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「ありがとう璃珀!」
『喜ぶのはまだ早いよ。あと2体いるんだから』
「うん。……一旦戻って休んでてね」


璃珀をボールに戻す。次に出すのは決まっている、メリッサさんが次を繰り出す前に私は緋翠を出した。ラルトスが出てきたことに少し意外な顔をするメリッサさん。ただ彼を見て闘志を感じたのか、ニヤリと笑いゴーストを出した。


「この子とはどう戦いマスカ?ゴースト、シャドークロー!」
「っかげぶんしん!」


どくタイプでもあるゴーストを繰り出したのは私への挑発なのか。速攻で接近技を仕掛けてきたゴーストと距離をとるため分身で惑わす。サイコキネシスで攻撃を仕掛けようとしたがメリッサさんは待ってたとばかりに得意気な笑みを浮かべゴーストに指示を出す。


「不意をつきなさい」
「……!避け、」


れるわけない。言葉の意味を考えて反応が一瞬遅れてしまった。緋翠が攻撃を繰り出すより前に、ゴーストのふいうちが決まる。


『くっ……!』
『向こうの方が一枚上手だね』
「畳み掛けマスヨ!シャドークロー!」
「リ、リフレクター!」


危ない。背筋がヒヤリとした。緋翠は防御は得意だけど攻撃はまだレパートリーが少ない。攻撃を仕掛けようにもまたふいうちを喰らったら体力ももたない。お互い抜群技を持つが故に、トレーナーの判断力が試される。


(ここは、交換しておいた方が……)
『マスター!』


緋翠が私の方を振り向いて叫んだ。私の心を読んだのかな。その顔はどこか気が咎めいていて、こんな時にも私を気にかけなくていいのに。


『まだ私は戦えます!』
「で、でも……」
『お願いします……!皆様を、マスターをお守りするためにも!』


谷間の発電所でマーズのブニャットの攻撃をリフレクターで防ぎ紅眞を守ってくれた姿が想起された。あの時と同様、彼は自分ではなく“誰か”のために守る力を振るう。


『私ももっと、もっと、……強く在りたいんです』


そう言った瞬間、緋翠の身体が輝き始めた。光となった緋翠の身体は形を変え、光が収まるとそこに立っていたのは、まるで少女のような見た目をしたポケモン。


『キルリア……だと……』


晶の茫然とするような声に我に返った。ラルトスから進化したんだ……!


「緋翠、やれそう?」
『ええ、勿論です』


ラルトスの頃は隠れていた赤い目が私を捉え、安心するように笑いかけてくれた。


「この状況で進化……!良いものを見させていただきまシタ!」
「本番はここからですよ!緋翠、かげぶんしん!」
「ゴースト、もう一度ふいうちを喰らわせマス!」
「リフレクターで自分を覆って!」


四方八方どこから襲おうが、緋翠の周りはリフレクターで覆われている。沢山の分身が皆一様に透明な丸い球体に収まる光景はどこか異様だけど、どこか芸術的で。呆気に取られている間にバレリーナのようにしなやかな動きでゴーストの背後に回り込む。


「いっけー!サイコキネシス!」


ゴーストがサイコキネシスで翻弄され、目を回し倒れ込む。効果抜群に加え進化したことで能力が上がったのだから、威力は折り紙付きだ。


「ゴースト、戦闘不能。キルリアの勝ち!」


審判の淡々とした声がフィールドに響き渡った。


「……やったぁ!緋翠、ありがとう!」
『……っは、はい!やりましたマスター!』
「うわぁぁぁキルリア超可愛い!何そのツインテールみたいなの完璧女の子じゃん可愛いィィ!」
『あ、ユイの変なスイッチが入った』


呆れた碧雅の声がボールから聞こえてくるけどお構い無し。戻ってきた緋翠をひたすら愛でているとメリッサさんからコホンと咳払いをされた。あ、まだジム戦途中だった……!


「す、すみません!嬉しくてつい……」
「イイエ。進化、おめでとうございマース!ですが勝負はまだ途中。アタシのサイコーのポケモンで、アナタたちとサイコーのバトル、シマショウ!」


そう言い華やかに、高らかに、ボールを掲げ投げた。出てきたのはコンテストでも見たムウマージ。このまま流れに乗って緋翠で戦いたいところだけど、やっぱりゴーストとのバトルで受けたダメージは進化した後でも残っているらしい。本人もやる気はあるけれどふらついている。ここは大事を取って休んでもらおう。


「それじゃあ私は璃珀で……?」


バッグの中で一つのボールが揺れた。璃珀のじゃない。
揺れたのは一度だけだったけど、気の所為ではない。真新しいボールを手に掴み私は彼を繰り出す。


「……頑張ろうね、晶」
『……フン』


あなたの力、存分にみせてやれ!


「まずは小手調べ、シャドーボールデス!」
「りゅうのまい!」


その名の如く、それは舞。白い雲の羽を優雅に仰ぎ、連投されるシャドーボールを軽やかに躱しながら空を翔る。ムウマージは攻撃を確実に命中させるマジカルリーフに切り替えたが晶はそれすら見越していた。マジカルリーフが一直線上に引き寄せるよう飛び回り、口元が開かれる。


「りゅうのいぶき!」


青い炎が揺らめく光線がマジカルリーフを一つ残らず焼き尽くした。ムウマージの『なんですっテ!』と驚き焦った声が聞こえ、空中に浮かぶムウマージからあやしいひかりが放たれる。ただ晶はその光を避けることもせず、彼の周りから不思議なオーラが漂う。そのオーラにあやしいひかりは弾かれた。


『いつの間にしんぴのまもりなんテ……!』
『僕がりゅうのまいで空を飛んでいた後だ。距離が離れていて気付かなかったんだろう』
「ムウマージおちついて!もう一度マジカルリーフデス!」
「こっちもいくよ晶。……ドラゴンクロー!」


チルタリスの足が光を纏い、マジカルリーフを蹴散らしその勢いでムウマージにも攻撃が命中する。元々他のトレーナーのポケモンだということもあるけど、私よりもポケモンやバトルを理解して戦っているな……いつか、晶からも色んなことを教えてもらいたいな。
ただムウマージも負けてはいない。ドラゴンクローを喰らった体勢のままサイケこうせんを確実に命中させた。


「晶、大丈夫!?」
『この程度でやられるわけがない。僕にかまけてないでお前は敵の状態を把握しろ』
「……うん、次で決めるよ」
『ワタシを追い詰めるなんてやるネ、あのコ!』
「ムウマージ!」
『了解……ネ!』


巨大なシャドーボールがムウマージの頭上に現れる。でも、不思議とそれに恐怖を抱かなかった。もっと禍々しい、もっと巨大で高威力なそれを以前見てしまったから。


(ムウマージのシャドーボールも充分凄いんだろうけど)
『……分かっているな、主』
「!晶、ドラゴンクローでシャドーボールを切っちゃえ!」
『良いだろう』


放たれたシャドーボールを真っ二つに割り、ムウマージに2度目のドラゴンクローが炸裂する。りゅうのまいで攻撃力も上がったそれを2発喰らったムウマージはふよふよと地上に降り、そのまま倒れてしまった。審判の私の勝利を告げる声が止むと私は一目散にフィールドに佇む晶に駆け寄った。


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