※若干喘いでたりする。






 ふぅ、と息を吐いて机に立て掛けてある時計を見ると既に二十三時を回っていた。
 ぐっと凝った肩を回すようにして、南沢は開いていた教科書やら参考書やらを閉じた。
 南沢の生活は基本、規則正しい。受験勉強に追われる身ではあるが、南沢は要領のいい男であり夜更かしをしてまで勉学に励む必要はなかった。
 くぁ、と欠伸一つ。体内時計はかなりの正確性を維持していて、定時に眠気がやってくる。

(……寝るかな)

 机に背を向け潔くベッドへと向かう。ぼふん、と沈んで南沢はその心地よさに抗うこともなく意識を沈めかけた。
 ぴりりり。枕元に置いていた携帯が、中学生の持つ携帯とは思えないような、所謂初期状態の着信音を響かせて南沢を呼ぶ。眠気眼で携帯を見ると、ディスプレイには倉間、の二文字が表示されていて南沢は躊躇うことなく通話ボタンを押した。

「あ、南沢さんばんわっす」
「ん……何時だと思ってんだよ、馬鹿」

 後輩の悪びれた様子の欠片もない軽い挨拶に一応南沢は文句をつけておく。

「すんません。南沢さん、窓開けてくれません?」
「はあ? 何でこのクソ寒いのに窓開けなきゃなんねーんだよ」
「そう言わず開けて下さいよ」

 携帯の向こうでくしゅん、と倉間が盛大な嚔をした。まさか。南沢は一つの疑惑に有り得ないと首を左右に振ったが、倉間の寒いんですよね、そんな暢気な声に確信した。
 がらがらっ、勢いよく窓を開ける。突然襲ってくる冷気に身を震わせたが、そこから見えた光景に南沢は声を挙げた。

「馬鹿、お前何でそんなとこいんだよ!」
「南沢さんが寂しいかと思って」

 既に通話は南沢の手によって切られている。それでも尚二人が会話出来るのは、そうつまり倉間がそこに立っていたのだ。
 鼻の頭まで真っ赤にしている倉間に南沢は眉間に皺を寄せた。お前ちょっとそこにいろ、そう言ってぴしゃりと窓を閉める。適当に上着をひっ掴んで、それを羽織ながら階段を降りた。

「……はぁ、寒。お前とりあえずあがれよ」

 見てて辛いから。南沢は玄関扉を開けると倉間を招き入れた。

「大丈夫なんですか、南沢さんのお母様とか怒ったり……」
「怒るも何もいねーよ、両方。帰ってくんのもっと遅ぇから」
「うわぁ、相変わらず一人暮らしみたいっすね」

 呆れたような、感心したような倉間に南沢は早く入れと急かす。
 おじゃましまーす。倉間がそう言いながら家に入ったのを確認すると、南沢は鍵を閉めた。お前のせいで体冷えたんだけど、そう文句を口にしながら倉間を自分の部屋へと通す。もう何度もそこに倉間は訪れているため、南沢にどうこう言われずとも勝手に南沢の勉強机に設置された椅子に座った。
 で、お前何でこんな時間に来たんだよ、連絡もしないで。当然の疑問を南沢が投げ掛けると、なんとなくですね、と釈然としない答えが返ってくる。

「親御さんには何て言って来たんだよ」
「え。そんなの当然内緒でこっそりに決まってるじゃないですか」

 中学生はこんな時間に外出しちゃいけませんしね、と得意気な倉間に、じゃあ外出すんな馬鹿、と南沢は悪態を吐く。
 自分だったら補導されるリスクを負いながら、わざわざ寒い中外出なんてしないだろう。たったこれだけ外に出たくらいで指先が冷たいのに。

「何か飲むか? 温かいの入れてやるけど」

 冷えた体を暖めたくて、南沢はついでに倉間にも声をかける。

「……早く帰れよ、とか言わないんですね」
「はあ?」
「いや、理由聞いたら帰らされるのかなーとか思ってたんで」
「あのなあ……」

 そこまで考えられるなら何故こんな奇怪な行動に出たんだと、南沢は溜め息を吐く。
 倉間の方は少しばかり申し訳ないと感じているのか、眉を下げて小さい体を更に小さくしていた。その様子に一応は反省してるのか、倉間に甘い南沢は苦笑して彼の頭を優しく撫でる。

「俺だってそこまで冷たくねぇよ。風邪ひかれても困るし」
「っ、じゃあ」
「ん。今日は泊まっていけよ」

 ぱぁ、と倉間の顔に花が咲く。

「その代わり、ちゃんと親御さんに連絡入れとけ。あー寝てたらあれだから、とりあえずメールくらいは入れとけよ」
「了解っす」

 倉間は縦に頷いて、上着のポケットから携帯を取り出しカチカチとキーを打つ。簡単なメールを打って送信してから、南沢ににへらと笑いかけた。その笑顔に良からぬ物を感じて、南沢は背筋を凍らせる。

「じゃあ南沢さんえっちしましょ、最近ご無沙汰ですし」
「え、……はぁ!? ちょ、うわっ、何すんだてめぇ!」

 南沢をベッドに縫い付けて倉間はご機嫌だと言わんばかりに鼻歌を交えながら南沢の服に手を偲ばせていく。
 屋内に入って少し経った今でも冷えきっていた倉間の指先はお世辞にも暖かいと言えるものではなくて、南沢はひっ、と小さく声を挙げて跳ねた。

「冷たかったっすか? 大丈夫です、南沢さん熱いくらいだからすぐ暖まっちゃいますよ俺の手も」
「て、め……! 今す、んぁっ、手、抜けぇ……っ」
「えー」

 南沢さんだってほんとはやりたいでしょ? 耳元でそう囁かれて南沢はふるふると横に首を振った。
 南沢の胸の飾りを捏ねたり引っ掻いたりしてやれば、そこを弄られることに弱い南沢の口からは次々甘い声が漏れてそれに比例するように抵抗する力も段々弱くなっていく。あ、この人もうすぐ落ちるな、倉間はそう思い口端を上に持ち上げる。

「んっ、はぁ、お前最初からこれが……あっ、目的、だろ……っ!」
「はい」

 潔くあっさりと認めた倉間に、南沢は衝撃を受ける。さっきまでのしおらしい姿はこうする為の演技だったのか。後輩に謀れた事実と甘すぎる自分に若干腹を立てた。
 が、正直なところ南沢に取っても我慢の限界である。やはり倉間に触られると気持ちがいいし、何より倉間の言う通りご無沙汰なところもあって、身体は何時も以上に敏感で正直だ。ここで止められる方が寧ろ辛いと言えるだろう。

「……お前明日何か奢れよ」

 南沢は倉間の首の後に腕を絡め耳元で小さくぽつりと呟いて、倉間の予想通り漸く南沢は倉間の手に落ちたのだった。



君がいないと夜も眠れない
fin.
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未遂ばっかでごめんなさい土下座
書くの苦手なんですしくしく












2011.12.08-  

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