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「……はい?」


真剣な眼差しを向け手に顎を乗せながら話すからどんな話なのかと待ち構えていたら、予想外の内容に惚けた声が出てしまった。知り合って僅か数分で言うセリフじゃない。


「お姉ちゃん、その切り口はアウト」
「ゴホン!今のは忘れて。……お願いというのは、お店の営業を手伝って欲しいの」


話を要約すると、こうだ。
元々このカフェは2人の両親と一緒に運営していたんだけど、2人は偶然懸賞旅行が当たり、しばらくの間姉妹だけで運営しなければいけないらしい。でも一気に人手が減り、メインとなる両親がいない中通常通りの営業を行うことは難しいとの事だった。確かに、単純に言えば一気に戦力が半分になるってことだもんね。


「最近お客さんも顔馴染みの人ばかりしか来ないから、新規顧客も獲得したいんだけど……その前にまず人手を確保しないことには話は始まらなくて」
「な、なるほど……」
「そこで、ユイちゃん。あなたに協力をお願いできないかなと思って。不躾なのは百も承知なんだけど」
「お断りします。僕たちはそんなことをする為にここに寄った訳ではないので」
「……新作フレーバーの試食、ありますよぉ?」
「…………話くらいなら」
「うぉい!」


餌付けされてるけど碧雅君!?クルミさんもう碧雅の扱い方を分かってるな!?


「大丈夫!調理は主に私が担当で、コトブキのアイス屋も休業にしてこっちに専念するから。ユイちゃんには呼び込みと簡単な接客をお願いしたいんだ」
「勿論、お礼もありますよぉ。なんならウチに泊まってもらっても良いし」
「……お願い、ユイちゃん!」
「お願いします」
「う、うっ……」


そうやって頭を下げられて頼まれると弱い。早くトバリシティに行きたい気持ちもあるけど、困ってる人たちを放っておく訳にもいかないし。それに、ずっとではなくあくまで一時的なものだから。コトブキシティで過ごしたひと時を思い出し、ミルクさんとクルミさんの手をそっと握った。


「……で、できる限り頑張ります。なので、どうか顔を上げてください」
「ありがとう天使」
「お姉ちゃん気持ち悪いよぉ」


こうして、束の間のお店でアルバイトがスタートするのであった。




◇◆◇




「で、なんで俺たちも手伝うことになってんだ?」
「だって碧雅くんが擬人化できるなら、他の子もできるのかなぁってぇ。使えるものは使いますよぉ」
「なんて恐ろしい人間なんだこの女……!」
「……ふむ。私たちは何をすれば良いのでしょう?」
「ユイちゃんと同じく、接客と呼び込みで大丈夫ですよぉ。あ、服は着替えてくださいねぇ」
「女の子はメイド服で、男はウェイターなんだね」
「ぼく、がんばったら、もーもーのめる?」
「もっちろぉん!何杯でも飲んでくださいねぇ」
「がんばる!」


おおう、向こうは向こうでワチャワチャしてるな。みんなウェイターになるのか〜楽しみだな!そんな私はミルクさんに連れられ別の部屋へ案内される。「フフフ……」と怪しげな笑みを浮かべるミルクさんはカーテンのかかった暗い室内である服を私に渡してきた。


「ユイちゃんには是非、これを着て欲しいの!」
「……なんですか、これ?」
「ジョウトではこの格好で給仕をするのが流行ってるんだって!で、ユイちゃんの雰囲気にはこの服装が似合うと思って夜な夜な作ってたのよ!まさかこんな形で夢が叶うなんて最高後でご奉仕してもらおうかなフフフフ」


最後の一言は早口と小声で聞こえなかった。色々とツッコミどころはあるけれど、私はあのメイド服を着なくていいってことかな?だとしたら有難い、あれは本当に可愛い子が着てこそ真価を発揮するからね、ミルクさんやクルミさんみたいな!
……と試しに着てみてと違う部屋に通されたので着替えようと服を広げたら、これって……


(和風のメイド服じゃん!メイド服に変わりないじゃん!)


ジョウトって場所はよく分からないけど、流行ってるってことは京都のような古風な場所なのかな。ただクルミさんが着てるメイド服ほど丈は短くないし、むしろ控えめだ。……ええい、手伝うって決めたんだ。覚悟を決めろ、私!


「〜っ!私の目に狂いは無かった!可愛い超可愛いよユイちゃん!今晩抱き枕にしてOK?いい?!ありがとう!!」
「勝手にひとりで話を進めないでください!?」


着替えた姿でミルクさんの前に現れた私は再び呼吸ができない危機に襲われた。ていうかミルクさんよく私を可愛いって褒めてくれるよね。こんな私でも自己肯定感が高まるよ、良い人だ。「さぁ男共に見せてやろう!」と引っ張られたけど待って待ってこの姿みんなに見せるの!?


「む、むむむむ無理です無理です恥ずか死にます」
「だいじょーぶだって!それにどうせ接客する時嫌でも見せることになるんだし」
「それはそうですけど……」
「変な事言う奴がいたら私がぶっ飛ばすから安心しなさい」


それはそれで安心できませんけど。

そんな心のツッコミを余所に等々みんなのいるフロアまで来てしまった。


「わぁ〜。ユイちゃん似合ってますねぇ」
「あ!写真撮っていい?ウチに飾るから」
「やめてください」


一足先に廊下で待っていたクルミさんが私の着ているメイド服の細かな装飾を触りつつ感想を述べる。ミルクさんは真顔でカメラを構えないで。みんなも着替え終わったと思いますよぉとクルミさんが様子を伺い、私たちを手招きした。恐る恐る部屋に入るとそこに居たのは、


(ここはホストクラブか)


思わずそんな感想が出てしまった。だって、ほら、ジャンルは違えどイケメン揃いだし……無駄に似合ってるのが腹立つな。あれ、でも白恵と晶だけ着替えてないや。それぞれ思い思いの時間を過ごしていた中、クルミさんがみんなに声をかけると視線が一気に私に集中した。


ピシリ


……え、何この間。どうしてみんな固まってるの。誰も声を発しない無音の空間の中、いたたまれなくなった私が空笑いをしようとした時だった。


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