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生まれた時からボクはオカシイのだと自覚があった。
生まれた時からボクの中にナニカがいるのを確信していた。
生まれた時からボクは、“わたし”ではなかった。
絶え間なく流れる機械音、数人の話し声。
暗く狭い室内の中心に聳える円柱の機械、そこに繋がれる沢山のチューブ。
イルミネーションのようにスイッチの光が多色世界を彩る。
一定間隔で無機質な音が流れるそれは、ボクが生きている音だ。
“どうだ?予定ではそろそろだと聞いていたが”
“大丈夫だ。まだこの子は生きている”
“成功するとも。これが上手く行けば我らの名は世界に轟く”
始まりは些細なものさ。
キミたちのちょっとした傲慢が産んだ産物。
何が世界を脅かす自体に繋がるか、分かったものではないね。
ああでも、ボクの場合は違ったのかもしれない。
“彼”の助力が無ければ、ボクは生まれることはなかったのだから。
これは、夢だ。
今という未来に繋がる前の、ちょっとした昔話。
神の一端が奏でた一つのメロディ。
“見ろ、ヒビが……!”
未知、未来、命の生まれる音。
あの名前は誰にもらったんだろうか?
数多ある世界のキミ。
ボクという奇跡を生んだキミ。
ボクは、“わたし”は、
“……はじめまして、× ×”
生まれた時からボクはオカシイのだと自覚があった。
生まれた時からボクの中にナニカがいるのを確信していた。
生まれた時からボクは、“わたし”ではなかった。
こうして、“イヴ”は生まれたのである。
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