はぁ、と溜め息一つ。放課後の誰もいない教室で倉間は吐いた。
 些細なことで喧嘩をしてしまった。そんなことは日常茶飯事なんだけれど、どうしてこうもお互いぶつかり合ってしまうのか。多分両方子供だからなんだろう。だからこそ年上であるあの人にはもっと大人らしくしてほしかったり、だからと言って子供扱いはされたくなかったり。――多分、否確実に、自分が我儘であることが、一番の原因なのかもしれない。
 携帯を開いてカチカチとメールを打ってみるも、送信する勇気なんてこれっぽっちもなくて、倉間は電源ボタンを何度も押し、作ったメールを削除する。ただ一言謝ればいいのだと判っていても、どうにも踏み出せない。

「みなみさわさんの、ばかやろー」

 第一こうなったのも、相手にだって非はあるのだ。確かに自分が一方的に感情をぶつけたけれど、そうなった原因は相手にだってある、と倉間は思う。
 口を尖らせて携帯の画面と睨めっこをしてみる。都合よく向こうから連絡が来たら、俺はきっと謝れるのに。
 そんなことを思っていたら、突然携帯が鳴り出して、倉間はびくっと体を震わせた。あんまりにもタイミングがよくて、持っていた携帯を落としてしまい、慌てて拾い上げる。ディスプレイには、三国さん、の文字。
 何だ、南沢さんじゃないのか。なんて倉間は落胆して、でも急いで出なきゃ、と気を取り直し通話ボタンに指を乗せた。

「はい」
「もしもし、倉間か?」
「三国さん、急にどうしたんすか?」

 いや、それがな……。と三国。妙に申し訳なさそうにする三国に、倉間は何かあったんですか、と催促すれば、三国が実は……と言葉を続ける。

「南沢が倉間が来ないと帰らない、と言って動かないんだ」
「……南沢さんが?」

 有り得ない。そう倉間は思った。自分に怒っているならまだしも、南沢がこんな状況で倉間に甘えるだなんて(甘えている、と解釈していいのかは微妙だが)。
 倉間には何が何だか判らないが、だけどこのままにしておいては三国達に迷惑をかけるかもしれないと、すぐ行きますとだけ伝えて電話を切った。
 筆記用具と携帯だけ鞄へ無造作に突っ込んで、駆け足で南沢のいる教室へと向かう。三年生の教室は、倉間が普段過ごしている教室の真上にある。そう時間はかからなかった。

「すまないな、倉間」
「いえいえ。後は俺が何とかするっす」

 頼んだぞ、と三国。倉間が一つ頷くと、三国ら三年生は教室を出ていった。

「南沢さん、俺来ましたよ。帰りましょ」

 目の前で机に伏している南沢に声をかけるが、反応はない。やっぱり怒ってんのかなー、なんて思って倉間はどうしたらいいのか、益々判らなくなってくる。

「……なあ、倉間」

 5分位経っただろうか。倉間が何も言えずにいると、机に伏したまま南沢が口を開いた。

「お前さ、俺のこと嫌いになった?」
「何言ってるんすか。嫌いになれるわけないの、アンタが一番よく知ってるじゃないですか」
「……そーだよな」
「そうですよ」

 そこで会話は途切れる。
 珍しく気弱な南沢の態度に、倉間は少しばかり驚いていた。もしかしたらもしかすると、南沢も自分と喧嘩したことにより落ち込んでいたのかもしれない。そう思うと倉間は無性に目の前の先輩が愛おしくて仕方がなくなってくる。

「南沢さん、ごめんなさい」
「ん……俺も、ごめん」

 そこでようやく南沢が顔を上げた。目元が少し赤いのは、泣いたりでもしたのだろうか。あのクールな南沢が自分のことでこんなにも感情を乱すことが嬉しいし、だけど泣かせた自分が悔しい、と倉間は感じる。まあどっちにせよ、やっぱり倉間は南沢が好きなのだ。

「南沢さん、帰りましょ」
「やだ」
「何でそこで我儘言うんすか」
「倉間がキスしてくれたら、帰ってやってもいいけど」

 得意気に南沢にそう言われて、倉間は返す言葉もない。全くここは学校だと言うのに、本当に南沢はそういうことはお構い無しな人間だ。
 だけど仕方ないので、倉間はキョロキョロと誰もいないことを確認すると、南沢に触れるだけのキスを一つ落とした。




仕方ないと言いつつ本当は自分もしたかった。
fin.
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甘えた沢が大好きですはい。










2011.12.08-  

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