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あの後特にめぼしいものも無かったし、白恵の様子も変わりなかったので緋翠のテレポートでPCまで戻ってきた私たち。主に私が疲れた足を休めていたところで、育て屋のお爺さんから割引券を貰ったこと思い出し何気なく伝えた。ガタリと音を立て反応したのはやっぱり碧雅。


「なんでそれ早く言わなかったの」
「いや言おうと思ったけど遺跡に行く流れだったし、カフェならいつでも行けるから後でいいかなーって」
「遺跡は逃げないけどアイスは溶ける」


いや意味わからん。それならカフェも逃げないよ。璃珀がやんわりとそこでお昼をとったらいいんじゃないかと提案し、私はもちろんみんなも異論はなかったようで、休憩もそこそこに今度はカフェへ向かった。

ズイタウンを出て長い草むらを抜け道沿いに歩いて行くと、見えてきたのはロッジハウスのような建物。


「ここが、カフェやまごや?」
「“やまごや”って名の通り、山小屋みたいだね」


カフェらしくウェルカムボードが入口に立てかけてあり、壁周りはツタの葉が絡み付いている。物凄い笑顔……とかではないけど、いつもより明らかに機嫌がいい碧雅が先陣を切って入口のドアを開けたので慌てて続く。


「こんにちは〜。カフェやまごやってここでしょうか?」


…………。


「すみませーん」


……………………あれ?
可愛らしいポケモンの小物やインテリアで店内は落ち着いた愛らしさを彩っていたが、人のいない雰囲気が物寂しかった。無人の空間にポップなBGMが流れているのがまたなんとも言えない。


「なんか……静かじゃない?」
『休みとかじゃねぇか?』
「それだったらそもそも入口は開かないよ」
『どうされたんでしょうか。様子を見てきましょうか?』
「ーー……みませーん……!」
『ああ、来たんじゃないかい』


璃珀の言葉通り、お店の奥から姿を現したのはメイドの格好をした女の人だった。……メイド!?


(まさかこの世界でメイドさんを見ることになろうとは)


わぁお姉さんメイド服似合ってて超可愛い〜。ただその顔はお客さんを迎えるような雰囲気じゃなくて……なんというか、元気が無い?


「ひ、久しぶりのお客さん……いらっしゃいませぇ」
「あ、あの……ここってカフェやまごやであってますか?」
「そうですよぉ?…………!!」


そう言い私たちの方を向いたメイドさんは観察するようにメニューを眺める碧雅に視線が釘付けだった。ああ、確かに碧雅は顔だけはいいからね、顔だけは。ていうかいつの間にメニュー表持ってきたの碧雅。メイドさんは「あ!」と思い出したように声を上げた後神妙な面持ちになり私に詰め寄った。


「……あのぉ。もしかして以前、コトブキシティでアイスを購入しませんでしたかぁ?」
「へ?あ、あの外で売ってた……」
「やっぱりぃ〜!あれ私たちのお店なんですよぉ〜」


“私たちのお店”?どういうことかクエスチョンマークを浮かべる私にお姉さんは席に誘導してくれた後説明してくれた。


「最近私たち、モーモーミルクを使ってアイスの開発もしてたんですよぉ。でも中々お客さんが来なくて。お姉ちゃんと相談して“コトブキシティでアイスを販売してウチの味を知ってもらおう”ってことで、コトブキシティでアイスも販売してたんですよぉ」
「……ああ、あの時の」


あ、思い出した。モーモーミルクってコトブキシティのアイス屋さんで聞いたんだった。そっか、あのお店は元々ここからだったんだね。なんだか妙な縁を感じる。じゃあ私と碧雅を見つめてたのは、その“お姉ちゃん”が私たちのことを話していて、思い当たる節があったのかも。
頭の中で推測を立てながらどうぞと差し出されたモーモーミルクを飲む。そんな私の予想を裏切るように、お姉さんはキラキラした瞳で私たちを見つめた。


「“とっても可愛い初々しいカップルだった”ってお姉ちゃん楽しそうに話してましたからぁ」
「ぶふっ!!?」
「……はぁ」


突然言われた突拍子も無い言葉にモーモーミルクが変なところに入りかけ噎せた。その反面碧雅は呆れたような冷ややかな目線をお姉さんに向けている。


『マスター!大丈夫ですか!?』
『……へぇ。ご主人、後でその話詳しく教えてほしいな』
『一体何故あの女は楽しそうな顔をしているんだ』
『晶って意外に純粋だよな〜』
『?なんの事だ』
『ぼくも、もーもーのみたいなぁ』


君たちはボールの中で呑気だな!心配してボールから出て背中を摩ってくれる緋翠だけが唯一の癒しだわ。
お姉さんがそんな私たちを見て笑う中、ドアが開く音がした。カランカランとドアに取り付けられた鈴がなり、入ってきたのはコトブキシティで出会ったアイス屋さんのお姉さん。あの時と違いカウガールのような活発的でカジュアルな装いだ。……ということは、この人が!


「ただいまー!あれ、お客さん?」
「お姉ちゃんおかえりぃ。そうだよぉ〜この前話してた人達」
「……ってことは!ああああまたあなたに会えるなんて運命ー!!」
「ぐぶぉ!」


今度は椅子に座ったままタックルを喰らわされた。今日は厄日に違いない。アイス屋さんのお姉さんは私に抱きつきほっぺをスリスリさせたまま一向に離そうとしない。隣に座ってた碧雅が引いてる。口元ひきつってる。


「……何コイツ、気持ち悪っ」
「お!キミはあの時の彼氏くんだね!いやーごめんね彼女があまりにも私のタイプ、どタイプでね!」
「違いますけど」
「お姉ちゃん、そろそろ離してあげなよぉ。お客さん息できないよぉ?」


妹メイドさんがそう言い漸く離れられた。咳をして息を整えているところで2人が自己紹介をしてくれた。


「あの時はコトブキシティでアイスを買ってくれてありがとう!私はミルク」
「私はクルミですぅ」
「ユイです、よろしくお願いします。こっちはパートナーの碧雅です。本当はポケモンで、今は擬人化してるだけなので……彼氏とかじゃないですから!」
「うんうん、うんうん!」
(あ、これ聞き流してるだけだ)


若干諦めの遠い目になりつつある私を尻目に、ミルクさんはクルミさんとアイコンタクトを取り、真剣な顔を浮かべ私にお願いがあると話し始めた。やっぱり姉妹なだけあって2人とも雰囲気や喋り方は違うけど、どこか似てるなぁ。美人姉妹だ。


「ユイちゃん……メイド服に興味は無い?」


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