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※♀倉南。どちらかと言うと♀倉→南
「何時まで乗ってる心算なんだよ、降りろ」
「南沢さんが縦に頷くまで退けませんね」
そう言ってニヤリと笑う彼女――倉間は、俺の可愛くない後輩だ。何から何まで男勝りで(実際チビでまな板仕様の胸に色気の欠片もないっていう、とてもじゃないけどコイツを女扱いしたら他の女が可哀想)、俺にいつも付きまとう犬みたいな奴。
そんな倉間が勉強を見てほしい、と言うので、仕方ないから家にあげたというのに、いつの間にか勉強会は何処へやら、俺はベッドへと押しやられ、そんな俺の上に倉間は乗っかっていた。
振りほどこうと思えば簡単だが、まあ仮にも女なわけだから、流石に吹っ飛ばすのはいけねぇよなあ、と彼女が諦めて俺の上から退くのを待っているわけだが、倉間にその気はまだないらしい。
「南沢さん彼女になってよ」
「だから何で俺が彼女なんだよ……。お前が彼女になるんじゃねぇの? いや、付き合うって言ってるんじゃねぇからな?」
「だって俺、女に見えないし! 南沢さんのが、女っぽい」
そう言ってぽっ、と顔を赤らめる倉間。おいおいおい、女っぽいってどういうことだよ、褒め言葉なんかじゃないの、コイツ判ってんの?
確かにこの顔に綺麗だって言われることは少なくない。実際俺自身容姿に自信はある。正直其処らの男なんか敵じゃないとさえ思える。
だけど女っぽいなんて、言われたことは全くない。
「お前なぁ……。あーもう、早く退けって」
「だから嫌だって言ってるでしょ。南沢さんが縦に頷いてくれたら退いてやるって何度も言ってんのに、アンタ頭いいのにまだ理解出来ないんすか?」
あ、今のはカチンときた。本当に吹っ飛ばしてやろうか、この女。
まだ少しだけ残っている理性が、それはダメだろと俺を抑えつけるけれど、俺にだって我慢の限界というのもあるわけで、このクソ生意気な後輩が自重というものを覚えてくれなくては、そろそろ俺の堪忍袋の緒も切れそうだ。
「……南沢さん、俺のこと嫌い?」
苛々とした気持ちでいたら突然、倉間がしゅんとしたように項垂れ静かになってしまい、何だか虐めたような気もしていたたまれなくなってくる。倉間、と声をかけようとして、倉間があまりにも泣きそうな表情をしていることに気づき、出かかった声を最後まで発することは出来なかった。
正直、倉間がこんな顔をするなんて反則である。
「……おい、泣くなよ」
「泣いてません」
「泣いてんじゃん。俺に出来ることはするから泣くなっての」
「じゃあ俺の彼女になって」
それは無理、とキッパリスッパリ断れば、倉間は下唇を噛んで悔しそうに震えている。南沢さん出来ること何でもするって言ったのに、とか何とか喚いているけれど、これは全くもって別問題である。それに、何でもとは言っていない。
「南沢さんのケチ」
「ケチで大いに結構」
むっすぅ、と判りやすく倉間の頬が膨らんでいく。素直すぎて、倉間の感情は本当に全て顔に出るものだから、それが面白くないと言えば嘘になる。
もう何を言われようと頷く気がないのだと、やっと理解したようで。おずおずと俺の上から退く倉間。体が軽くなった、と感じるかと思いきやそこまで変わった感じはしなくて、倉間って軽いななんて沁々とする俺。
倉間は相変わらずぶすくれたままだったが、絶対諦めませんからね! と言いながら、やっとノートと教科書に目を向けたので、俺も好きにすれば、と受け応えながら計算ミスを指摘してやった。
諦めの悪い後輩を持つと苦労する。
fin.
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完全に趣味に走った……。
続き書くかもです。
くっつけたい、二人を。
そして乙女沢を書くのだ……!