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(わぁ……オッドアイなんて初めて見た)


白い髪に映える蒼紅の瞳。大きなビー玉のような瞳はキラキラと街明かりに照らされていて、西洋の洋装も相まってお人形みたいだ。ゆったりとした喋り方だからだろうか、この子の周りの空間だけゆっくりと進んでいるような気がしてしまう。


「君が……しえ君?」
「そうだよ。ぼく、しえ」
「えっと………………はじめ、まして」
「コミュ障か!」


なんと話していいか分からず長い沈黙の後出てきたのはぎこちない挨拶。紅眞がすかさずツッコミに入り、しえ君もキョトンと小首を傾げていた。その微妙な空気に入り込むのは璃珀。しえ君と目線を合わせ、膝からしゃがみ込んだ。


「こんばんは。きみはトゲピーのしえくんで合ってるのかな」
「うん。ぼく、しえ」
「そうか。俺は璃珀、よろしくね。しえくん、 ここには遊びに来たのかい?」
「……ぼく、みんなをみてたの」


みんな。一瞬私たちのことかとドキリとしたけど、それは杞憂に終わった。しえ君は人気の少ない通りを見つめながら言っていたから、恐らくはこの街に住む人たちのことを指していたのだろう。


「みんなをみてるの、たのしいから」


俗に言う人間観察……なのかな。お婆さんの言う通り、とても不思議な子だ。とてとてという効果音が付きそうな足取りでしえ君が私の前に来る。


「おねえちゃんのおなまえは?」
「え?」
「おなまえ、おしえて」
「ユイ……だよ。そっか、名前教えてなかったね、ごめんね」
「……じゃあ、おねえちゃんはユイちゃんだ。おにいちゃんたちもおしえて」


ちゃん付け、だと……!?聞かれるがままにみんなの名前をそれぞれ教える。しえ君はボーッと上を眺め、しばらくすると碧雅たちを指さしあだ名めいた名前を付けた。


「みゃーちゃん、こーちゃん、すーちゃん、りーちゃん……そしてあっちゃん!」
「何故僕だけ伸ばさないんだ」
「ごかんが、こっちのほうがよかったから」
「子どもの割に、結構難しい言葉を知ってるね」
「……その法則なら、碧雅は“みーちゃん”になるんじゃないの?」
「みーちゃんは、もういるから」


首を振って告げる感情の読めない目は有無を言わせないオーラを放っている。こういう子と接するのは初めてだからどうしたらいいか分かんないぞ私。とりあえず同調しそっかと返事しておいた。


「ユイちゃんのおなまえは、だれにもらったの?」
「え、っと……多分お母さん、かな」
「へえ、知らなかったな」
「あはは。と言っても、あまり覚えてないんだけどね」


顔も分からない両親が唯一残してくれた名前。これが私の唯一の過去のルーツと言っても過言ではない。どんな意味を込めてつけたのか、はたまた特に理由は無かったのかもしれないけど、私にとって名前は大切なものだ。


「しえ君の名前も、お母さんに貰ったの?」


何気なく聞いただけだった。“しえ”っていう名前をよく自分で言っていたものだから。名前は誰にとっても大切なものだと勝手に思っていたから。当たり障りのない“うん”とか“そう”とか、そういった返答が返ってくるとばかり思っていた。
しえ君は首を傾げ、感情の乏しい表情で淡々と告げる。


「しえのおかあちゃんは、いないよ?」


一瞬言葉に詰まった。この子は、幼いながら自分のお母さんが亡くなってしまったことを理解している。母親のことを聞いてしまって不躾だと思い、話題を変えようとした。
……この時、少しだけその言葉に違和感を何故か抱いた。だが理由を知るのはだいぶ先の話になる。


「あーえっとえっと!雪が綺麗だね!」
「……うん。ゆき、きれーだね」
「マスター、寒さは大丈夫ですか?」
「うん、雪見たら寒いの吹っ飛んだ!」
「オメでたい頭でなにより」
「……おい、白マメ助。お前は住処に帰らなくていいのか」
「また失礼なあだ名作ってる」


マメ助って何マメ助って。しえ君はその失礼なあだ名に反論せず晶の問いに返答する。……何故か私の手を取って。


「ぼく、ユイちゃんといっしょにいく。それが、ぼくのやるべきことだもの」
「…………ふぁ?」
「だめ?」


いや、一緒に行くって、どういうことなの。


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