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ただいまと告げ部屋に戻ると璃珀が出迎えてくれた。マラサダの入った紙袋を見て不思議そうにしていたのであれこれ経緯を話すと「たまにはそういうのも悪くないかもね」と笑い荷物を受け取ってくれた。璃珀はアローラ地方にも行った事があるのかな。


「あり?緋翠と晶はどこ行ったんだ」
「えっ……ほんとだ、いない」
「ああ、彼らならバトルフィールドに向かったよ。晶くんが緋翠くんをバトルに誘ってね。碧雅くんも念の為監督で」
「そうなの!?」


道理で部屋が静かなわけだ。璃珀も誘われたけど部屋に誰もいないんじゃ私たちが困惑するだろうと残ってくれたみたい。それにしても、突然バトルだなんて一体何があったんだか。


「なんで僕までやる羽目に……」
「お帰りなさい、マスターに紅眞」
「…………。」
「あ、2人ともおかえ…………り?」


見慣れた2人の後ろに佇む水色の髪をポニーテールに束ねた人がいた。この時代に似合わない和服を着ているけど、シワひとつなく綺麗に着こなしている。ただ視線はこちらを向かず、わざと逸らしてるように感じられた。2人の知り合いかと碧雅たちの方を向くと分かるだろうと言わんばかりの含み笑いを浮かべて何も言わない。とはいえ緋翠は優しくニコニコしてるんだけど。


「おっお前ら戻ったのか〜……って誰だコイツ?」
「…………。」
「……もしかしてだけど」


これまでの話を聞いて思い当たる人物は一人しかいない。


「晶……?」
「…………だったらどうした」


いやに間が長かったな、というかやっぱり当たってた。晶らしいその人は、チルタリスの時と同様少々視線が鋭いのは変わらないみたいだ。けれど、私は思わずジーッと晶の顔を凝視してしまう。その視線がいたたまれないみたいで若干嫌そうに細まる。
そして一つピンと来たワードが浮かんだので指を指し、こう言った。


「“おっ〇いのついてない美女”だ!」
「貴様は本当に僕の神経を逆撫でる天才だな」
「いだだだだ頭もげる!!」
「今のはユイが悪い」
「……ぷっ、」


薄笑いを浮かべながらピキピキと青筋を立て私の頭を鷲掴み。紅眞と緋翠が離してくれたけど未だにジンジン痛むぞ……あれは結構本気だったな。あと璃珀、地味にウケてるの分かってるからね。背中向けてるけど震えてるのバレてるからね。


「フン。だからこの姿になるのは好かない」
「でも女顔負けの美人さんだね、まつ毛長いし」
「……はぁ」


チルタリスの原型が愛嬌のある可愛い顔立ちだったから擬人化するとそれに倣うものになるかと思っていたけど………色白の肌に怜悧な印象を与える鋭い目つき、パッと見はキツい女性と思われるかもしれない。重力に逆らうアホ毛がチャームポイントだね。
中々擬人化しないなと思っていたけど、この姿をからかわれるのが嫌だったのかも。
いつまでも玄関で騒ぐわけにも行かなかったのでリビングで夕食の支度をしながら事の経緯を聞くことにした。


「お前たちのバトルスタイル、現状の強さを把握しておきたかった。実際に戦ってみるのが一番手っ取り早いからな」
「へぇー……だから碧雅もバトルする流れになったんだ。もしかして、全員とする予定なの?」
「無論だ。しばらくはこの街に滞在するのだろう?ならばトレーニングにも時間が欲しい」


……なんというか。ここまでバトルに真摯に打ち込むタイプは初めてだ。バトル好きといえば紅眞だけど、彼はあくまで“戦うことが好き”だから。だが、と晶は私に鋭い目を向ける。


「いくら僕たちポケモンの“個”が強くなれど、トレーナーであるお前が僕たちに的確に指示を下せなくては話にならない」
「うぐっ」


容赦ないなこの子。一応勉強してるつもりだけど、晶から見たらまだまだなんだろうな。


「……まあ、今日のジム戦は及第点だ。ひっつき虫の進化が無ければ危うい場面も見られたがな」
「晶もなんだかんだ出てくれたしね!」
「また頭を勝ち割られたいのかちんちくりん」
「ひぃすいません」


瞳孔開いた目で言われるの怖すぎるわ。美人の凄みってとんでもない威力を誇るよね。ちょうど夕食も準備が終わったみたいで、本日はミックスオレで乾杯だ。


「たまにはこういうのもアリだろ!ケーキは明日買ってくるからな」
「げっ、油っこい」
「では私はこの苦めのものを」
「俺は……なんでもいいかな」
「……なんだ、これは」
「晶、食べれそう?」
「……善処する」
(難しい顔してる)


とはいえその顔になるのもわかる気がする。思った以上に油っこいからお腹に来るし。私は甘いマラサダ1個でお腹いっぱいだな。晶も覚悟を決めたのか、小さく息を吐き一口頬張る。


「……!これは、」
「美味しい?」
「悪く、無い」
「……んー、これなら俺でも作れるか……?」


晶の食べてるマラサダは辛めの味付けみたいで、どうやら彼は辛めの物が好きみたいだ。紅眞は食べながらブツブツレシピらしきものを呪文みたいに唱えてるのがちょっと不気味。

口直しか冷凍庫に入っているアイスを食べ出す碧雅に色んな味のマラサダを食べる璃珀。緋翠は私の側で静かにマラサダを堪能していて、紅眞はレシピの模索に夢中で晶も初めて食べるマラサダは幸いにも気に入ってくれたようだった。髪色も合わさって正に十人十色。なんだかんだ仲間も5人に増えてたんだね。


(これからもよろしくね、みんな)


私は彼らを見やり、心の中で言葉を送る。
この縁が、願わくばずっと続きますようにと。


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