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「晶っ!ありがとう〜!」
『っ抱きつくなこのちんちくりん!』
「ああぁせっかく“主”って呼んでくれたのに戻ってるぅ!?」
『ユイ、ここ一応他の人がいるから』
「あっ、そうでした」


ポケモンの言葉を理解しているような言動は控えないとね。何度か注意されてるけどつい忘れちゃうなぁ。今は人が近くにいなくて良かったけど。ユイさんと名前を呼び微笑を携えたメリッサさんがジム戦の時とは違うポケモンを引き連れてやって来た。


「楽しいバトルをありがとうございまシタ!ヨスガジムを制覇した証、レリックバッジを授けたいと思いマース!ばるん、彼女にバッジを」


ばるんと呼ばれた気球のようなポケモンがふわふわ漂い私の前にトレーを差し出した。その中に入っていたのは一つのバッジ。


「ありがとう。えっと、ばるん……ちゃん?」
『ばるんはフワライドだよぉ。おめでとだよぉ』


フワライド。この子もどこか愛嬌があって可愛いなぁ。その後ジム内の回復設備で手持ちの回復を待ちながらメリッサさんにコンテストの魅力を沢山プレゼンされ、ヘロヘロになった私は苦笑いでヨスガジムを後にしたのであった。




「緋翠、改めて進化おめでとう!」
「ありがとうございます、マスター」
「少し背が伸びたんじゃないかい?」


PCに戻り夕食までの団欒を過ごしている。キルリアに進化したことによって擬人化の姿にも多少影響があったみたい。前は私より少し年下くらいだった外見も今は同い歳の少年と言っていい風貌になっている。
そうでしょうかと璃珀と背比べをする光景は仲睦まじかった。


「次の分岐進化はどちらを選ぶのか楽しみだね。そのままという選択肢もあるけど」
「分岐進化?」
「キルリアから次の進化には2種類存在するんだよ。その内の1つはオスのみしか進化ができないんだけどね」
「へぇ〜……」


ポケモンの進化にも色々あるんだなぁ。緋翠は男の子だから、その2種類どちらにも進化できる可能性があるってことか。何はともあれ、今日は緋翠の進化をお祝いしないと!
……でも何か、忘れているような……。


「…………あ!!」


突如大声を出した私にみんな一様に私を見ている。一番近くにいた緋翠が心配そうに声をかけてくる。そう、大事なことを忘れてたんだよ!


「晶の歓迎会をしないと!」
『は?』


何言ってんのお前みたいな顔で晶が私を見るけどこれはもう私たちの恒例行事だからね。その言葉を皮切りに晶以外のみんながああ……と納得した様子になる。


「そういやぁバタバタしてて確かにやってなかったな」
「ヨスガに戻ってすぐジム戦だったしね。しばらくゆっくりしててもいいんじゃない?」
「俺の時はハクタイでやってもらったよね。あの時作ってもらった紅茶のシフォンケーキ、美味しかったよ」
「お口に合って良かったです。また機会があれば作りますね」
「璃珀の時もジム戦勝利会兼ねてなかったか?」
「ちょっと、話が脱線してる!てことで晶、今夜は歓迎&おめでとうパーティーだよ!」
『な……、は……はぁ!?』
「……毎回別のものと兼ねてお祝いやってない?」
「流石にバトルマネーだけじゃお金足りないんだもん」
「まあケーキにご馳走用の食費もかさむからな」
「緋翠の歓迎会はちょっと物足りなかったから、今夜は盛大にやるぞー!」
『……!待て待て待て!』


話が盛り上がっていたところで蚊帳の外だった晶がハッと我に返り翼をハリセンのように突っ込ませながら止めに入った。


『おい、僕はやって欲しいなんて頼んでないぞ』
「え、嫌だった?」
『嫌とまでは言わないが……お前は一々こんな事をするのか?』
「こんな事、って?」
『…………。』


黙り込んでしまったけど、大方察しは着く。前のトレーナーは仲間を迎える度にこういった催しは行わなかったのだろう。もしかしたらここではそれがむしろ普通で私が変なのかもしれないけど。でも、せっかく仲間になってくれたのだから、感謝の気持ちを込めて祝いたいと思うのは私の我儘なのかな。
ま、紅眞と碧雅の言う通りマネー的問題でいっつも何かと兼ねちゃってるんだけどね!


「緋翠が進化したことも勿論嬉しいけど、晶が仲間になってくれたことも嬉しいし感謝してるんだよ」
『…………フン』


あ。そっぽ向いちゃった。でも棘のある雰囲気は前より薄くなった気がする…………多分。




「まさかケーキが売り切れなんて……どうしよう」
「んー作ってもいいけど遅くなっちまうしなぁ」


とぼとぼと重い足取りでヨスガの街並みを歩く私と空を見上げて歩く紅眞。ケーキを買いにヨスガシティの有名なお店に向かったはいいけど、有名なだけあって今日焼いた分は全て売れてしまったらしい。他のお店も軒並み営業時間が終了して閉店してるし、紅眞の言う通り手作りするにしても時間も時間だし。
ちなみにどうしてこの面子かというと、碧雅は間違いなくアイスを買ってくるし璃珀はあの人目を引く容姿からちゃんと帰って来れるか怪しい。緋翠と晶はメインなのでなるべく負担をかけさせたくないし……ということで消去法で私たちになったのだ。


「ま、しばらく滞在するしケーキは明日でもいいんじゃねぇか?」
「うーん……じゃあ今日はどうしようか」
「そうだな〜。普段食べねぇようなものでもいい気がするけ…………どおおぉぉぉ!!」
「突然どうしたの紅眞!?」


何かを見て驚き叫ぶ紅眞。通りすがりの人たちがなんだなんだと変な目で私たちを見てる。すいませんすいませんと謝罪し紅眞に向き直ると彼はあるお店のショーウィンドウにへばりついていた。何やってんのちょっと!?


「ま、まさかこんな所でお目にかかれるとは……!」
「……カレーパン?」
「ちっげーよ!マラサダだっての!」
「まさらだ?」
「サラダじゃねぇ!マ・ラ・サ・ダ!」


怒られちゃった。マラサダ、聞いたことない名前の食べ物だな。


「アローラ地方の名物なんだよ!一度食ってみたかったんだよな〜。なぁ、これ買って帰ろうぜ」
「みんな納得してくれるかなぁ……?」
「だいじょーぶだって。全種類の味を買って食べ比べだ」


意気揚々とお店に入る紅眞に連なり私も店内へ。ハワイに似た陽気な装飾のマラサダ店は丁度期間限定で運営していたみたいで、偶然見つけた私たちはある意味運が良かったようだ。鼻歌交じりに軽やかな足取りでPCに向かう紅眞の後ろ姿に小さく笑みを浮かべ、私も抱えているマラサダの紙袋を落とさないようギュッと力を込めるのだった。


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