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「そのトゲピーは今どこにいるんですか?」
「今日は出かけてるわ。ここ最近は毎日出かけてるの、まだ小さい子どもだから色んなものが目新しくて楽しいんでしょうね。……さ、あの子についての話はこれでおしまい。長々と話してごめんなさいね」
「いえ。……でも、一つ気になることがあります」
「何かしら?」
「トゲピーは……幸せなのかなって」


トゲピーは自分の持つ幸運で周りの人に良い結果をもたらしている。結果としてここを訪れる人に慕われることになるけど、本末転倒な気がするのだ。元々は自分の大切なポケモンを弔うために来ているのに、トゲピーに会うため……予言を聞くこと自体が目的になっている気がして。それにトゲピーも誰かのために力を使って、果たして自分は“幸せ”なのだろうか。
お婆さんは私の発言に少し目を丸くしていた。


「ご、ごめんなさい。変なこと言っちゃって」
「……いいえ。あの子はきっと、ヨスガシティのどこかにいるわ」
「え、?」
「あの子は野生。これまでもここに来る人に自分の仲間にならないかと何度も誘われたわ。その度にあの子、なんて断ったと思う?」


“ぼくは、やることがある。きみのもとには、いけない。だってぼくは、しえだから”


「“しえ”に会えたらよろしく伝えてね」


おほほと手を添え上品に笑いながらお婆さんは階段を降り去っていった。墓場に残された私たちの静寂を破ったのは紅眞が私の背中を思い切り叩いた音だった。


「っい゛だっ!?」
「……ユイ。俺、お前が仲間で良かったわ」
「…………。」
「晶も無言で追い討ちかけないでくれる!?」
「うるさい黙れ」


酷っ!
続けて緋翠が背中をさすり、璃珀がぽんぽんと頭を撫でる。そして碧雅は何事も無く私の前に立ち、帰るよと目で伝えてくる。


「ヨスガシティ、戻るんでしょ」
「……うん。会いに行ってみよう」


お婆さんが教えてくれた、不思議なトゲピーに。




◇◆◇




「何作ってんだよジジィ」
「これステラ。口の利き方には気をつけろといつも言ってるじゃろて」
「知るかバーカ」
「……やれやれ。一体その生意気な性格は誰に似たんじゃか」


トバリシティにあるギンガ団ビルの某一室。暗い室内で実験に明け暮れるプルートの元にステラが野次を飛ばしに入る。プルートは巨大な黒い球体を愛おしそうに撫で、怪しい笑みを浮かべる。


「次の作戦の要はこれじゃよ。お前の出番もあるからコイツができた後はお前の調整を行うぞ、ステラ」
「……チッ。そのニヤケ面はやめろ」
「ウヒヒッ。何せギンガ団でお前の調整ができるのがわしだけじゃからなぁ!お前を拾ったあの瞬間からわしは確信していたぞ、お前は正に選ばれた子。伝説をも凌ぐ、伝説を超える存在になると!いやぁわしにもツキが巡ってきたと言うもの……よ」


饒舌になっていたプルートの喉元にステラの鋭く尖らせた爪が軽く触れる。一度力を込めれば薄皮は破れ、出血は免れない。室内で外套を下ろしたステラの銀髪は鈍い輝きを放つ。だがその目は大きく見開き、ギラギラと殺気を隠していなかった。


「自惚れんなよプルート。テメェが俺を見つけたのは偶然だ。“俺”を見せなきゃギンガ団に入れなかった老いぼれが得意気になってんじゃねぇぞ」
「……う、……ぐ……」
「……ま。確かにお前しか俺の調整はできねぇからな。大目に見てやる」


パッと手を離し息を止めていたプルートは地に伏せ息を整える。ステラは何事も無いように口笛を吹き部屋を後にした。その足が向かうのは厳重に警備が施された一室。一つは3つの機械が置かれた部屋。その奥に更に一室。
指紋認証を通し部屋へと入る。そこにあるのは液体に浸され保管されている隕石のような物体。


「……アレも成功体なら、お前はどっちに力を分け与えたんだ?」


コツン、と拳をガラスに当て額を手に押し当てる。その目は隕石を通し違うものを見ているように焦点はぼやけている。


「……俺は何のために、生きてるんだ」


母さん。


ボヤいた言葉は水泡のように融けて闇へと消えていく。


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