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この一日でヨスガシティとズイタウン付近を往復ばっかりしているな、と考えながら白い頭を追いかける。雪はいつの間にか止んでいて、地面はほんのり雪が積もっている。キュッキュッと雪の踏む音に少しの楽しさを感じつつロストタワーに再び戻ってきた。ここまで野生のポケモンに襲われなかったのは夜中だったからか、幸運の象徴がいたからか。


(紅眞じゃないけどこの雰囲気は流石に怖いなぁ)


一人じゃないからまだ平気だけど。当の紅眞本人は入る前から晶の背中に隠れていて、晶が呆れたようにため息を吐いていた。おばあちゃーんとしえ君が呼びながら中へ入っていく。私たちもそれに続き奥へと進んで行った。


「……あら、しえ。おかえりなさい」
「うん。おばあちゃん、ただいま」


……いた。最上階の大きなお墓の前にお婆さんは佇んでいた。しえ君の頭を優しく撫で私にも和やかな笑みを送ってくれる。しえ君は積んできたグラシデアの花をお婆さんに差し出した。


「これは?」
「ぼく、たびにでる。ゆめでみたあのひがきたから、いってきます。おばあちゃんにあうのも、きょうでおしまいなんだ」
「……そう。やっぱりその子は、あなたの言った通りの子だったのね」
「うん。ぼく、いかなくちゃ」
「そうね。……この姿になってようやく分かった。あなたは本当に、本当の意味でこの世界で不思議な存在だったのね」
「……おばあちゃん、ありがとう。ぼくをそだててくれて、げんきにしてくれて。おかあちゃんのいのちをおくってくれて、ありがとう」
「……いいえ、どういたしまして」


まるで全て悟っていたかのようにお婆さんは穏やかだ。花を受け取り、その香りを堪能した後私の顔を見てユイさんと名前を呼んだ。名前を教えていなかったはず、なのに。


「これからあなたには沢山の出来事が起こるでしょう。でもあなたは一人じゃない。彼らが、ポケモンたちがいます。私に出来ることは見守るだけですけど、心からあなたの旅路に祝福を送ります。……どうかしえを、よろしくね」
「……は、はい。私で良ければ」


なんだろう。とても重大なことを頼まれてる気がする。いや大事なポケモンを託すんだから重大なんだけどね!?私にお辞儀までしてしえ君のことを頼んでくるお婆さんに顔を上げるよう促して、考えていた名前を告げる。
周りに幸せを届けてくれる真っ白な天使に送る名前。


「白恵にしました。白い恵みと書いて、白恵です」
「……そう、読みは一緒ね。良い名前」
「この子にとって“しえ”って名前がとても大切みたいなので」
「名は体を表す。良い恵みがあるといいわね」
「ぼく、しえ?しえのまま?」
「うん。どうかな?」
「……いいよ!」


うん!本人のOKも貰った!ピカピカのモンスターボールを見せて、頭突きのように当たった白恵がボールに吸い込まれる。ポーンと音を奏でて止まったボールを再び投げ、小さな小さな白いポケモンが姿を現した。


『ふつつかものですが、よろしくおねがいします……あってる?』
「なんか微妙に違う気がするぅ!?」
「結局こうなるのね……」
「フルメンバー揃ったな!」
「あれ、紅眞くん怖くないのかい?」
「今は仲間が増えて嬉しい気持ちが勝ってる!」
「はぁ……またどんちゃん騒ぎは御免だぞ」
「よろしくお願い致します、白恵」
『……よろしくね、おにいちゃんたち』


こうして6人……もとい6匹が揃うところを見ると壮観だな。なんだかんだみんな白恵の加入を分かってたみたいだし。うん、私がこういうことに弱い性格がバレている。


「……ふふっ、白恵。私からのお願いを聞いてくれる?」
『なあに?』


私たちの光景を微笑ましく見つめていたお婆さんが白恵を呼ぶ。白恵は雛鳥のようにお婆さんに近寄って、擦り寄る。まるで孫と戯れるように頭をそっと撫でて、慈愛の眼差しを向けて、一言。


「どうか、しあわせになってね」


“どうか、しあわせになって”


昼間の謎の女性の声が想起された。そしてようやく分かった。あれは別れの言葉だったんだ。
優しくて、暖かくて、寂しくて、愛しい別れの言葉。あの人は誰にその言葉を伝えたかったんだろう。
うっすら涙が浮かんでいるお婆さんをじっと見つめた白恵は人型になり涙を拭い取る。


「がんばる」


生き物としての種類は違えど、そこにあるのは間違いなく家族の絆。彼らはまさしく、親子だった。しばらくそっと2人きりにしてあげようと踵を返し階段へ向かっていたところで、大事なことを思い出した。


(……あ、いけない。私が他の世界から来たことを説明してなかった)


それにお婆さんの名前も聞かずじまいだ。流石にそれくらいは聞いておかないとね。


「あの、お婆さんのお名前……は……?」


いない。さっきまでいたはずなのに、まるで初めからそんな人はいなかったようにひんやりとしたら静かな空間には2つのお墓があるのみ。一足先に階段を降りていった紅眞たちが私が来るのが遅いことを気にして様子を見に来た。


「どうしたんだよ?」
「……あの、お婆さん見なかった?」
「誰も来ていないが」
「…………。」


顔から血の気が引くのが分かる。え、嘘。まさか、あれは……。白恵が私の名を呼ぶ。真ん中に聳え立つ大きな墓石を撫でる白恵の眼差しは、先程のお婆さんに向けていたものと同じだった。


「かえろう、ユイちゃん。みたまがかえっただけだから、だいじょうぶ」
「え、えぇ……?」


口元が引き攣る。今すぐ緋翠をこの場に呼びたかったけど、紅眞のためにもグッと我慢する。……今は、私の胸の中に留めておいた方がいいかもね。
もしかしたら、私はとんでもない子を仲間にしてしまったのかもしれない。


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