家では愛猫が待っている。帰るといつも不機嫌そうに体を擦り寄せてくる可愛い飼い猫。
 そんなものだから、俺は決して寄り道はしなかった。待ち人ならぬ待ち猫がいると思うと寄り道なんてしていられない。真っ直ぐ帰って抱き締めてあげたい。それくらいに溺愛している。
 今日も学校が終わって友人の誘いを断り帰宅した。ああやっと触れ合える、そう思うと口元がだらしなく弛んでしまう。
 扉をゆっくりと開けて中を覗いた。あれ、珍しいな。いつもリビングの方から顔を覗かせる愛猫の姿が見当たらない。靴を脱ぎ捨てて短い廊下を渡りリビングへと入る。明かりを点けて辺りを見回すけども、何処にも愛猫の姿はなかった。
 代わりに開いている筈のないベランダの窓。嫌な予感がしてさっと血の気が引いた。
 最悪な想像を振り払うかのように首を振って、俺はきゅっと手を握りしめる。物陰にいやしないかと色々見て回るが何処にもいない。
 それならば、と他の部屋も見て回った。トイレ、浴室、台所、――そして俺の部屋と回ったところで、体を丸める小さなそれに気がついた。
 安心してふぅ、と息を吐く。漸く見つけた愛猫は、俺のベッドの上で静かな寝息を立てていた。
 全くお騒がせな猫だ。俺は苦笑しながら珍しい紫の柔らかな毛並みを撫でてやる。若干耳がぴくりと動いたが起きる気配はない。
 俺は広く空いたスペースに横たわった。愛猫を抱くようにして目を閉じる。疲れたんだ、必死になって探したから。だから少しだけ愛猫と一緒に寝たっていいだろう。






「起きろよ、御主人」
「ぐぇっ!?」

 急に腹に軽い衝撃が走って、俺は飛び起きた。あれ、何してたんだっけ。そうだ愛猫と寝てたんだ。痛む腹を抱えながら俺は目を擦る。

「あれ、アツシもう起きちゃったのかな。ご飯用意しねーと」
「俺ここにいるけど」
「何だそこにいたのかよ……ぅえっ!?」

 俺は驚愕して目を見開いた。先程まで愛猫がいた場所でやけに綺麗なオニーサンが裸で座っていたのだ。不機嫌そうに目を細めて紫の柔らかそうな髪を弄っている。

「ぇ、誰ですかあんた……!」
「誰って見りゃ判んだろ、御主人」

 判らないから訊いてるんだ! 綺麗なくせに傲慢なオニーサンに俺は言葉が出ない。そもそも自分の部屋に、起きたら裸のオニーサンがいるなんてどんな展開だ。いや全く記憶にないしどうやったらそんな過ちを犯せるのかも判らない。俺は頭を抱える。
 こんな時はそう、我が愛しの猫を抱いて落ち着こうそうだそれが一番だ。俺はふらふらと立ち上がって愛猫の名前を呼ぶ。賢い子だから俺が名前を呼んだだけで来てくれる、これは俺の自慢の一つだ。

「アツシー、アツシおいでー」
「ん、何御主人」
「いやオニーサンじゃなくて、俺の愛猫呼んでるんす」
「ん、だから何って言ってんじゃん」

 ああどうしよう、言葉が通じない。目の前のオニーサンは耳をピン、と立て尻尾をぱたぱたと振りながら俺をじっと見つめている。――あれ、尻尾?

「あの、オニーサン、なんすかこれ」
「尻尾」
「いや、あの、えっと何でこんなもんついてるんすか」
「そりゃあだって俺猫だもん」

 あっさりととんでもないことを言うオニーサン。だが俺の思考は軽く停止したままだ。裸の猫耳尻尾付きのオニーサンが猫だって? いやいやそんな馬鹿な何かの間違いだ、そんなもんは漫画の中でしか有り得ない!
 だが目の前の見たことのある紫にカラメル色の瞳を見ていると何だか涙が出てきてしまう。ああまさか、信じられないけれどまさか、この裸のお綺麗なオニーサンは。

「もしかして、アツシ……さん?」

 恐る恐る愛猫の名前を彼に向けて口にしてみると、オニーサンはこくん、と一つ縦に頷く。

「最初っからそう言ってるだろ、御主人」

 紫を手で払い、カラメル色の瞳を細めて人間になった愛猫は嬉しそうに微笑んだ。



愛猫のいる生活
fin.
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2/22、にゃんにゃんの日とゆーことでにゃんこ沢!












2011.12.08-  

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