少年漫画によくある、ハーレム物の主人公みたいな奴をラッキースケベと呼ぶらしい。それならば今俺の隣でひたすら申し訳なさそうにしている倉間はきっとそれに該当するのではないだろうか。倉間の左頬には真っ赤な紅葉のスタンプが俺の手によって押されていた。だからほんと事故だったんですって、そう口にする倉間が本当に反省しているのかは判らない。
 そう、これは初めてのことではなかった。最初のうちは俺だってこんなに怒ったりしなかったさ。そうなった理由の方もまあ仕方ないとは思えるし偶発的事故に一々反応するのもやはり疲れる。大体男に体を触られる度に大騒ぎする男なんてそれこそ気持ち悪いじゃないか(痴漢とかそういうのは別として)。だがこれが初めてでなかったら? 最早日常茶飯事とまで成り果てていたとしても、今まで通り黙っていられるだろうか? 俺の答えはノーである。況してや今回のは酷かった。足が縺れたと倉間は言っていたが、全くどうやったら男の乳首をピンポイントで摘むことが出来るんだ。おかしな話だろう、胸を触られたくらいなら判る、判るんだけど、触ると摘むでは随分な差があると俺は思うのだ。お陰でみっちり倉間に開発された身体は素直に反応するわ俺の口からも変な声が出るわそれを周りの奴等に聞かれるわ、これを怒らないでいられる人間がいたら俺はそいつを尊敬するよ。

「南沢さーん、ほんとに事故だったんですって、許して下さいよ」
「お前の言い訳聞き飽きた」

 あくまでツンと言い放ってやる。しゅんと項垂れる倉間の様子にもうそろそろ許してやってもいいのかな、そう思う俺はきっと甘いんだろう、きゅっと拳を強く握って気を引き締める。あんなことが二度も三度もあってはたまったもんじゃない、ここは俺のためにも倉間のためにも心を鬼にしなきゃいけないんだ。
 二人の間に少しの沈黙が流れて、ああやっぱりそろそろ許してやんねーと可哀想かな、俺がそう思い始めた頃。微かに遠くの方から「わー避けて避けて!」そんな声が聞こえてきて、俺は倉間の遠く後ろの方を見る。何かが凄いスピードで向かってくる、やばいと思った時には遅かった。

「あだっ!?」
「ひぁっ!」

 飛んできたのはサッカーボールのようだった、それが見事に倉間の後頭部にクリーンヒット。当然身構えていなかった倉間は突然の衝撃に前に倒れる。
 そこまで、ああそこまではよかったんだ。あろうことか前の方に伸びた倉間の手は俺の股間部分を思いっきり掴んだ。だから触ると掴むとでは大きな違いがあるだろう? あまりの恥ずかしさにもう笑うしかない俺に倉間も慌てて手を引いた。

「違っ、南沢さんも見てたでしょ!? 事故っ、俺悪くないですって!」

 ああそうだろうな、ボールがぶつかったのはお前のせいじゃないさ、俺も判ってるよ。だけど毎度毎度の言い訳は本当に聞き飽きたんだ。
 バチーン、と乾いた音が響く。倉間の右頬で真っ赤な紅葉がこれでもかと主張していた。



言い訳だらけ
fin.
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企画サイト青春ボイコット様への提出作品です。
おふざけ内容となりましたが、個人的にはかなり楽しく書かせて頂きました(笑)
素敵な場をありがとうございました!












2011.12.08-  

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