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「……お前は案外平気なんだな」
「私?」
「そーだよ!俺ユイは仲間だろうなって思ってたのによ〜……なんか裏切られた気分だぜ」
「ビビりなのにね、ユイ」


確かに怖いっちゃ怖いんだけど……前ほど恐怖心はなくなったっていうか。旅を経て私も図太くなったのかもしれないね。
さてそれより二手に別れるか否かという話は結局どうなったかというと、紅眞が可哀想だから今回は一緒に行動しようということになった。


「お、俺一番後ろ!んで緋翠と一緒がいい」
「私はマスターのお傍に控えてますね。非常時の際はお任せ下さい」
「あ、うん。ありがとう」
「無視すんなよ!」
「知ってるかい紅眞くん。お化け屋敷で一番怖くない順番は一番前なんだよ。ほら、前どうぞ」
「ここはお化け屋敷じゃねぇー!!やだ!!」
「ゴチャゴチャうるさいぞトサカ頭」
「さっさとヤミカラス探して帰るよ。ほら行く」
「いーやー!!」


……な、なんかキャラ崩壊してない?体育座りする紅眞を無の表情で無理やり引っ張る碧雅の図に笑いが込み上げてしまうのは不可抗力だと思う。


「ロストタワーよりも、送り火山の方が雰囲気はおどろおどろしいな」
「送り火山って?」
「ホウエン地方にある慰霊地だ。山一帯全てが墓場になっている」
「それは凄そう」


あ、紅眞の顔が更に青白くなった。緋翠と私の間に挟まるように紅眞が入り、そのまま探索は進む。上の階に進むごとに墓の数は増していき、紅眞じゃないけど私も少し怖くなってくる。けど隣で私以上にビビってる紅眞を見るとスンと落ち着きを取り戻す。自分より慌てている人を見ると、返って冷静になるってこのことを言うのかな。


「次が最上階……かな」
「……紅眞、そんなに怖いの無理だったら君がPCで待ってたら良かったんじゃない?」
「俺だけ待つってのもなんかやじゃんか」


コツコツと音を立て石造りの階段を登る。最上階にあったのは一つの大きなお墓だった。


『……すぴー……ぐー……』
「育て屋さんの預かってたヤミカラスって彼じゃないかい?」
「墓石の上に止まって寝てるね」
「なんっちゅー罰当たりな……」
「ねえヤミカラス君。起きてー!」
『……むにゃ……?』


鼻ちょうちんが割れ起きたヤミカラス君に事の経緯を説明する。『やっべ!おねえちゃんあんがと!』と慌ただしくヤミカラス君は頂上の窓口から育て屋さんの元へと戻って行った。よしよし、これでお爺さんの頼み事は解決!あとは報告しにズイタウンに戻って……


(……お花だ)


ふと、大きなお墓の隣にある小さな墓に目がいった。慎ましやかに建てられたそのお墓はよく見ると精巧な物ではなく、その辺に落ちていた石で建てられた物のようだった。それでも弔いたい気持ちは本物だったのだろう、歪にも墓の形を成していて、墓前には花が添えられている。緋翠にこの花について聞いてみた。


「グラシデアの花ですね。感謝を示す際によく用いられる花になります。これを供えた方は、墓の主にお礼を言いたかったのでしょうね」
「……綺麗な花だね」
「ええ。それに供えられて日もまだ浅いようです」
「おやおや。こんな時間にお客様かい」


私たちの登ってきた階段から声がしたと思うと、優しげな顔立ちのお婆さんがにこやかにやって来た。そして私と小さなお墓を交互に見てニコリと「あなたもあの子の噂を聞いてきたのかい」と聞いてきた。


「あの子って……?」
「おや、知らなかったのかい。てっきりあの子のことだと思って。やぁねぇ歳とるとすぐ早とちりしちゃうんだから」


このロストタワーの管理を任されてるというお婆さん。先程から言っている“あの子”とは一体誰のことなんだろう。お婆さんに“あの子”について伺うと、落ち着いた語り口で話し始めた。


「ある日にね、一匹のトゲキッスが空から落ちてきたの。言葉の通り、ひゅるひゅると音を立ててロストタワーの近くにね。恐らく珍しいポケモンを狙うハンターに襲われたんでしょうね。身体はボロボロで、やっとの思いで逃げて来たのが伝わってきたわ」


まあみなさんおかけなさい。と私たちは何を語るでもなく言われるがままに地面に腰かける。晶も文句を言うことなく従っていたことに少し驚いた。


「育て屋の爺さんも呼んで応急処置を施したけどその子は息絶えてしまった。けれど翼の中に大切に抱えられたひとつのタマゴがあったの」


それじゃあこのお墓は、そのトゲキッスの……。想像してしまったその光景に胸が痛んだ。


「わたしたちは助けられなかったトゲキッスの代わりに、タマゴの子を育てようと決めたわ。そしてタマゴを温め、その子は孵ったの」


生まれたのはトゲピー。幸運のシンボルとされるポケモン。


「トゲピーは生まれた時から不思議な子でね。すぐ擬人化することもできたし、このお墓にお参りに来る人たちに予言のようなものを告げるんだけど……それが尽く的中するんですって」
「予言、ですか」
「例えば家に帰ると強盗が入ってるからジュンサーさんを呼んで帰ると良い、とか。今日の買い物帰りにいつもと違う道に立ち寄れば亡くなったポケモンの兄弟に会える、とか」
「すげぇなそれ」
「あの子に聞いてみたら朧気なイメージが頭に浮かんで、勘を頼りに言ってるだけみたいなんだけど……幸運の象徴のポケモンだから適当なこと言っても的中しちゃうんでしょうね」


だからここに来る人たちはみんな、自分のポケモンは勿論トゲピーにも会いに来てるようなものね。
そう言うお婆さんの顔はどこか無理して笑っているように見えた。


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