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「……どうして来たいのか、聞いてもいい?」
「ぼく、ユイちゃんのてつだいをしなさいっていわれてるの」
「誰に?」
「みーちゃん」
「誰だそいつ」


さっきも名前が出てきたな、みーちゃん。その人が誰なのかは私も分からない。それに手伝いって……私はこの世界で何かをしなければいけないの?この世界に来ることになった要因も分かってないし、勝手に何かしなきゃ行けないことになってるし……いけない、ちょっと落ち着こう。
また分からないことが増えたけど、要はこの子は私と来てくれるってこと、だよね。


(仲間が増えるのは嬉しいけど……)


これまたなんとも電波……個性的だな。どうするのかというみんなの視線を背中で感じる。会って数十分とも経ってない子を、仲間に引き入れるのかと問われれば答えは微妙寄りのNoだ。けどせっかくの縁を無駄にしたくないし……。
しばらく思案していると、そういえばと1つ思い出したことがあった。


「お婆さんはこの事知ってるの?ロストタワーの管理人さん」
「……どうして?」
「……え?」
「どうして、おばあちゃんがしらないといけないの?」


なんの疑問も抱いていない真っ直ぐな瞳。どうしてなのか理由がわからないという顔……というより子どもらしくない、喜怒哀楽のない本当に人形のような顔。幼さゆえの無垢か、残酷さを感じてしまった。人生に大した含蓄のない私が言っても説得力は無いし、この場の答えとして合ってるかも分からない。でもここは、しっかりと言わないといけない。しえ君の肩を掴み、彼の宝石のような目と目を交わす。


「あのお婆さんは、しえ君のことを心配していたから。しえ君が生まれた時から気にかけてくれてる人なんだから、自分がこれからどうしたいのかをきちんと伝えるべきだと思うよ」
「……どうしておばあちゃんなの?」
「えっ……君の親代わりとして、お母さんみたいに育ててくれてたんじゃないの?」
「おばあちゃんはあったかかったけど、おかあちゃんじゃないよ?」


ねえ、どうして?


……何故だろう。私は何故かこの瞬間、涙が出そうになった。上手く伝えられない自分に腹が立つこともあるけど、子ども特有の純粋な疑問の中に“なにか”が欠けているのを感じた。
私如きが何を伝えれば良いのか、できるのか。考えれば考えるほど頭の中は真っ白になっていき、ぐるぐると言葉が渦を巻く。


「……お婆さんに届けてあげるんだよ」
「……璃珀、?」


しえ君の手を掴み璃珀が真っ直ぐな眼差しを彼に向けている。その顔は今まで穏やかに微笑むものとは違う真剣なものだった。


「もしお婆さんに何も言わず立ち去ってしまえば、お婆さんはどう思う?」
「…………どうなんだろう」
「きっと悲しんでしまうと思うよ」
「……かなし、む」
「そう。だからお婆さんに“しえくんが旅に出る”ってことをちゃんと自分の口で伝えるんだ。お婆さんのおかげでここまで成長できたってことを教えてあげよう。……“幸せ”を、届けてあげよう」


始まりは一匹のトゲキッスから。救えなかった悲しみと、新たな命が生まれた嬉しさ。

きっとあのお婆さんにとってしえ君を育てるということはある種の償いだったんだ。あと少し早くトゲキッスに気づけてたら、あと少し早く治療していたらという自責の念。仕方ないという人がいてもあの人の性格上そう切り替えるのは難しそうだと思うのに理由はいらなかった。あの人の雰囲気は、元の世界の私を育ててくれたあの人たちにそっくりだったから。しえ君の予言のことを話すお婆さんの顔がどこか無理しているように見えたのは、あの子が本当にこのままでいていいのかお婆さん自身も悩んでいたからなのかもしれない。

今まで2人がどんな暮らしをしていたのか知らないし、知る由もない。でもお婆さんがしえ君を案じているのは言葉の端々から伝わってきたし、しえ君もお婆さんのことを暖かい人だと慕っている。
たとえ言葉だけでもいい、“感謝”という名の幸せを届けてあげるべきなんだ。「しあわせ」としえ君は呟く。


「おばあちゃんは、それでしあわせになれる?」
「勿論。“ありがとう”って付け足すともっと良いかもしれないね」
「……わかった。ぼく、いう」


こくりと頷きしえ君は駆け出した。え、どこ行くの。


「おばあちゃんのところ。よくいうよ、ぜんはいそげ」
「諺も知ってるのね!?でも夜遅いし、休んだ方がいいんじゃない?」
「おばあちゃん、ぼくのところにいるから。……あ、あのおはなもっていこ」
「……その辺の花だな」
「いえ、あれは……!?グ、グラシデアの花です!」


トゲキッスのお墓にお供えしてあったやつだよね?緋翠が珍しく驚いてる。


「この辺りで咲いているなんて聞いたことがありません。シェイミの花運びがここにも来ていたのでしょうか……流石幸運のポケモンです」
「よく分からないけどしえ君がラッキーボーイなのは分かった」
「ユイちゃん。おばあちゃんにしあわせをとどけたら、ぼくをなかまにいれてくれる?」
「え、うん?」
「わーい!ぼくがんばる!」
(やっば唐突に話しかけられてつい返事しちゃった)


けど、初めて嬉しそうな顔を見たぞ。やっぱ笑うと可愛いな、子どもって。


「おい待てよ。もしかしてまたロストタワーに戻るって流れじゃねぇかこれ」
「そのまさかみたいだよ」
「さっきよりも時間が進んでるし、雰囲気はより増すんじゃないかい」
「あーあー、俺と晶と緋翠はPCで待機してるわ」
「僕を巻き込むなヘタレトサカ。待ちたければ一人で待っていろ」
「私はマスターに着いて行きますのでお断りさせていただきます」
「怖かったらPCで待ってても大丈夫だよ?さっきと違ってPCにすぐに行ける距離だし」
「…………わーったよ!俺も行くよ!」


半分涙目だぞ紅眞。


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