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探すと言っても、どこを探したものか。土地勘の無い私には見つけるのは一苦労しそうだ。とりあえず目に入った人に聞き込みをしてみた。
「すみません、ここら辺でグレイシアを見ませんでしたか?」
「いや、ここでは見かけなかったな」
「……そうですか。ありがとうございます、お手数をお掛けしました」
お辞儀をして他の人に聞き込みをする。グレイシア君がいないか聞いて回ってるけど、誰も見ていないらしい。ギンガ団員の発言からも、グレイシアがいるのは珍しいだろうから、誰か見たら覚えてるんじゃないかと思ったのに、そんな人は一人もいなかった。本当にどこに行ったんだろう?
(まさか、もうマサゴタウンから出たんじゃ……?)
でもそんな事したら、またギンガ団みたいな人達に襲われるかもしれないし、グレイシア君はそんな危険なことに自ら突っ込むようなタイプには見えなかった。悶々と考えてる間にも時間は刻々と過ぎていく。ふと手を繋ぎ仲良く歩いている親子の姿が見えた。母親の手には買い物袋があるから、晩ご飯の材料でも買ってたのかな。周りを見てみると、ちらほらと人が増えてきた気がする。
「あ、もしかして、」
私の小さな頭に電球が浮かんだ。
◇◆◇
……何故あの人間を助けたのか、自分でも分からない。初めの時気絶させてすぐに立ち去ればこんなことにはならなかったはずだ。結局無駄足だったし、これ以上環境の違うこの場所に留まっていても何もいい事は無い。
目を閉じればほら、忘れるなとばかりに繰り返される何十回と聞いた声。
(約束だ、−−)
幼少の記憶は、吹雪に覆われたようにほとんど思い出せない。その代わりに一つだけ覚えている約束があった。恐らく自分の名前であろう、一部の空白を残して。
(−−だけは生きてほしい)
いつ、どこで、誰に言われたのか、その記憶は無い。
ただあの頃、何もなかった僕にとっては、これは唯一の、自分の存在を示すものだった。
(……シンジ湖で待っている)
姿形も分からない、自分を知っている唯一の存在がいると信じ、探しに来た。でも、いなかった。何も無かった。この声はきっと夢だったのだろう。
さてどうするか。このまま元の場所に帰るか、それとも……
(あの人間、大丈夫かな)
博士と名乗っていたあの人間達がいるから大丈夫かと思い、話をある程度聞いてから抜け出した。思えばかなり変な人間だった。
突如背後に現れたあの人間。自分が違う世界から来たと言い、しかも原型の自分と意思疎通ができるという変わり者。あまりにも無知すぎて放っておけず、せめてもの情けでマサゴタウンまで送り出そうとした。そうしたらタイミング悪くギンガ団が襲ってくる始末。不意をつかれた攻撃で、ダメージを負ってしまった。
(……どうするんだろう)
このまま自分を見捨てて逃げ出すだろうとばかり思っていた。何もかも初めての様子だったから、それも仕方ないと思ったけど、彼女は予想外の行動をとった。
“今だけは、ここにいて”
そう言って申し訳なさそうに笑い、僕をボールに入れた。戦う力を持っていないし先程までは怯えていたのに、ほんと何を考えていたのやら。おまけに湖に入ることになるし、散々だ。でも不思議と嫌ではなかった。ここまで誰かに守られることなどなかったからか、それとも、
「……はぁ、み、つけたぁ!」
自分を顧みず僕を守った彼女は、あまりにも危うく、人間らしくなかった。息を切らし笑顔で見つめる彼女を迎えるように、漣が静かに流れた。
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