あの時私は家庭科の調理実習中だった。
酢豚と卵スープが出来上がって、今まさにさあ食べるぞ!っていう瞬間だった。
壁に立てかけてあった調理台の金属蓋が倒れて、つんざくような音が響いたのを覚えている。
電車が止まって、駅前では多くの人が必死に携帯電話を握りしめていた。
私は運よくその日の夜までには家に帰れたけど、帰れなかった友人は学校の体育館に泊まったと後になってから聞いた。
家は真っ暗で、外は雪なのに暖房もつかず、服を何重にも着込んでベットに入った。
帰りの車内で聞いたラジオの内容がぐるぐる頭の中を回るなか、何度も何度も余震が訪れるたびにベットの中で息を止めていた。
朝になると水道は止まっていて、朝ごはんは夜中にお風呂に溜めた水で作った。
携帯は電源を切って、リビングの戸棚にしまった。
一年前の今日、最初の揺れが起こってからのことを私は全て覚えている。
でも危機感とか恐怖とか罪悪感といった感情は、あのころに比べるとほとんど無くなっている。
忘れて良いのだろうかと思う。
でも無理に覚えておく必要もないと思う。
大事なのは、これから自分がどうやって生きていくかだ。
被害を受けた方の復興と、亡くなった方の御冥福をお祈りします。