南沢さんってほんとナルシストですよね。そう倉間が呆れたように溜め息を吐く傍で、俺はひたすら鏡の前で格闘していた。どうにも気に食わない寝癖があって、それを直そうと手でブラシで整えていく。別にそこまで気にしなくても、そんな倉間の言葉は耳になんて入らない。お前みたいに好き勝手に伸びた髪とは違うんだよ。俺は自前の寝癖直しのスプレーを吹き掛けた。抵抗を続けていたそこは漸く降参してくれたようで、すんなり俺の意図した方へと流れていく。
 鏡をまじまじと見つめて、やっぱりこうじゃなくちゃな。一人満足そうに微笑むと、倉間が直ったんですか? そう問い掛けてきた。ほら、見てみろよ。あぁ確かに直ってますね。完璧だろ? まあ、それなりに。
 もっと素直に褒めちぎってくれたっていいのにさ。俺は少しの不満を覚えて直ぐに鏡へと向き直す。
 思春期の悩みたるニキビすらない白い肌、整った顔立ちにサラサラの髪、自分でも思う、俺ってやっぱり美形。これだけ完璧なのだから、自らそれを汚すだなんて親が許しても俺は許さない。例え寝癖一つであってもだ。そんな風に綺麗にしている自分が好きだし、そんな綺麗な自分が好きだった。
 正直に言うと、自分以上に好きになれる物なんてないだろうと思うくらいだ。世間一般ではこれをナルシストと言うのだが、俺からすれば極普通の当たり前であって、変わった思考だという理解は欠片もない。

「加えて俺は頭もいいし。才色兼備って奴だな。倉間とは大違いだよ、本当に」
「どーいう意味っすかそれ」

 ぶつぶつと文句を垂れる倉間に俺は声を出して笑った。まあでもお前の顔は嫌いじゃないよ、笑った詫びも込めてそう付け加えておく。

「なあ、俺って綺麗?」

 もう一度だけ倉間の方へと向き直して、そう問い掛けてみる。倉間はんー、と悩んでいると見せ掛けるように唸って、

「まあ南沢さんは綺麗だと思いますよ。寝癖が有ろうと無かろうとね」

 俺の一番欲しい言葉を寄越してきたので、俺はたまらず笑みを浮かべた。
 まあ、当然だけどな。そう口にして鏡を閉じ鞄に入れてから、くらま、そう声を掛けようとしたその時その瞬間、倉間の顔がもう鼻先まで迫っていて、気づけば何やら柔らかい物が唇に触れていた物だから慌てて身を離す。

「そんでもって、そんな南沢さんが好きですよ」

 真っ赤になった俺とは対称的に自棄に余裕のある表情で俺を見つめる倉間のことを不覚にもかっこいいと思ってしまって、俺は口をパクパクさせるだけで文句の一つ発することが出来ない。
 ああ、全くしてやられたよ。そうだよ俺は綺麗な物が好きなんだ。どうやら俺がナルシストを卒業するのも近いのかもしれない。



ナルチズィスタの初恋
fin.
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ナルチズィスタ=イタリア語で自己陶酔者。
そして相変わらず意味の判らないしっちゃかめっちゃかである……\(^o^)/












2011.12.08-  

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