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無事目的地を決めもう一泊した私たちはトバリシティに向け今朝ヨスガシティを経った。小さな川に掛けられた橋を渡り出会うトレーナーたちとバトルを繰り返し進んでいく。街らしきシルエットが見える所まで来ると、街から離れた所に気になる建物があった。凹んだ土地にちょうどはまるように立つ、暗いオーラを醸し出す高い塔。
なんだろうと小さく呟いた私の声が聞こえたか、ボールから緋翠が教えてくれた。


『あの塔は“ロストタワー”と言います。簡単に言うと……ポケモンの墓場ですね』
「お墓……」


にしては随分不気味な雰囲気だね?まだ昼間なのにこの周りだけ人気が無いし。キルリアのツインテールの飾りのような赤い突起がほのかに輝き、大丈夫ですよと宥める。


『この時間なら“彼ら”は襲いませんし、ここにいる方々はそのようなことをしないでしょう。みな穏やかに眠っています。ちゃんと供養されてますから安心してください』
「ヒッ」


待ってその言い方じゃ居るってことじゃん!?なんでニコニコしながらそんな恐ろしいこと言えるのこの子!?あ、エスパータイプだからそういう類のものも感じとれちゃうのかな……。


(……?)


風が吹いたと思った瞬間、上に影が生じたので空を見上げる。陽の光に当てられハッキリと見えなかったけど、広い翼を広げ飛び立つ鳥らしき姿が見えた。その鳥は、丁度ロストタワーの頂上から飛び立ったような……。

再び風が舞い、今度は強めのそれにさらわれないように目を瞑り身体を縮こまらせる。するとまるで私の周りだけシャットダウンされたように無音の空間になった。風の音も、木の葉の舞う音も、仲間の声も。
ふわり。後ろからそっと抱きしめられる感覚を感じた。


(──あ、)


冷たい風ではない、誰かの温もり。力いっぱいではなく、私の身体を柔らかい綿で覆い隠すように優しく抱き締めるその抱擁に何故か懐かしさを覚える。


“どうか、しあわせになって”


頭を撫でられる感覚と共に突然女性の声が聞こえ心臓が大きく鼓動を上げた。目を見開き上を見ると、鳥の姿らしきものは空のどこにも無かった。


(今のは、何?)


息を吸うのも忘れ、惚けながら空を見上げていた私にボールから碧雅が出て肩を叩いてきたところで我に返る。


「どうしたの」
「……今、何か……」


途中まで言いかけて私は口を噤んだ。気の所為で片付けるにはあまりにも意識がはっきりしていた。ボールの中にいるみんな(晶を除く)もそれぞれ何があったかと声をかけてくれる。嬉しいけど、でもみんなにも変な不安を味合わせたくはない。


(ロストタワーっていうちょっと特殊な場所だったから、だよね)


緋翠の言っていた“彼ら”のイタズラなんだ。きっとそうなんだ。自分に言い聞かせるようになんでもないよと伝え、早足でロストタワーを後にしズイタウンに向かっていった。


「…………。」


ロストタワーの頂上を静かに見つめる碧雅の目の色が変わっていることに気づいた者は、誰もいない。




◇◆◇




「すまんねぇお嬢さん、いきなりこんなことを任せてしまって」
「大丈夫ですよ!それで、そのポケモンはどの方向に?」
「あっちの方角じゃよ」


ズイタウンに着き早速PCで部屋の確保をした私は、最早趣味になりつつある街の散策に出かけていた。ズイタウンは“育て屋”があるみたいで、柵ごしから色んなポケモンたちを見たり近づいてきた子たちと触れ合ったりと楽しい時間を過ごしていた。先程の不思議な出来事が時々頭によぎるけれど、大分気持ちが薄れてきた頃。お爺さんの焦った声が聞こえてきた。

育て屋を営んでるお爺さん曰く、他のトレーナーから預かったヤミカラスが随分やんちゃっ子みたいで、育て屋のスペースだけでは物足りなかったらしく空を飛んで逃げて行ってしまったらしい。追いかけようにも他にも預かったポケモンは沢山いて、自分や一緒に住んでるお婆さんも歳だから体力も無いし……と困り果てているところに私がやって来たらしい。

困ってる人をそのままにしておく訳には行かないし、と快くヤミカラス探しを承諾したまではいいんだけど、問題は逃げた先。お爺さんの教えてもらった方向に向かうとそこで待ち受けていたのは見覚えのある物寂しい塔。そう、ヤミカラスはロストタワーに向かって逃げていったのである。


『夜も遅いですし、ここは私たちがタワーに入ってヤミカラスを探します。マスターはPCでお待ちいただいても……』
「そんな訳には行かないよ。私が引き受けた話なんだし」
「なら、はいご主人」
「……?何その手」
「誰かと繋いだら怖くないと思うよ」


いや恥ずかしいわ。怖いから誰かと手を繋ぐって子どもか。
残念と笑う璃珀を軽くジト目で見つめた後、ロストタワーを見上げ息を吸い込む。全員で一緒に行けば大丈夫だ。
そんな私の思いとは裏腹に碧雅が二手に別れた方がいいかもねと提案する。


「え」


それに対して異を唱えるように声を発したのは私ではなく、紅眞だった。


「紅眞は反対なの?」
「……ま、まあな。ほら、暗いんだし俺の火が無いと足元が危ないだろ?」
「ユイが懐中電灯持ってるからそれで問題ないでしょ」
「……そ、そう……だな」


いつも明るいその顔はどこかぎこちない。寧ろこういうことに関しては率先して行きそうなイメージだったけど、もしかして怖い物が苦手だったり?試しに聞いてみると「やっぱりバレちったか」と苦笑いした。なんか意外だなぁ。


「でもヨスガジムはゴーストタイプのジムだったけど平気そうだったよね?」
「ジムリーダーの元にいるポケモンなら問題ないだろ。そのタイプのエキスパートだしさ」
「ああなるほど、無法地帯な野生のゴーストタイプや幽霊が怖いんだね」
「そーそー……ってその単語出すなアイツらが寄ってくるだろ!」
「これだけ騒いでるなら幽霊なんて近寄らないってヘタレ」
「ヘタレじゃねぇ!」


いつにも増してその顔は本気と書いてマジだ。ほんとにこわ……苦手なんだな。


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