいで」


緋翠とミルクさんが何かよからぬ話をしているところで今度は璃珀が私を呼び付けた。ぽんぽんと座るように促したそこは、鏡のあるドレッサーの前。


「はい、座って」
「え、でもここって」
「座って」
「……はい」


有無を言わせないその笑みに私は逆らうことが出来なかった。大人しく従った私の髪を鏡越しに弄る璃珀が今度は晶を呼ぶ。


「……何故僕を呼ぶんだ」
「ご主人を気にしてそうだったから、ダメかな?」
「……勝手にすればいい」
「そういえば晶と白恵だけいつもの格好なのはどうして?」
「晶くんが、接客はどうしても嫌だって言うので白恵くんと同じ役割にしたんですよぉ。2人はこれから着替えますぅ」
「へー!楽しみー!」
「ご主人、動かないで」


晶と白恵はクルミさんに連れていかれ、私は鏡の前で動かぬよう釘を刺された。あれ、これ、もしかして……。


「わお。メイクできるなんて器用なポケモンだね」
「ちょっと嗜む機会があって」
(どんな機会だよ)


慣れた手つきで私の顔に化粧を施していく。しばらく目を瞑り擽ったい感覚に身じろぐのを耐え、ようやく合図が聞こえたのでそっと目を開ける。


「わ、わぁ……凄い」


目元が普段よりパッチリとしていて、薄くアイシャドウもしてあるけど今着ている服装に合わせたカラーで違和感が無い。あ、よく見たらマスカラもしてある。ファンデーションとチークも乗せてあって、髪も普段のボブヘアーから緩くウェーブをかけたみたいでこれまた綺麗な仕上がり。メイド御用達カチューシャを付ければゆるふわ系なメイドさんの出来上がり。在り来りな言葉だけど、いつもの私じゃないみたいだ。
私の後ろに立つ璃珀に鏡越しでお礼を伝えると、私の顔の横に整った顔が並んだ。その目は妖しく不敵に笑っている。


「お礼に何をしてもらおうかな、お嬢様?」
「……ひぇ」
「ふふっ、冗談だよ」


待て待てその格好でそんなセリフ言ったら女の子たちがとんでもない事になっちゃうよ。ミルクさんがまたグッジョブとか言いながら親指立ててるけど。
さあ、色んな意味で心臓が破裂しそうな時間はようやく終わりを告げ


「…………。」
「……み、碧雅………………さん」
「何故さん付け」


無かった。さっきからずっと無言で遠くから私たちを眺めているだけだった碧雅が私に近付いてきた。相変わらずの澄ました顔で私を見下ろしているけど、普段とは違うウェイターのシックな印象の装いに一瞬心臓が大きく動く。


「……ど、どう?ポッチャマ君の言う通り“ドロバンコにも衣装”って奴かな」
「…………。」
「……おーい……」
「…………。」


ずっと無言なんですけどこの子。ずっと表情も変わらないんですけど。これなんていう拷問?似合わないなら似合わないで言ってくれて構わないし!何も言われないって言うのがある意味一番ダメージ来るんだって!
しばらく静止し考える素振りをする碧雅だったけど、なにか思い立ったように動き出した。戻って来た彼の手の中には、どこから持ってきたのか青い花のコサージュ。カチューシャを外しそれを整えた髪型に合うように付けてくれた。


「あ、それジョウト旅行に行った時買ったやつ」


お店に飾ってたの見てたんだね〜とミルクさんはニヤニヤ笑っている。いや勝手にお店の物借りてるじゃん何やってんの。ミルクさんも何故止めないの。コサージュを付け終わりしばらく髪を触った碧雅はうんと頷く。


「こっちの方がいい」
「でもこれお店の物じゃ……」
「モーマンタイ!むしろどうぞ!」
「なるほど。これも良いね」
「もうどうにでもなれ……」


最早諦めの境地。みんな私で遊ぶのをやめるつもりは無さそうだ。
しばらくの間揉みくちゃにされ、なんだかんだと写真を撮られ、私もみんなの写真を仕返しに撮ったりと楽しくも恥ずかしい時間を過ごす。


「さぁ〜休憩時間はおしまい!これから本格的に営業開始だよ!しばらくの間よろしくね、みんな!」


ミルクさんの言葉を皮切りに、お店のドアに掛けられた看板が“CLOSE”から“OPEN”へ。さぁ、人生初の接客業体験だ。


……そういえば、結局白恵と晶はどうなってるの?


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